「第14章宇宙は減速膨張から加速膨張へ?」で超新星から計測した距離と赤方偏移の関係が私の予測した計算式と合わないということを昨年書いたまましばらく放置していましたそこで書いていたように解決策はある程度考えていたのですが、どうしても納得のいかない部分があったことと、仕事の忙しさのために結果的に一年が過ぎてしまいました。威勢良く世界へ向けて英語で発信すると書きましたがやや自信がなくなりかけました、取りあえず日本での皆さんの反応を見ることにします。
 ここではなぜなかなか書けなかったかも含めて説明します。
まずどのようにして超新星を観測することによりその超新星までの距離がわかるかを簡単に説明します。
銀河の中にはたくさんの星がありますが、ある種の星が最後に爆発した時に見られる現象として超新星といわれる現象があります。この超新星は、非常に短い時間にその明るさが変化し最も明るい時には銀河と変わらないほどの明るさを持っているものがあり、何十億光年先でも十分に観測できます。この超新星の中でも、、Ta型と呼ばれるものは、その極大時の絶対等級は、−19.5程度であることが今までの観測データやそのメカニズムの理論的検討からからわかっています
絶対等級Mがわかっていますので、見かけの等級mを観測すれば、距離が算出されることになります。距離D(メガパーセク)は、以下の式から算出されるということです。
  
 μ = m−M = 5LogD + 25   (M=-19.5) ・・・・・@

超新星から距離を測定することについて説明している文献によると@式のようになるということですので、そして実際のデータとして下記の文献のものを使用しました。
(Type Ia Supernova Discoveries at z > 1 From the Hubble Space Telescope: Evidence for Past Deceleration and Constraints on Dark Energy Evolution Adam G. Riess、et al.  arXiv:astro-ph/0402512 v2 31 Mar 2004)
http://www.citebase.org/fulltext?format=application/pdf&identifier=oai:arXiv.org:astro-ph/0402512
からgold “high-confidence data”(Table 1)のみを使用しグラフにしました。

