いまリストラ計画を発表している電機各社は、企業が破たんに直面しているわけではなく、将来性のない不況産業でもありません。「IT(情報技術)革命」とうたわれた先端産業であり、日本を代表する優良企業です。
実際、「IT産業は、中長期的には最も成長が期待される分野」(富士通の説明)といわれ、「新たな成長戦略」(同)としてリストラが推進されています。大企業の「成長」のために労働者に犠牲を押しつけるのは企業の身勝手そのものです。
各社は携帯電話、パソコンなどが不振という「半導体不況」を人減らしの理由にしています。しかしこれは、アメリカの「ITバブル」の崩壊や国内の消費落ち込みの中で過剰な設備投資をしてきたことなどに原因があり、責任は経営者にあります。
■ ドイツより年間500時間長く働く
各社の経営陣は「無駄な社員を雇っている余裕はなくなった」などといって、「過剰人員」がいるかのように描いています。すでに電機大手は不況の中で、リストラにつぐリストラで大量の人減らしをしてきました。
職場では、少ない要員で長時間労働を強いられており、労働時間こそ「過剰」です。電機連合加盟組合の年間労働時間は、2129時間におよびます。サービス残業(ただ働き)も横行しています。日本の電機労働者はドイツより年間500時間以上も長く働かされています。
■ 利益ため込んだ巨額の内部留保
これまでも電機大手は不況を利用してリストラによって高利益をあげてきました。利益をため込んだ内部留保は巨額です。グループ企業の連結決算では、日立製作所は3兆3712億円、東芝1兆5074億円も蓄積しています。
今回のリストラが「ゼロ成長でも収益の出せる体制」(富士通)、「今年度利益創出額2370億円の達成」(東芝)をめざしているように、高収益体制をつくるのがねらいです。そのために労働者も下請けも切り捨てようとしています。
■ 海外移転拡大空洞化さらに
その一方で電機各社は、海外の生産拠点をいっそう拡大する戦略です。岡村正東芝社長は「コスト競争力をつけるために海外生産にシフトすれば、当然、国内は削減することになる」(「読売」28日付)とのべています。
すでに電機産業の海外での雇用数は300万人を超え、従業員数の5割以上が海外の雇用という状況が生まれています。海外への生産移転を拡大すれば、下請けや地域経済は重大な打撃を受け、日本経済の空洞化をさらにすすめることになります。
■ 社会的責任放棄財界からも批判
大企業だけが利益をあげれば「あとは野となれ山となれ」というのは、企業の社会的責任を投げ捨てるものです。このような企業行動には政府、財界内部からさえ警告の声が出ています。
塩川正十郎財務相は、大手電機メーカーにたいし「企業者倫理が悪い。国民の生活安定という観点から企業は社会的責任がある」(28日の記者会見)と発言しました。
日経連の奥田碩会長もこれまで「従業員の幸せや、企業の社会的責任、…経済や国全体の利益を考えない経営トップは、『経営者』と呼ぶに値しない、『経営屋』に過ぎない」(昨年8月、経営トップ・セミナー)とのべていました。
企業の利益至上主義にたったリストラは、労働者の所得を奪い、国民の消費購買力を落ち込ませています。3年前に比べて「企業は全体で年間約四兆円を上回る賃金コストを節約した」(「日経」29日付)と指摘されています。
景気悪化の中で大規模なリストラを強行することは、過去最悪の5%台に達した失業をさらに深刻にし日本経済をいっそう悪化させるだけです。