帝都怪盗浪漫銀仮面
第四話「交戦」


第三話「招待」
『銀仮面!』

 口調は様々だが、一様に驚きを持って異口同音に叫んだ。
 叫んだあと、銀仮面を中心にして、扇形に散開する。
 前衛にさくらとカンナ、後衛にマリア、紅蘭、その間にすみれ、アイリスという基本形だ。
 これは、霊子甲冑があろうと無かろうと変わらない。
 もう一人、指揮を執るものが別にいたら違うのだろうが。

「花組のみなさんが、私の招待に応じて下さったこと、この銀仮面、光栄の至りであります」
「女を待たせるとはいい度胸ですわね。それは誉めてさし上げてよ」

 優雅に語る銀仮面に、すみれがかなり逆なでする言い方で返すが、銀仮面は怒りもしない。
 仮面で見えないが、シルクハットをかぶり直したのは苦笑したのを隠すためかも知れない。

「これは、手厳しい」

 声は、笑っているようにも聞こえた。

「銀仮面、あなたは人間なの?魔物なの?」

 はかりかねて、マリアは単刀直入に聞いてみた。
 こうして話している限り、銀仮面は確かに人間に見える。
 今年の初頭に戦った、三人・・・いや、四人と言わざるを得ないのか・・・の上級降魔は、どこかしら人間離れした外見的特徴を持っていた。
 まあ、この格好は、十分に人間離れした外見的特徴と言えるかも知れないが・・・。
 しかし、こうして対峙してみて、銀仮面からは確かに霊力でなく妖力を感じるのだ。
 上級降魔ほど強大ではない。
 しかし、今の自分たちに勝てるかどうかはわからなかった。

 銀仮面は、即答しなかった。
 ややあって、

「どちらだと、思われます?」

 その声は、今までの気取ったものとどこか違って聞こえた。

「マリア、どうせ倒さなきゃいけないんだ。倒して口を割ってもらおうか・・・!」

 カンナが腰をやや低くして、拳を構えた。
 拳を交えた方が解ることもある。

「では、そろそろ幕間も終わりでしょうかね」

 銀仮面は、どこからともなく紫の薔薇を一輪取り出した。

「いくぜっ!」

 先陣を切って、カンナが飛びかかる。
 一撃必殺を狙った動きだ。
 銀仮面は即座に反応してカンナに向かって薔薇を投げる。

「きくかあっ!」

 カンナの拳は薔薇を引き裂いて、銀仮面に迫る。
 だが、引き裂いた薔薇の花びらが一瞬、カンナの視界を覆った。

「!?」

 次の瞬間、カンナは投げ飛ばされていた。
 腕を捕まれ、一本背負い気味に投げられたと解ったのは、視界が逆転してからだった。
 カンナが地面に激突する寸前に、銀仮面はすっと手を引いて衝撃を和らげた。
 型どおりの、綺麗な柔道だった。

「真宮寺さくら、いきます!」

 さくらは律儀に叫んでから、荒鷹ではなく、もう一本用意して置いた木刀を手にして叩きつける。

 ゆら・・・

「えっ!?」

 さくらの目の前で、捉えたと思った銀仮面が消えた。

「さくら!うしろよ!」
「そ・・・!」

 そんな・・・と言いかけた言葉が途中で止まった。
 軸足を払われて、その場に転がされたのだ。

「きゃっ・・・」

 背中をしたたかに打つ前に、一瞬銀仮面に支えられたので、受け身をとることが出来た。

 ・・・いつの間に、私の後ろに・・・

 人間離れした動きだった。
 その銀仮面の横に回ったマリアが、さくらを支えた直後の銀仮面の肩口を狙って撃った。

「!!」

 だがこれも、瞬時にしてかわす。
 そのまま、投網弾の照準を合わせようとしていた紅蘭の目の前へ動き、その手から砲身をもぎ取った。
 ひょいとそれを手近の池の中に放り込む。

「あー!ウチのほかくくんを!」

 叫ぶ紅蘭の横からアイリスは、少しコントロールできるようになった電撃を銀仮面に向けて放つ。

「方陣一仙、火走!」

 銀仮面は片手から炎を放ち、これを相殺する。

「神崎風塵流!飛燕の舞!」

 その直後、すみれがしかけた。
 霊力を込めた高速の一撃!