                   Table 1
SN Z m-M
SN1990T 0.04 36.38
SN1990af 0.05 36.84
SN1990O 0.0307 35.9
SN1992aq 0.101 38.73
SN1991S 0.056 37.31
SN1991U 0.0331 35.54
SN1991ag 0.0141 34.13
SN1992J 0.046 36.35
SN1992P 0.0265 35.64
SN1992ae 0.075 37.77
SN1992au 0.061 37.3
SN1992al 0.0141 34.12
SN1992ag 0.0262 35.06
SN1992bl 0.043 36.53
SN1992bh 0.045 36.97
SN1992bg 0.036 36.17
SN1992bk 0.058 37.13
SN1992bs 0.063 37.67
SN1992bc 0.0186 34.96
SN1992bp 0.079 37.94
SN1992br 0.088 38.07
SN1992bo 0.0178 34.7
SN1993B 0.071 37.78
SN1993H 0.0251 35.09
SN1993O 0.052 37.16
SN1993ah 0.0286 35.53
SN1993ac 0.049 36.9
SN1993ag 0.05 37.08
SN1993ae 0.018 34.29
SN1994M 0.0244 35.09
SN1994Q 0.029 35.7
SN1994S 0.0161 34.5
SN1994T 0.036 36.01
SN1995K 0.478 42.48
SN1995az 0.45 42.13
SN1995ay 0.48 42.37
SN1995ax 0.615 42.85
SN1995aw 0.4 42.04
SN1995ac 0.049 36.52
SN1995ak 0.0219 34.7
SN1995ba 0.388 42.07
SN1995bd 0.0152 34.11
SN1996C 0.0276 35.9
SN1996E 0.425 41.7
SN1996H 0.62 43.11
SN1996I 0.57 42.81
SN1996J 0.3 41.01
SN1996K 0.38 42.02
SN1996U 0.43 42.33
SN1996ab 0.124 39.2
S1996bo 0.0165 33.82
SN1996bv 0.0167 34.21
SN1996bl 0.0348 36.17
SN1996cl 0.828 43.96
SN1996ci 0.495 42.25
SN1997E 0.0132 34.02
SN1997F 0.58 43.04
SN1997H 0.526 42.56
SN1997I 0.172 39.79
SN1997N 0.18 39.98
SN1997P 0.472 42.46
SN1997Q 0.43 41.99
SN1997R 0.657 43.27
SN1997Y 0.0166 34.54
SN1997ai 0.45 42.1
SN1997ac 0.32 41.45
SN1997aj 0.581 42.63
SN1997aw 0.44 42.57
SN1997as 0.508 41.64
SN1997am 0.416 42.1
SN1997ap 0.83 43.85
SN1997af 0.579 42.86
SN1997bh 0.42 41.76
SN1997bb 0.518 42.83
SN1997bj 0.334 40.92
SN1997cn 0.0175 34.52
SN1997cj 0.5 42.74
SN1997ce 0.44 42.08
SN1997dg 0.0297 36.12
SN1997do 0.0104 33.73
SN1997ez 0.778 43.81
SN1997ek 0.86 44.03
SN1997eq 0.538 42.66
SN1997ff 1.755 45.53
SN1998I 0.886 42.91
SN1998J 0.828 43.61
SN1998M 0.63 42.62
SN1998V 0.017 34.47
SN1998ac 0.46 41.83
SN1998bi 0.74 43.35
SN1998ba 0.43 42.36
SN1998bp 0.0104 33.21
SN1998co 0.0171 34.68
SN1998cs 0.0327 36.08
SN1998dx 0.053 36.97
SN1998ef 0.017 34.18
SN1998eg 0.0234 35.36
SN1999Q 0.46 42.56
SN1999U 0.5 42.75
SN1999X 0.0257 35.41
SN1999aa 0.0157 34.58
SN1999cc 0.0316 35.85
SN1999cp 0.0104 33.56
SN1999dk 0.0141 34.43
SN1999dq 0.0136 33.73
SN1999ef 0.038 36.67
SN1999fw 0.278 41
SN1999fk 1.056 44.25
SN1999fm 0.949 43.99
SN1999fj 0.815 43.76
SN1999ff 0.455 42.29
SN1999fv 1.19 44.19
SN1999fn 0.477 42.38
SN1999gp 0.026 35.62
SN2000B 0.0193 34.59
SN2000bk 0.0266 35.36
SN2000cf 0.036 36.39
SN2000cn 0.0233 35.14
SN2000dk 0.0164 34.41
SN2000dz 0.5 42.75
SN2000eh 0.49 42.41
SN2000ee 0.47 42.74
SN2000eg 0.54 41.96
SN2000ec 0.47 42.77
SN2000fr 0.543 42.68
SN2000fa 0.0218 35.06
SN2001V 0.0162 34.13
SN2001fs 0.873 43.75
SN2001fo 0.771 43.12
SN2001hy 0.811 43.97
SN2001hx 0.798 43.88
SN2001hs 0.832 43.55
SN2001hu 0.882 43.9
SN2001iw 0.34 40.71
SN2001iv 0.397 40.89
SN2001iy 0.57 42.88
SN2001ix 0.71 43.05
SN2001jp 0.528 42.77
SN2001jh 0.884 44.23
SN2001jf 0.815 44.09
SN2001jm 0.977 43.91
SN2002dc 0.475 42.14
SN2002dd 0.95 44.06
SN2002fw 1.3 45.27
SN2002hr 0.526 43.01
SN2002hp 1.305 44.7
SN2002kd 0.735 43.09
SN2002ki 1.14 44.84
SN2003az 1.265 45.2
SN2003ak 1.551 45.3
SN2003bd 0.67 43.19
SN2003be 0.64 43.07
SN2003dy 1.34 45.05
SN2003es 0.954 44.28
SN2003eq 0.839 43.86
SN2003eb 0.899 43.64
SN2003lv 0.94 43.87



赤方偏移 z = 0.05 までのデータを用い式@で計算しグラフを作るとFig.1のようになります。


Fig.1 赤方偏移0.05以下のデータの赤方偏移と距離の関係を黒いドットで表しています。
黒いラインはz=e^(x/R)-1 (zは赤方偏移、eは自然対数の底、xは天体までの距離、Rは宇宙の曲率半径を表しここではRを150億光年としグラフを作成しました。第9章相対性理論の修正 を参照してください。)

Fig.1 のデータから私の説(第9章相対性理論の修正)では宇宙の曲率半径は約150億光年ぐらいになることがわかります。低い赤方偏移ではその赤方偏移の原因ががドップラーであろうが宇宙が閉じていると考えようがその予測されるラインには大きな差はもたらされません。もっと高い赤方偏移では赤方偏移がどのような原因によってもたらされるかによりその予測されるラインはずいぶん変わってきます。それをFig.2にあらわします。


Fig.2 超新星の観測により得られた赤方偏移と距離の関係

Fig.2での赤のラインはドップラーで赤方偏移を予測した場合のラインです。宇宙の果てを150億光年とし150億光年先でvは光速度cになるとしています。その時zは z = ((1-(v^2/c^2))^0.5/(1-v/c)-1
緑のラインは曲率半径Rの球の表面のように閉じている宇宙を考慮しており赤方偏移はzは z = e^{asin(x/R)}-1 
灰色のラインは平坦に広がっていく宇宙で光の減衰だけが曲率半径Rの宇宙と同じ場合でzは z = e^(x/R)-1
青のラインは緑のラインの距離をz+1倍に
黒のラインは灰色のラインの距離をz+1倍にしています。

