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「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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誤読を恐れること
text : 大辻隆弘

 『短歌研究』1月所載の嵯峨直樹「近藤芳美と『愛国』短歌」を読んだ。現代における政治詠の困難を捉えたいい文章であると感じた一方、ある危険性をも孕んだ文章だと感じた。
 彼はこのなかで、政治的言説の散文性と、の短歌の韻文性の相性の悪さを次のように指摘する。

「元来、政治は詩歌にはなじまない代物である。政治的言説は議論を成立させる為にあるのだから本当ならばロジックを正確に組み上げたものでなくてはならない。他方、詩歌にはレトリックを駆使した結果 としての不正確や、曖昧さ、いいかげんさつまるところ非論理こそが求められる。」

 このような二元論的な対照をもとに、嵯峨は、インターネットの発達による〈歌壇〉コニュニティの崩壊が、政治詠の「誤読」に結びつく可能性を指摘する。

「インターネットは、政治的主張を込めた短歌が不特定多数に閲覧される可能性を持たせてしまう。(略)ごく単純なイロニーをイロニーと解釈せず、文字どおり読まれるなどということがあり得るのがインターネットという場なのだ。(略)こういった状況下で政治詠を成立させるのは極めて困難である。私たちがもし、政治に異議を申し立てたいならば、短歌での表出を堪え、他の手段を選択すべきだろう。政治のせり出している時代だからこそ、歌人は慎重にならなくてはならない。」

 嵯峨の指摘するように、インターネットというメディアによって、短歌の「レトリックを理解しない」不特定多数の読者を生んでいることは実感できる。私自身、そのような人々による恣意的な解釈に困惑した経験も持っている。その意味では「歌人は慎重にならなくてはならない」という主張も分らなくはない。
 が、問題は、このような状況のなかで歌の存在意義をどこに策定するか、ということである。
 嵯峨の主張に従えば、自分の主張が「誤読」され利用されることを避けるためには、短歌の中にこめられた政治的主張はぎりぎりまで明晰であらねばならないことになる。それは近藤芳美の短歌がそうであったように歌のなかに「理性のかがやき」を求め、「無意識のドロドロに身をまかせる」ことを忌避してゆくことに繋がってゆくだろう。
 私はこのような主張をすることが短歌のためによいこととは思わない。短歌はむしろ、「誤読」される危険性を孕んだ「無意識のドロドロ」を言葉の「あや」によって掬うことを、もっとも得意とする詩形だと思うからである。

     えひめ丸引き揚げ
  アメリカに淡き感謝を言う父の映像ののち再び静か       棚木恒寿『天の腕』

 たとえば、この歌の中に「日米安保体制への批判」や「米国一国主義への追従」などといった明白な政治的主張を読み込むような読者は、相手にする必要はない。この歌の「淡き」という形容詞の選択に、どのような作者の心の陰影があるか。また、「〜のち再び静か」といういいさしの形にどのような複雑な心情がこもっているか。そのような歌の言葉の「あや」の背後にある「無意識のドロドロ」が感じ取れる読者。そういう少数の読者の存在を信じて歌うこと。それ以外に、短歌という詩形が存立する余地はないように思われる。
 言葉が限りなく表層化し、情報化し、記号化する現代。嵯峨のこの文章は、その現代の状況を正しく捉えてはいるだろう。が、歌に関わる人間が成すべきなのは、その表層化を追認し、「誤読」を恐れて、歌の内容を散文化させることではあるまい。たとえ衆寡敵せずといえども、その潮流に抗ってゆくこと。嵯峨の言葉を借りるなら、そこにこそ「短歌の倫理」がある、と私には思われる。

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