キィンッ!

 いつの間に取り出したのか、銀仮面が抜きはなったレイピアによって止められていた。

「・・・さすがはすみれさん・・・。今のは危なかったですよ」

 銀仮面はどことなく嬉しそうに言うと、力の向きを変えて長刀を流した。

 強い・・・・・・・・・・・・。

 全員が一様に思った。
 上級降魔でも不思議のない強さだった。

「二人以上でしかけてこない潔さはさすがと言うべきかも知れませんが、それではわたしには勝てませんよ。それとも・・・、みなさんの必殺技を拝見いたしましょうか」

 レイピアを収めつつ・・・どこに収めているのか不明だが・・・銀仮面は六人を見渡す。

「そのようね・・・」

 その悠然とした態度に、さすがに悔しがりながらもマリアとしても認めざるを得ない。
 人間相手と手加減して勝てる相手ではないことがよくわかった。
 しかも銀仮面は、花組のメンバーに重傷を負わせないように戦っている。
 これは、本気で戦っても勝てるかどうか怪しいものだ。
 もちろん、半年ぶりの実戦と言うこともあるが、それを差し引いてもこの強さは異常だ。

「みんな、本気で行くわよ!」

 その言葉に頷いて、さくらが霊剣荒鷹を抜き、紅蘭が爆弾付きのチビロボを取り出す。
 本格的な対魔戦闘だ。

「戦いの場にあっても・・・いや、そうあってこそ、あなた方は美しい・・・」
『は?』

 いきなり、思いっきり場違いな台詞を銀仮面がつぶやいた。
 あまりに気障な台詞に、動こうとした六人全員、足が止まった。
 だが銀仮面は、少なくともその隙に攻撃はせずに、

「大神少尉は、幸せな男ですね・・・」

 そう、すみれに向かって言った。

「・・・お兄ちゃんがいたら、絶対に負けないんだから・・・」

 大神の名が出て、少し寂しさが募ったのだろう、アイリスが意地になって言い返す。

「そう・・・ですね。彼がここにいたら、私は勝てないでしょう」

 銀仮面は、わずかに顔を伏せ、何かに耐えるようにつぶやいた。
 だが、次の瞬間面を上げて、

「しかし、今この場に大神一郎はいない・・・!」

 それまでの気取った台詞とは全く気迫の違う、冷徹とも言える口調で言い放った。
 こうなると、仮面に刻まれた紫の斜め十字が、迫力を持ってくる。

「さあ、第二幕と参りましょうか!」
「よっしゃあ!がんばりや、ウチの改良型チビロボ9号から16号たち!」
「方陣五仙、散華!」

 紅蘭の放ったチビロボが、空中で次々と火に包まれて迎撃される。
 銀仮面は、直接花組メンバーを傷つけるのでないときは、かなり炎を強めに放っていた。
 しかし、紅蘭も負けてはいない。
 迎撃されたものの、完全に破壊されるようなことはなく、銀仮面をやや遠巻きにして搭載させていた煙玉を炸裂させた。

「むっ・・・」
「マリアはん!」

 マリアは目視で確認しなくても、相手を捉えることが出来る。
 十歳にもならずに、彼女を革命の闘士にした能力だった。
 そして、銀仮面は、銃弾の動きが見えないはず・・・。
 三発の銃弾が、今度こそ捉えたか・・・・!

くんっ!
『!?』

 捉えたと思った銃弾が、銀仮面に当たったかと思われるところで散乱して、あらぬ方向に飛んでいった。

「な・・・」
「これは・・・いったい・・・」
「そんな攻撃では・・・」

 銀仮面は話しながら炎を一払いして、煙幕を吹き飛ばした。

「塚本刑事と同様、いつまで立っても私を捉えることは出来ませんよ」

 塚本、という名前に聞き覚えがあったのはすみれだけだが、つまりは、警察がここまで銀仮面に対して出し抜かれた理由がこれだと言うことは解った。
 事実かも知れない。
 結局ここまですみれの攻撃以外は、かする気配すらなかった。

