日経連「労問研報告」批判 −(下)
リストラ万能で個人消費を冷やす
(2001年1月15日「しんぶん赤旗」 )

日経連報告が「人間の顔をした市場経済」などと言わざるをえなくなったのは、2年連続の賃金低下、300万人をこえる完全失業者、安全問題の深刻化、社会保障の連続改悪など、労働と生活の悪化が極限まですすみ、あまりにも非人間的な「市場経済万能論」への批判が内外から高まっているからです。
■ 「人間の労働」けっして言わず
しかし報告は、けっして「人間の労働」とは言いません。なぜなら、「人間の労働」という立場に立つなら、過労死をもたらすような長時間・過密労働の是正と人間らしい暮らしのできる賃金、雇用の保障をせざるをえなくなるからです。

すでにみてきたように、報告の主張は、「人間の労働」とは真っ向から対立するものです。雇用・就労形態の「多様化」や成果主義賃金など、労働の場に市場原理を全面的にもちこみ、雇用不安で正規雇用労働者と不安定雇用労働者を競わせ、成果で正規雇用労働者同士を競わせ、いっそうの労働強化と賃金引き下げをねらっています。

ここには、外国の経営者と日本の経営者との労働感の根本的違いがあります。アメリカ、ヨーロッパなどでは、当然のこととして、生産における「哲学的要素」として「人間の労働」を重視することは常識となっています。

ですから、「労働は人間がするもの」という大前提のうえで労働条件の交渉もし、企業間競争もするのです。だから10年前、ソニーの盛田会長(当時)が経団連の代表として訪欧したときに、労働条件を犠牲にして競争をしかけてくる日本は「アンフェア」だと、大きな批判をあびたのです。

日経連が本当に「人間」を大事にするなら、労働関係の規制緩和・撤廃などと、いっそう好き勝手に労働者を使い、首切り自由にすることを主張するのではなく、人間らしく働き生活できるルールの確立を言うべきです。解雇規制法や労働者保護法の制定、労働基準法の抜本改正こそ求められています。

■ 「国際競争力」論でごまかし図る
報告は、賃金抑制や不安定雇用の拡大の口実として、「国際競争力の維持・強化」を相変わらずもちだしています。

しかし、日本の国際競争力は強すぎるほど強く、貿易黒字は世界一をつづけ、日本の外貨準備高は3600億ドル(約42兆円)と過去最高です。「賃金世界のトップレベル」論も、こうした異常な競争力を背景とした円高為替レート換算による数字のマジックにすぎません。

また、これまでの報告は、農業など低生産部門の「高コスト」のせいで高物価になり、豊かさが実感できないので、賃金は十分高いなどと主張してきました。

しかし、ことしの報告には農業の「の」の字さえでてきません。それもそのはずです。米を含め農産物が全面的に自由化され、米価は農家経営が立ちいかなくなるほど劇的に低下したにもかかわらず、労働者の生活は豊かになっていないからです。報告の主張はまやかしとごまかしだらけです。

■ 春闘で生活守り経済の再建を
結局、日経連の主張は、まやかしの思想攻撃で労働者・国民へのいっそうの犠牲転嫁を合理化し、大企業の利潤拡大をねらうものです。すでに、「リストラ効果」で大企業の収益は急拡大し、主要427社の内部留保(かくし利益)は100兆円を突破しています。

しかし、この路線は、国民の生活不安をいっそう増大させ、個人消費を冷え込ませ、日本経済の「失われた10年」をさらにつづけるものです。

それはすでに、株価の急落や景気腰折れとしてあらわれています。

賃金抑制に反対し、賃金の底上げと男女賃金格差の是正を、「サービス残業」をなくし時短と解雇規制で雇用の拡大創出を、医療・年金・社会保障の連続改悪と消費税増税でなく逆立ち財政の是正で社会保障の拡充をなど、労働者と国民各層の切実な要求を結集した国民春闘の勝利こそ、個人消費を安定・拡大し、だれもが安心して暮らせる日本経済の国民的民主的再建につながります。 (M)


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