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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)

第43回迢空賞受賞!!
第20回齋藤茂吉短歌文学賞受賞!!




お知らせ:5/4は連休のため「週刊時評」を休載させていただきます。
5/11より通常通り掲載させていただきます。
百人一首から見る日本
text 松村由利子

 外国人から見た日本を面白がる風潮は、もううんざりだと思っていた。しかし、アイルランドのマックミラン・ピーター(この順序で名乗っているところがまたいい)の著書『英詩訳・百人一首 香り立つやまとごころ』(集英社新書)には、いくつもの発見があり、いろいろ考えさせられた。
 ドナルド・キーン氏の解説によると、初めて英語に翻訳された日本の文学作品は小倉百人一首であり、それは十九世紀半ばのことだったという。以来、いくつもの訳が出ているが、キーン氏はマックミラン訳を「もっとも卓越した名訳」と称えている。
 「英訳」でなく「英詩訳」となっているのは、従来の訳のように五七五七七という五句の形式にこだわらず、歌のもつリズムや響きを大事にしたからだろう。歌によって行数は変化し、詠み人の生き生きとした感情がよみがえる。「瀬をはやみ岩にせかるゝ滝川のわれてもすゑに逢はむとぞ思ふ」の主語を we に、「逢ひみてののちの心にくらぶれば昔はものを思はざりけり」の「逢ひみて」を we had made love とするなど、意味をはっきりさせることで印象が強くなっている。たぶん、中学生や高校生が古文のサブテキストとして読めば、とても納得するだろう。
 このあたりについて、マックミランは日本語版のための序論で「最近の日本人の多くは、古い時代の日本語を読むのが苦手のようである。それなら、英語を通 じて自らの文化遺産を見直すということをすれば、また新たな関心が刺激されるのではないだろうか。(中略)わたしたちはハイブリッドの時代に生きている。自国の言語の古典を異なる現代語で学び、異なる文化のプリズムを通 して、新たな視点で自らの文化を見るというのは、実にすばらしいことである」と書いている。
 確かに「ハイブリッドの時代」の恵みとして、詩歌を複数の形で読むのは楽しいことだ。二〇〇七年に出版されたアーサー・ビナードの『日本の名詩、英語でおどる』(みすず書房)は、与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」や柳原白蓮の短歌、萩原朔太郎の「旅上」など、さまざまな近現代の詩歌を英訳したもので、非常に面 白かった。さらりと読み過ごしていた詩句の一部が、不意に鮮やかな色彩 を帯びるということを何度も経験した。歌会の楽しさはさまざまな読みの可能性と出合うことだが、英訳された日本の文学作品を読むと、自分以外の読み方を知ることができてわくわくする。
 マックミランは「人々が孤立していくばかりで、お互いの感情を伝えられなくなっている今の時代」を非常に憂えている。現代人はインターネットや商業主義など「バーチャルな世界の住人に支配されて」いる、と彼は嘆く。そんな時代に百人一首は、「感情的、内的な世界を他者に伝えるのは自然で望ましいこと」と教えてくれている意味で、現代のコミュニケーション不全を解決する教科書になるのではないか、というのだ。
 俳句や短歌という短詩型文学においては、読者との共感や、読者と共有する文学的な知識や風土的な背景が大きな要素となる。季語という財産を共有する俳句に比べ、現代短歌はより共感を大切にすると思う。マックミランの主張する「百人一首」の魅力を考えるとき、現代短歌でコミュニケーションの楽しさ、豊かさを伝えることも大事にしたいと思わされる。
 マックミランは非常に優れた文学者である。「百人一首」には編纂者、藤原定家の好む「白」という色、とりわけ「白に白が重ねられている」イメージが頻出することなども指摘されている。それを読んだ途端に、「かさゝぎの渡せる橋におく霜の白きを見れば夜ぞふけにける」「こころあてに折らばや折らむ初霜のおきまどはせる白菊の花」といった歌が次々に胸をよぎった。子どもの頃からしらべの心地よさになじむあまり、視覚的なイメージを描いていなかったかもしれない。
 また、「百人一首」が天皇の治世への賛辞であること、最初と最後に二人の天皇の作が置かれており、いずれも親子関係にあることなどに触れ、「和歌を詠むという伝統には、今なお、天皇家の支援がある」と明言していることにも考えさせられた。マックミランが現代短歌をどう位 置づけ、評価しているかも知りたいところである。

 

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