 なぜ・・・すみれの攻撃だけ・・・。

「なるほど」

 マリアが考え込んだとき、納得がいったというようにすみれが告げた。

「タネはばれましてよ、銀仮面」

 すみれは正式な神崎風塵流の構えをとる。

「あなたの妖術も、無敵ではありませんわね」

 すみれが常に見せる、自信に満ちた言い方だ。
 その射抜くような視線に、銀仮面はふっと息をもらした。
 仮面の下では笑っていたのかも知れない。
 すっと薔薇を取り出し、正面からすみれに相対する。

「では、踊りの相手をつとめさせていただきましょう」

 優雅な足取りですみれとの間を詰める。
 速いが、戦士の動きと言うよりは舞踏家のような動きだった。

「神崎風塵流、白鷺の舞!」

 長刀の先端が、集中したすみれの霊力で白く輝く。
 接近してきた銀仮面に、完璧な間の取り方で命中するかに見える。
 ここから銀仮面は超速でかわしに来るか、と思えたとき、

「方陣七仙、剣華!」

 銀仮面の手にした薔薇から、花びらと同じ紫の炎が吹き出し、剣となった。
 その炎の剣が長刀を跳ね上げる。
 しかし、跳ね上げられたというのにすみれはどこか勝ち誇ったように微笑んだ。
 その笑いのまま、二撃、三撃と加えていく。
 銀仮面は避けずに払った。

「そろそろ、手を取らせていただきましょうか?」
「ご冗談は、この後になさい・・・!」

 すみれの動きが、瞬間的に加速する。

「!!」
「神崎風塵流、隼の舞!」

 これまでの数倍の速さで、霊力がついていかずに輝きが無くなった長刀が銀仮面に迫る。
 そして、今度は命中寸前に銀仮面の姿が消えた。

「ふんっ」

 そのまますみれは見もせずに柄元を後方に突き出す。
 いつの間にかすみれの背後に回っていた銀仮面の顔面を見事に捉えたかと思われた。
 が。

するっ・・・
『!!』

 突き出された柄が、あらぬ方向にそれた。

「やっぱり、そういうことですの」

 銀仮面に背を向けたまま、平然とすみれは言った。
 銀仮面は、やれやれとでも言うように薔薇の炎を収める。

「さすがはすみれさんですね。こうもあっさり見抜かれるとは」
「あなたがおしゃべりなんですのよ」
「すみれ・・・いったいどういうことなの?」

 事情の解らない五人は呆然とするしかない。

「どうなさいますの?ご自分でお話なさる?」
「出来ればあなたの解説をお聞きしたいですね」

 銀仮面は、隙だらけのはずのすみれの背中に対して、あえて何もしなかった。
 無論、すみれとしてもそれを確信しているからここまでの態度をとっているのだが。
 もっとも、あまり嬉しい確信でもない。

「では言って差し上げますわ。あなたは、霊力がないかあるいは霊力の微弱な攻撃を、はじき返す力がある。
 生じた反発力を、踏みとどまることなく自分の動きに変えればあんな人間離れした動きが出来るのでしょう。
 だから、カンナさんの拳や、私の霊力を込めた一撃はかわせなかったのに、さくらさんやマリアさんの攻撃をかわすことが出来た。
 そして、通常の攻撃を跳ね返すその力は、黒之巣会の魔操機兵や、降魔と同じ能力・・・。
 いかがかしら?」

 最後の一節に力を込め、銀仮面に視線をぶつける。
 銀仮面は、一度シルクハットに手をやって、

「・・・さすがすみれさんです。申し分のない解答ですよ」

 と、心から賞賛している口調で言って、拍手した。

「お目にかけましょう・・・。常に私を取り巻いている円陣一仙、炎凪・・・!」

 ゆらり、と銀仮面の姿が朧になり、その周囲を陽炎のようなものが取り巻いているのが見えた。
 気流のようにも見えるそれは、銀仮面の内から外へ流れていた。
 おそらく、意図的に見えるようにしなければ、肉眼では全く見えないだろう。
 だが、こうしてその全貌を見ると、かなり強固な防御のようだ。
 効果は、既に実証済みである。