いずれも eは自然対数の底、Rは宇宙の曲率半径、xは天体までの距離を表わします。
Rをここでは150億光年としました。
いずれも小さな赤方偏移(例えば0.05以下ぐらい)ではいずれのラインも大きな違いはありません。ところが大きな赤方偏移を示す部分においては赤・緑・灰色のラインは実際のデータから大きく離れています。定常宇宙モデルは失敗なのでしょうか?
 少なくとも主流の人たちは赤いラインのドップラーで赤方偏移を説明していないことがこれでわかります。ドップラーで説明していると光速度cで後退すればそこからの光の波長は無限に引き伸ばされやってこないはずなのですが、現在では光速度cをはるかに超える速度で遠くの天体は後退しておりそこからも光は普通にやってくると考えているらしいのです。ドップラーで赤方偏移を説明するのは不可能なため宇宙空間の膨張とともに光の波長も同様に引き伸ばされると現在では説明しています(微小な空間に分割しその間をドップラーで説明する手法では可能だということですが ( http://www005.upp.so-net.ne.jp/yoshida_n/kairo36.htm  )、他ではそのような説明は見たことがありません)。私が宇宙論を学び始めたころは赤方偏移はドップラー効果によるものであり、光の速さで後退するところが宇宙の果てでそこより遠くからは一切光はやってこないと説明していました。同じビッグバン宇宙の説明でも以前と今では根本的にその考え方が違います。
 ドップラーでは説明できないように定常宇宙でもこれらのデータを説明できないのでしょうか。
 私の考えている定常宇宙では緑のライン(z = e^{asin(x/R)}-1)で示すような赤方偏移と距離の関係があるはずです。さらにもし遠くの天体ではボイドによる凹レンズ効果によってより遠くにあるように見えるとしても球の表面のように閉じていかずに平坦に広がってゆく宇宙を表している灰色のライン程度になると予想されます。
 このような食い違いには何か理由があるのではと考え緑色のライン、灰色のラインをそれぞれz+1倍遠くにあるようにラインを引いてみました。そうするとそれぞれは青のラインと黒のラインになります。不思議にも黒のラインは実際のデータのドットとかなり一致しているように見えます。 z+1倍することに何か意味があるのでしょうか。それとも偶然なのでしょうか。私にはこの一致はとても偶然とは思えませんし、これこそが定常宇宙モデルの重要な根拠になるような気がします。
 真の超新星の明るさを予測する上で計測された明るさの値に対していろいろな補正をしなければいけないのですが、その補正が不十分なのではないかと考えてみました。例えば赤方偏移zを示す天体ではそこから来る光の波長はz+1倍に伸びています。またtime dilatationの効果により本来の時間経過よりz+1倍に伸びています。光の波長の伸びにより一つ一つの光子のエネルギーは1/(z+1)に減少し、また時間経過の伸びは単位時間当たりの地球に到達する光子の数を1/(z+1)に減少させます。これらの効果により赤方偏移もtime dilatationも無い場合に比べてエネルギーは1/(z+1)^2に減少することになりますから真の距離を計算するには計測された光のエネルギーを補正し(z+1)^2倍にしなければいけません。もしこのエネルギーの減少に対する補正をしていなければ、明るさは距離の二乗に反比例しますからz+1倍も真の距離より遠くにあるかのように見えます。私の本来予測したラインの距離をz+1倍にすることにちょうど合致します。
 もしかして、専門家の人たちはこの補正をしていないのでは、と考えたのですが、これはあまりにも簡単な補正でありいくらなんでも専門家がこのような補正をせずに済ますなどありえないことに思えます。それで文献の記載の中にこのような補正をしているのかどうかを探しましたがそのような記載をなかなか見つけられませんでした。 補正は取り扱う宇宙モデルによって変わって来るので補正前のデータだけを示しているのかもしれません。

 私にとってこの章に書いていることは諸刃の剣です。これらが補正していないデータなら定常宇宙にとっては非常に都合のよいことに思えますが、もし補正済みなら逆に私の定常宇宙モデルにとってかなりきびしいものです。何とか定常宇宙にあわそうとするなら本来あるべき位置よりもっと遠くにあるかのように見える原因を探さなければいけません。自説に対して不利になる可能性がある内容ですが、皆さんにこの問題に興味を持ってもらい客観的に判断していただくきっかけになればと思います。


 

17  定常宇宙モデルは観測データに本当に一致するか?