異常なリストラ・解雇の横行をおさえ、雇用の拡大・創出を

――雇用危機を解決するための日本共産党の緊急提案

1999年11月8日 日本共産党

〔日本経済の基盤をも危うくするリストラの規制は政治の責任〕

長引く不況のもとで、もっとも深刻なのは、失業統計が戦後最悪の水準を毎月記録するなど、雇用危機が急激に進行していることです。そのうえ日産自動車二万一千人、NTT二万人、三菱自動車一万人、大銀行の統合による人員削減など、日本資本主義の歴史のなかでも例のないような大規模なリストラ・人員削減が計画、実施されています。

大企業の工場閉鎖や設備廃棄などのリストラは、そこでの雇用削減にとどまらず、下請け企業・関連中小企業の雇用にも深刻な打撃をあたえています。

乱暴なリストラに拍車をかけているのが、グローバル・スタンダード(アメリカ基準)の名で持ち込まれている株主利益率(ROE)を最大の基準とし、せまい目先の利益の大きさだけを競う経営です。大企業がリストラを発表すれば株が上がるという異常な風潮が支配的になり、企業の業績いかんにかかわらずリストラをするという、傍若無人なリストラ至上主義が横行しています。

「国際競争力の強化」を大義名分にしていますが、実際は、目先の利益を出すためだけのリストラは、人材の流出、技術力や社員の志気の低下をもたらし、長期的視野にたった企業の成長に悪影響を及ぼしはじめています。

これには財界の中からさえ、「簡単に解雇に踏み切る企業は、働く人の信頼をなくすに違いない。そして、いずれ人手が足りなくなったときには、優秀な人材を引き止めておけず、競争力を失うことになる」(奥田トヨタ会長)として、狭い意味での利潤追求だけに走って人員を削減するやり方に強い危惧(きぐ)と警告の声があがっています。

そもそも膨大な貿易黒字や輸出量などを見ても、日本の大企業の大勢が「国際競争力」を失ったなどということは到底できません。

いま日本の大企業は、”リストラをしないと会社がつぶれる”などとしながら、”売り上げは落ちても利益だけは増やす”という「減収増益」路線をはしっています。だから、黒字の企業も、成長産業とされるバイオや情報通信産業でも、軒並みリストラ計画をたてているのです。

しかし、こんなことを大企業がこぞってやれば、大規模な雇用破壊を起こし、経済の原動力である個人消費と設備投資をいっそう減退させ、日本経済全体に大きな打撃となります。結局、それぞれの企業も大きな痛手をこうむってしまいます。まさに大企業による不況大運動です。

このようなリストラの嵐(あらし)を放置していては、国民の暮らしはもちろん、日本経済やものづくりの基盤そのものも大もとから危機にさらすことになります。大企業が目先の利潤追求だけに目を奪われているいまこそ、日本経済をどうするのか、雇用や国民の暮らしをどう守るのか、政治の役割発揮が求められています。

ところが政府がやっていることは、雇用を守るどころか、企業が抱えている「三つの過剰」のひとつに「過剰雇用」をあげ、”人減らしをすればするほど税金をまけてやる”という仕組みまでつくってリストラを激励することです。

しかし、「過剰雇用」といいますが、ヨーロッパに比べても異常に長い労働時間やサービス残業を前提にした、つくられた「過剰」にすぎません。雇用対策も看板だけで、昨年秋に「百万人雇用創出・安定」を打ち上げたものの、雇用を創出するどころか、完全失業者を二十万人以上も増やしました。

日本共産党は、異常なリストラ・人員削減をおさえ、雇用を守るルールを確立するとともに、新たな雇用創出と失業者へのセーフティーネットを抜本的に強化するため、以下の緊急提案をおこないます。

1、異常なリストラ・解雇をおさえ、雇用を守るルールを確立する

もともとわが国の労働条件は、「過労死」「サービス残業」などに示される長時間過密労働や「単身赴任」など会社のために生活や家族も犠牲にさせるなど、世界でも異常なもので”ルールなき資本主義”などと批判されてきました。

それでも財界・大企業は、日本には「終身雇用」や「年功賃金」など、「日本的経営」による”会社ルール”があると自慢してきました。いまおこなわれているリストラは、それすら投げ捨てするもので、文字通りなんのルールもない社会にしていこうというものです。

ヨーロッパ諸国では、ドイツの「解雇制限法」、フランスの「経済的理由による解雇の防止と職業転換の権利にかんする法律」をはじめ、イギリスやイタリアなど多くの国で労働者の雇用上の権利をまもる法律が整備されています。

ところが日本には、解雇規制法や企業組織変更にあたっての労働者保護法がありません。最高裁などの判決で「自由に解雇できるものではない」として、「整理解雇四要件」(注記)を明示した判例はありますが、法律になっていないために、社会的ルールとして確立していません。希望退職や転籍出向を強要するという、事実上の解雇はまったくの野放しです。