「今度は、その自信までうち砕いて差し上げますわ」
「では、こちらも相応の技を持ってお答えしましょう」

 陽炎がまた不可視になり、代わって今度ははっきりと見える鮮やかな紫の炎が銀仮面を取り巻いた。
 対して花組も霊力をみなぎらせる。
 先手を放ったのは、遠距離攻撃の効くさくらとマリアだ。

「破邪剣征・・・桜花放神!」
「スネグーラチカ!」
「方陣二仙、灼薙!」

 抜き放ったレイピアとともに、巨大な炎が一閃する。
 桜色の風と雪娘と、真っ向からぶつかり合い、相殺する。
 この攻撃力も生半可ではない。
 上級降魔猪の炎に比しても勝るとも劣らないほどの・・・。
 しかし、それだけの攻撃ならば、振り切ったときに隙が生じる。
 そこを、アイリスの念動力と、紅蘭のしかけた投網が捕らえた。

「今や、カンナはん!」
「味なことを!円陣三仙、焼去!」

 銀仮面の全身から炎が吹き出し、可視と不可視の網を焼き切った。
 しかし、その間にカンナは自分の間合いまで詰めている。

「受けてみろ、あたいの拳を!」

 自分の肉体というものは、もっとも霊力を乗せやすい媒体である。
 白い残像をともなった彗星のような拳が、骨をも砕けよとばかりに、銀仮面の防御陣を引き裂いていく。

「ハアアアァッッ!」

バチイィィィンンッ!!

 やけに乾いた、爆発音が響き渡った。

「やるじゃねえか・・・」

 カンナが口笛を吹くような仕草をしてから、不敵に言った。
 銀仮面は避けるのでも流すのでもなく、カンナの一撃を真っ正面から掌で受け止めていた。

「円陣二仙、密壁・・・。さすがは桐島流伝承者。噂に違わぬどころか、それ以上ですよ」
「そうかい、誉めてもらって嬉しいけどよ、何にも出ねえぜ」

 カンナは、この優男をかなり見直すことにした。
 単なる軽薄な勘違い男なら、ここまで拳が熱くなることはない。
 一対一なら、ここからいくらでも力比べをしたかったところだが、今は連携の方を重視した。
 ふっとカンナが力を抜くと、銀仮面の身体が前にでてきた。
 さすがに、かなり力を集中せねば今の一撃を止められなかったのだろう。
 それ故の隙ができた。

「いっけえっっ!!」

 殴り飛ばすのではなく、上空へ跳ね上げてやった。
 少々無茶かと思ったが、やけにうまくいった。
 銀仮面を飛ばした先には、以心伝心だけでそこにすみれが待っていた。

「神崎風塵流、胡蝶の舞!」

 すみれの霊力が、炎のごとく燃え上がり、落下中の銀仮面を捉えた。

「ぐっっ・・・!」

 銀仮面が初めて、まっとうな苦痛らしき声を上げた。
 とっさにマントを背中から外すと・・・・、

『ああああっっっ!?』

 背中から翼を生やして滑空し、すみれの作り出した炎の池の中に頭から突っ込むのを回避した。

 ずざざざざざ・・・・っ

 着地に当たって、砂ぼこりを立ててしまったのが不本意だったのだろう。
 裾を優雅な仕草で払う。
 背中から存在感を漂わせる黒い翼と相まって、どこか高貴にさえ見えた。
 仮面の眉間に刻まれた紫の斜め十字が、どことなく表情のようにも見える。
 それは、魔の者の持つ雰囲気・・・。

「決して、見くびっていたつもりはなかったのですが・・・。大神少尉抜きでここまでとは思いませんでした」
「六対一でこれでは、誉められている気はしないわ」
「誉めているのですよ」

 マリアの反発に、律儀にも答え返す。

「あなた方はその美しい姿のままで、これだけの力を使うことが出来る・・・。それは、誇るべきことではないですか」
『・・・・・・・・』

 みんな、銀仮面の翼を見つめながら、何とも答えられなくなってしまった。
 霊力・・・本来人の身に余るかも知れない自分の力を、素直には喜べない半生・・・いや、まだ四分の一生ほどだ・・・を生きてきた彼女たちなのだ。
 だが同時に、その力があるからこそ得た今の帝劇での生活が、仲間が、そしてあの男が、かけがえ無いと思う彼女たちなのだ。

