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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)




「新かな・旧かな」考
text 松村由利子

 「塔」六月号が特集「新かな旧かな」を組んでいる。とても充実した内容だ。新聞社へのアンケート(日本経済新聞を除く全国紙、地方紙35社が回答)、結社へのアンケート(「未来」「心の花」など21結社)のまとめのほか、真中朋久、栗木京子ら九人の文章が掲載されいる。
 詳しく見ていくといろいろ考察できそうな内容だが、最も興味を抱いたのは、「かな遣いを変えるタイミング」である。
 この特集が組まれたのは恐らく、主宰者の永田和宏が昨秋、新かな遣いから旧かな遣いへ変えたからだと思われる。特集のために書かれた「旧かなの魔」はいたってやわらかな文章で、「ここらでちょっと気分転換といった軽い気持ち」で「数年前から六十歳になったら旧かなでと思っていた」ことが記されている。この軽やかさに魅了された。
 「塔」は創刊の一九五四年当時は旧かな遣いに統一されていたが、二年後に主宰者の高安国世が「發音どおりに書くという標音文字の建前からすれば、現代假名の方が自然である」と編集後記に記し、新かな遣いに統一されたという。そして三十七年間を経た九三年、「旧仮名・新仮名併用」を宣言したのが永田であった。当時の結社内の論議に比べれば、今回の選択は永田個人のものであって、それほど気負う必要もなかったのかもしれない。
 新かなから旧かなへ、という選択をする人は少なくない。花山多佳子は第五歌集『空合』の出版を機に、旧かなに移行した。ちょうど五十歳のときである。それまで新かなで発表した歌を旧かなにするのは「案外に抵抗ある作業」だったと彼女は歌集のあとがきで振り返る。「つくるときの感覚はかなり違うものだと気づいた。旧仮名にしてからは、以前なら、こうはつくらなかったという向きに行くことも多い」と記されている。中津昌子は四十九歳で出版した第三歌集『夏は終はつた』から旧かなにしており、あとがきで「旧かながまつわらせるもの、旧かなが歌において育んできたものを、身をもって潜ってみたいと思ったからです」と述べている。一昨年、第四歌集『夏羽』から旧かなに変えた梅内美華子は、例外的に三十六歳と若いが、作歌を始めたのが高校時代と早かったことを考慮すべきだろう。
 馬場あき子の場合は、少し変わっている。第一歌集『早笛』で旧かな遣いを用いた馬場は、第二歌集『地下に灯る灯』から第七歌集『ふぶき浜』までは新かな、第八歌集『晩花』以降は旧かな、という変遷をたどったのである。時代性、社会性の濃い第二歌集の内容は、新かなにマッチしていたが、だんだんに古典の世界と往還する歌とのバランスがとりにくくなったのだろう。『晩花』が出版されたのは、馬場が五十七歳のときだった。
 あとがきには、前年に既刊歌集七冊を一冊にまとめた際、「その後の私の一つの迷いに表記の問題が残った」と書かれている。

 今はじまった新しい問題ではないし、双方の表記のどちらにも難点がある。歴史的かなづかいに切りかえたから何かが解消するというような問題でもなく、あるいはいっそう迷いが深まることかもしれない。しかし、決断して、本歌集の上梓を契機に私の歌の質に少しく近いと思われる歴史的かなづかいに拠ることにした。

 覚悟の感じられる文章であるが、この「難点」「迷い」を感じている歌人は多いのではないだろうか。「五十歳から六十歳にかけて」という時期が、かな遣いを考え直す一つの節目のように見えるのも興味深い。自分の歌の表記について、絶えず問い続けてゆかなければ、と思わされる。

 これから二年間、川本千栄さん、広坂早苗さんと時評を担当します。どうぞよろしくお願いします。

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