政府は、「労使間の問題であり、一律に法律で規制するのは適当でない」として、法制化を拒否していますが、ヨーロッパでは労使間の交渉では雇用を守れないからこそ解雇規制法がつくられました。

ヨーロッパ以上にリストラ・解雇が野放しの日本で、解雇規制法の制定など、リストラをおさえ、雇用を守るルールをつくるのは当然です。また、こうしたルールは、個別企業だけの対応では難しい面もあり、法制上の整備が必要です。

(1)解雇規制法を制定する

日本共産党は、一九九六年以来、国会に解雇規制法案を提案してきましたが、その後の新たな事態にも対応できるよう、これをさらに充実させたものを国会に再提出します。その主な内容は次の通りです。

〔一方的な解雇を禁止し、希望退職・転籍などのルールを確立する〕

(1)判例でうちたてられてきた「整理解雇四要件」を法律として明文化する。

(2)希望退職という仮面をかぶった退職強要をなくすために、希望退職については、本人の同意と十四日以内の同意取り消し(クーリングオフ)権を確立して、あくまで本人の意思が尊重されるようにする。

(3)転籍についても三十日間の熟慮の期間を保障し、文書による身分保障を含む転籍条件の明示と、それに違背した場合の本人同意の取り消しを確立し、強要をきびしく禁止する。

(4)不当に解雇された場合には、裁判などで争っている間は就労権を認めることで不当解雇のやり得をなくす。

(5)これらの規定はパート労働者にも適用する。

※「整理解雇四要件」

  1. 企業の維持・存続ができないほどのさしせまった必要性があること、

  2. 解雇を回避するあらゆる努力がつくされたこと、

  3. 解雇対象となる労働者の選定基準、人選が合理的なこと、

  4. 以上について、労働者個人および労働組合に、事前に十分な説明をして了解をもとめ、解雇の規模、時期、方法などについて、労働者側の納得を得る努力がつくされていること。

〔解雇を目的としたいじめや嫌がらせを禁止し、人権侵害を厳しく取り締まる〕

大企業のリストラ・人員削減は、過剰でもない労働者やなんの落ち度も責任もない労働者を容赦なく切り捨てるものであるため、やり方もきわめて異常です。

たとえば、希望退職に応じない場合には、「座敷牢(ろう)」や「隔離部屋」に閉じ込めるなどのいじめや嫌がらせで精神的に追いつめるという人権侵害が横行し、社会的にも大問題になっています。

解雇規制法案に、こうした行為を禁止する措置を盛り込むとともに、労働大臣が、いじめや嫌がらせ防止のためのガイドラインを定めて企業を指導するようにします。(「セクハラ指針」などの例があります)

〔労働基準監督署が退職強要などを日常的に監視し、取り締まる〕

違法な退職強要や人権侵害のいじめ、嫌がらせなどにたいして、労働基準監督署の、告発を受けつける窓口を強化するとともに、告発がなくても違法行為を起こさせないために、日常的に監視し、きびしく取り締まるようにします。

そのために、監督官の大幅増員など必要な体制を確保します。また、人権擁護委員会が機敏に対応するよう、機能と体制を強化するとともに、労働基準監督署との相互通報制度など協力体制を確立します。

(2)分社化などにともなう雇用と労働条件のルールをつくる

最近、企業の事業部門や工場を別会社にする分社化や合併など、企業組織や経営者の変更をおこなう企業リストラが増えていますが、労働協約のあつかいなど、雇用と労働条件にかんするルールが確立していません。

そのため分社化を「いったん全員解雇」「給与二割カット」など、解雇や労働条件の一方的切り下げに利用するやり方が拡大しています。

しかも、政府は、分社化・企業分割とそれを使ったリストラをやりやすくするために、新しい仕組みをつくる法整備をすすめていますが、労働者にどういう深刻な影響がでるかは検討さえしておらず、”ノン・ルール”状態をいっそう拡大することになります。

ヨーロッパでも、かつて企業再編や合併、譲渡がひんぱんにおこなわれ、労働条件の一方的な切り下げが問題になりました。

そこで欧州連合(EU)は、一九七七年に吸収や合併など企業組織変更にともなう解雇を禁止する「既得権指令」(企業譲渡の際の労働者の権利保護に係る加盟国の法制の接近に関する指令)をだすなど、ヨーロッパ規模での基準・ルールをつくり、それにもとづきドイツでも、フランスでも、イギリスでも、企業組織の変更にあたって労働者の既得の権利を保護しています。