「さて・・・もう一幕か二幕演じたかったところなのですが・・・」

 翼を生やしたままで、マントをシルクハットの中にしまい、かぶり直した。

「屋敷内と連絡が取れなくて外から応援が来てしまったようですね」

 言われて気がついたが、建物の方に人の動く気配が感じられる。
 先ほどから必殺技をぶつけ合っていたから、こちらにも気づいたかも知れない。

「残念ながら、今日はここで幕引きとさせていただきましょう」
「待てよ、逃げられると思っているのか」

 カンナが、銀仮面の正面に回り込む。
 すみれが背後をとり、あとの面々はそこへ対応できるように遠間で包囲した。

「まだ、あなたに問いただしたいことは山とありますのよ」
「私にも、まだ語れないことがあります」

 顔を伏せながらも、背後のすみれへの敬意を感じさせる答え方だった。

「男の内緒事は感心しませんわ」
「大神少尉は、そうでしたか?」

 丁寧な言い方だったが、そこにはすみれに向けた者ではない敵意が微かに込められていた。
 気づいたのは、すみれとマリアぐらいだったが。

「あなたに、少尉の何が解ると言いますの?」

 その敵意を見過ごすことが出来ずに、すみれは言い放つ。
 そこに、反発ではなく悲しみを・・・少なくとも銀仮面は感じ取ったのだろう。

「わかりませんよ。何も・・・・・・・・・・・。そして彼も私のことなど知らないと言うでしょうね」

 わからないと、知らない。
 と言うことは、銀仮面はかつて大神と会っているのだろうか。
 ならばなおのこと、

「逃がしませんわ。滑空型のその翼ではここから飛んで逃げることもできないでしょう」
「滑空型というのはその通りですが、だからといって使えないと言うのは違いますよ」

 ゴオッッッ!

 銀仮面が掲げた右手に、燃えさかる火球が出現する。
 今まで交戦してきたのが何だったのかと思えるほどのすさまじい炎だった。

「極めて有意義な時間でした。今日のところは引き分けと言うことで」

 銀仮面はここでもう一度すみれの方を見た。

「警官の諸君にはもう一回眠っておいてはもらいますが、脱出はどうかお早めになさって下さいね。それでは・・・少しお下がり下さい」

 掲げた手に膨れあがった火球を、自分の足下に叩きつけた。

「方陣四仙、光爆!」

ドカアアアンンッ!

 派手な爆発音とともに爆風が発生し、瞬時にして銀仮面の身体が宙に舞い上がった。

「それではまたお会いしましょう!麗しのみなさん!」

 そう言い残して、銀仮面の姿は夜の空に消えた。
 あとに、幾重も薔薇の花びらを舞落としつつ。

「引き分け・・・ですって・・・」

 銀仮面の姿が消えた方を見つめつつ、すみれはその美しい唇をかみしめていた。
 今の一撃を見れば、銀仮面に自分たちをあっさりと殺せる力があったことは明白である。
 それなのに、花組全員、せいぜい軽い打ち身程度の怪我しかしていない。
 そして、あの様子では宝物も予告通りとっていったのだろう。

「銀仮面・・・・この屈辱は忘れませんわ・・・」

*    *    *    *    *    *    *

 翌朝の新聞に、今度は文句無しに一面で銀仮面の記事が掲載された。
 そして、盗まれた宝物の金額とともに、巻菱子爵への告発状も掲載されていた。


 ささやかに生きる人々の住まう家々を強奪、破壊し、己が示威のためだけに屋敷を築いた罪。


 おそらく、裁判で取り上げられることはないのだろう。
 法律に謡われる罪ではない。
 しかし、銀仮面の真の目的がそこに隠されているように見えた。


 なお余談ではあるが、裁判に掛けられることこそ無かったものの、銀仮面に狙われたことで家名がおとしめられた巻菱子爵は、息子の政略結婚で挽回を謀ることにしたそうである。



正式公開、SEGAサクラ大戦BBS平成十一年一月二十八日
第五話「襲来」


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