日本でも、次のことを中心的内容とした「企業組織再編に伴う労働者保護法(仮称)」を制定します。

(1)企業組織の改編を理由とする解雇は禁止する。また、解雇・人員削減をするために、分社化や営業譲渡を”抜け道”にするやり方を厳しく規制する。

(2)企業分割や営業譲渡、移転によって、労働者を移動させる場合は、本人同意を原則とし、労働条件も従前どおり移転することとする。

(3)労働協約は一年間は、その効力を継続し、無協約状態をつくらないようにする。

(4)労働者代表との事前協議を義務づける。

(3)五十五歳一律転籍など年齢による雇用契約の変更や採用制限を禁止する

いま中高年の自殺が急増し、男性の平均余命を縮めるまでになっています。この背景には、五十五歳になったら全員転籍にしたり、希望退職を強要するなど、年齢によるリストラのひろがりと採用差別があります。

日本労働研究機構(労働省所管の特殊法人)の調査では、求人に年齢制限をつけている企業は八三・九%におよび、その上限の平均は三十七・三歳です。これが中高年の失業率を大きく引き上げています。

しかし、法律では六十歳未満の定年は許されておらず(高齢者雇用安定法)、それ以前の年齢による雇用の打ち切りは、違法行為です。中高年をねらいうちにした年齢要件でのリストラという脱法行為を規制するための措置をとります。

また、アメリカには年齢差別禁止法があり、厳格に運用されています。日本でも、採用にあたっての年齢差別をなくすルールをつくるべきです。

(4)事業所の閉鎖、移転、縮小の際の自治体との協議の仕組みをつくる

大規模な事業所の閉鎖、移転、縮小などは、地域経済と自治体にもはかり知れない影響を及ぼします。進出するときには税金や上下水道など至れり尽くせりの条件を求めるのに、工場閉鎖などのリストラは経営の判断で突如として発表されています。

自治体の仕事は「住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること」「労働組合、労働争議の調整、労働教育その他労働関係に関する事務を行うこと」(地方自治法第二条)と定められており、影響が大きい一定規模以上の事業所の閉鎖、移転、縮小などについては、関係自治体への届け出と協議を義務づけます。

2、サービス残業の根絶、労働時間の短縮で雇用を拡大する

労働時間の短縮が雇用拡大の決め手になることは世界の常識です。フランスでは、政府が労働時間を短縮する法律をつくり、雇用拡大に着実な成果をあげています。

財界系のシンクタンク・社会経済生産性本部の試算では、サービス残業を廃止すれば九十万人の雇用を拡大でき、残業をゼロにすれば百七十万人、あわせて二百六十万人の雇用拡大効果があるとしています。

いまこそ政治が、サービス残業の根絶をはじめ、長時間労働の解消に本格的なとりくみを開始すべきです。

(1)サービス残業を根絶する

サービス残業は、減るどころかリストラによる人員不足もあって増える傾向にあります。サービス残業が犯罪行為であることは小渕首相ですら認めざるをえませんでしたが、政府・労働省は、サービス残業問題を労使間まかせにし、たまたま告発があって発見しても、規定の残業代を支払わせる指導をするだけです。

これでは企業にとっては”サービス残業のやり得”です。サービス残業の根絶に、政治の責任としてとりくむべきです。

このための緊急の措置として、

(1)事業所に労使委員会を設置し、職場点検と是正の権限をもたせる

(2)悪質な企業には、労基法上の割増金や罰金のほか、「賠償金」を労働者に支払わせるなど、企業にとってサービス残業は割に合わない「高価」なものにする
――ことを主な内容とする「サービス残業根絶特別措置法(仮称)」を制定します。

(2)残業そのものを減らしてゆく

いま大企業は、「過剰雇用」などといってリストラ・人員削減を強行していますが、このリストラは残業やサービス残業を前提にして構想・計画されています。これでは、長時間過密労働も残業もなくすことはできません。

長時間労働、残業を前提にしたリストラ計画をやめさせることが重要です。残業をゼロにするだけで、百七十万人の雇用拡大効果があると試算されており、残業の削減による雇用拡大に向けて政府も、経営者団体も真剣なとりくみを開始すべきです。

また、欧米ではほとんど一〇〇%の年休取得が、日本は約五〇%の消化率にとどまっており、年休の完全消化をはかることも雇用拡大に効果があります。

(3)ヨーロッパなみの労働時間短縮に向け本格的なとりくみを開始する

日本の総労働時間は千八百七十九時間とドイツやフランスより三百時間〜四百時間も長くなっています。これが日本特有の「過労死」の原因にもなっています。

この短縮は、人間らしく働ける労働条件をつくるうえでも、雇用を拡大するうえでも不可欠です。日本政府は、年間千八百労働時間を達成することを国際公約していますが、これを実現するだけでも二百万人を超える雇用拡大効果があります。ドイツなみの千五百時間にすれば、約六百万人の雇用拡大効果があります。

3、政府と自治体が本来やるべき仕事をやって新しい雇用を創出する

雇用危機を打開するためには、リストラ・解雇をおさえ、労働時間の短縮で雇用を拡大するとともに、新たな雇用を創出していくことが重要です。

(1)介護、防災、教育など、国民の安心・安全を支える分野での雇用を拡充する

 介護、防災、教育など、国民の暮らしと安全に不可欠な分野での人員不足が深刻です。ホームヘルパーは、厚生省の試算でも、介護を必要とする高齢者すべてにサービスを提供するには、あと二十五万人の増員が必要です。

消防士は基準二十万人にたいして十四万人と、六万人も不足しています。保育園の待機児童をなくすためには約一万人の保育士が必要です。また、教育でも教員を七万人増やせば全国的に三十人学級を実現できます。

(2)中小企業での雇用を守るために必要な措置をとる

 中小企業には、全労働者の七八%が働いており、この経営と雇用を守ることは雇用対策の要(かなめ)となるものです。大企業の工場閉鎖や設備廃棄など、生産の大幅な縮小をともなうリストラは、下請け中小企業や出入りの業者の倒産や雇用縮小を、”親企業社員”をはるかに上回る規模でもたらす危険があり、その意味でも、政府がリストラ支援をやめ、適正な規制をおこなう方向に転換することが大切です。

官公需の中小企業への優先発注は、雇用対策としても重要です。公共事業でも、中小企業がになう生活密着型の方がゼネコン型の大規模事業より大きな雇用効果があります。

工事規模で五億円以上と五百万円未満を比べると、五百万円未満の方が工事費百万円あたりの労働者数は二倍以上になるという研究もあります。

また、雇用調整助成金や雇用にかんする各種の補助事業が大企業偏重になっているのをあらため、中小企業に利用できる制度に改善します。

4、失業者へのセーフティーネットと仕事を

九月の統計でも、三百十七万人もの人が職を求めながら就職できない完全失業状態にあります。完全失業率は最悪だった七月より〇・三%改善されたといいますが、雇用が増えたのはパートタイム労働者で、一般の労働者は二十カ月連続で減り続けています。

こうした人たちに仕事を提供することと、職に就けるまでの生活を保障することは、政府の最低限の責任です。ところが、小渕自自公内閣は、責任ある対策をとらないばかりか、雇用保険の失業手当の国庫負担は、法律では支給額の二五%と定められているのに、一四・六%まで削り込んでいます。

(1)失業手当の延長給付など雇用保険を緊急に拡充する

雇用保険の給付期間は加入年月で違いがありますが、最大三百日間です。特別に再就職が困難な人には、六十日間の延長給付がありますが、高齢者や障害者などに限定されています。

これを緩和し、有効求人倍率がとくに低い四十五〜五十五歳(〇・三四倍)、五十五歳以上(〇・一〇倍)の失業者、および失業率がとくに高い地域でも延長給付をおこなうようにします。

新卒者の就職難も深刻ですが、新卒者は雇用保険未加入であるために失業手当もありません。こうした人たちのうち、就職の意思があって、職業訓練を受けようと希望する人には最低限の生活を維持しながら職業訓練をうけられるよう手当を支給します。

(2)臨時の公的就労―失業者の「つなぎ就労」の場を提供する

失業期間も長期化しており、次の就職口が見つかるまでの「つなぎ就労」の場を国と自治体がつくるとりくみが求められています。

政府は、失業対策として、九月から緊急地域雇用特別交付金二千億円を予算化して、各自治体が、データ入力作業や学校でのパソコン教育などの臨時的な就労の場をつくる事業をはじめました。

しかし、労働省が「新失対事業にしない」ことに固執し、原則民間委託とか対象職種の限定など、自治体にいろいろな制限をかけているために、実際には、労働者派遣会社にコンピューター入力業務を発注するなどが中心になり、失業者への「つなぎの職」を提供するようにはなっていません。

こうした制限をとりはらい、各自治体が「つなぎ就労」の場を失業者の実情に見合って提供できるように抜本的に改善します。また、予算も大幅に増額します。

(3)希望者全員が受けられることをめざして職業訓練を抜本的に充実する

職業訓練は、新しい職に就くために大切なものですが、きびしい雇用情勢のもとで、非常に高い倍率になり、多くの希望する失業者が受けられない状況があります。

職業訓練の機会を臨時的な措置や民間の専門学校なども活用して拡大します。高齢者を対象に企業に体験入社して職業訓練を受ける制度がありますが、年齢引き下げなど対象を拡充するとともに、企業が受け入れやすくするための措置もとります。

また、学卒未就職者のための体験入職が来年度から開始されますが、わずか二千人の枠しかありません。これも抜本的に増やします。


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