「羅針盤」2000年2月号外
ともに考えましょう「雇用延長」問題



◆ 労働者の希望と意志を尊重した60歳以降の雇用ルールの確立を!◆

いま、小渕・自自公政権がすすめる公的年金の改悪(支給年齢引き上げで受け取る年金総額を減らす)にともなった「60歳以降の雇用延長」が、この春闘で労使間の大きな問題となっています。

【三菱電機では、60歳以降の雇用延長を希望する者は】

56歳でいったん退職のうえ、(企業年金・退職一時金を支給して)三菱電機が再雇用するという制度が提案されています。

【再雇用後の賃金水準は】

@60歳以前(56歳以上から60歳以下まで)は、56歳の切り替え時点の80%とし、56歳時点での基礎給を50%引き下げる。

A60歳以降(60歳から65歳まで)は、基礎給をゼロとし、資格職階給に一定の係数(0.85)を掛けた金額を毎月の基本賃金とする。この結果56歳時点の賃金(例えば38万円)の50%(19万円)程度の賃金になる、との提案です。

職場からは、「60歳以降の定年延長ならまだしも、定年年齢の引き下げなどとんでもない」、「いまでも50代はリストラの対象になっているのにいったん退職すれば雇用の保障はなくなるのではないか」など、不安と心配の声もあがっています。

日本共産党は、職場の要求をまとめ、緊急に提案し、その実現のため、力をつくします。

◆定年まで安心して働ける職場めざして◆

【60歳定年を守り労働者の希望尊重のルールを】

日本共産党三菱電機伊丹委員会は、こう考えます

@60歳以降の雇用は、労働者と企業の双方必要なものです。したがって、定年年齢の引き上げを基本とすべきです。少なくとも、三菱電機の労働協約で決められている「60歳定年制」をまもり、そのうえで希望者全員の雇用延長をおこなう。

A 働き方の選択にあたっては、雇用責任、雇用期間、就労形態、勤務場所、労働条件など、情報の提供と十分な説明をし、疑問点や不安にこたえること。いかなる選択であれ、強要せず、最終的には本人の同意を得ること。選択については、クーリングオフ(14日以内の同意の取り消し)と、いったん選択した働き方を変更できる権利(例えば1年単位)を保障すること。

B雇用延長後の雇用期間や労働条件などについては、いま雇用関係にある三菱電機が責任をもつこと。やむを得ず変更しなければならない場合は、労働者との事前協議と合意にもとづいておこなうこと。

C雇用延長と引き換えにした、定年年齢の引き下げや労働条件の切り下げには反対する。

D労働条件は、就労形態の如何(いかん)を問わず,同一労働同一賃金の原則にたち、各種の資格など専門性と 熟練度を尊重すること。年齢による労働条件の差別をなくす。

E正当な理由のない雇用期間の一方的な打ち切りや労働条件の変更をしない。

◆雇用延長と引き換えに定年年齢の56歳への

引き下げと労働条件の大幅切り下げ!◆

【三菱電機の「60歳以降の雇用延長」提案の重大な問題点】

今回の提案は、これまでの労働協約(60歳定年制)の廃棄を前提に、しかも雇用延長と引き換えに労働条件の大幅な切り下げを提案していること。また、雇用延長か定年退職かの選択を一度しか認めないなど、「60歳後も働きたい」という労働者の切実な要求を逆手にとる形で、不安定雇用と低賃金労働者への再編をすすめようとしていることです。

「もっと組合も労働者の立場にたって、時間をかけて検討すべき、みんなが納得いくように」との声があがっているのも当然といえます。

◆もっと時間をかけた討論で十分な情報の提供と説明、

疑問の解明や不安の解消を!◆

職場では、「企業年金」の「改定」と「雇用延長」の問題が提案されているだけに、多くの労働者が「60歳以後の雇用延長か」「60歳での定年退職か」の選択で、自分の「これからの働き方と生活、将来の生活設計にどのような影響が出るのか」「受け取る賃金総額は、退職金をふくめてどうなるのか」将来にわたる年金への影響は」「60歳以後の雇用とその期間について、だれが保障するのか」「なぜ、60歳定年制を守ったうえで、その後の雇用を延長しないのか」などの疑問と不安、要求があがっています。

■「よく分からない」「大変困る」が8割以上

三菱電機の「春闘を前進させる会」の要求アンケートによると、「雇用延長」問題では、「大変困る」が46%、「よく わからない」が36%で、あわせると、82%となっています。

企業年金問題では、「大変困る」が15%、「もっと検討すべき」が51%、「よくわからない」が26%で、あわせると、92%にものぼります。

一般社会では、相手に十分な情報の提供やメリットと予想しうるリスクなどの説明と納得なしに契約を結んだ場合、それは無効となり、損害を与えれば賠償の責任を負うことになります。
労働者の現在と将来の雇用と労働条件について、十分な情報の提供と説明、疑問点の解明や不安の解消なしに決定することは、こうした社会的常識、ルールにも反するものです。

■ 企業側の不当な言い分

大企業各社は、「60歳以後の雇用延長」問題を、あたかも「企業側が労働者に恩恵を与えるもの」であるかのように描き出し、「従来の賃金カーブの形状をそのまま伸ばして定年延長すると大幅なコストアップは避けられない」などといって、「雇用延長」と引き換えにした定年年令の引き下げや60歳以前の賃金・労働条件の切り下げや、不安定雇用と、今よりも悪い労働条件への編成を「当然である」かのようにいっています。

そこには、大企業が年金改悪と結んで、「雇用の流動化」や「総人件費の抑制」にむけた新たな雇用・人事・賃金体系づくりのねらいがみえみえです。

60歳を過ぎた労働者の雇用・就労問題は、より根本的には日本の労働力人口が2005年をピークとして減少し、とくに15歳〜29歳の若年労働力人口が、1998年に比べ、2005年で233万人、2010年には400万人と大幅に減少することへの対応として迫られている問題です。

労働力人口の減少によって、「企業によっては必要な労働力を確保できない可能性さえ生まれる」という見方まででています。
60歳以後の雇用のあり方は、「60歳定年制」をふくむ現在の労働協約ー社会的契約を厳格に守り、そのうえにたって、一人ひとりの労働者の希望と意志を尊重したルールとして確立すべきです。

労働協約にある「60歳定年制」は、企業が労働者一人ひとりに「60歳までの雇用」を保障し、約束したものです。一人ひとりの労働者は、その契約を土台にして、自分の働き方と現在および将来の生活設計を立てています。それを、「雇用延長」の名で改悪することは許されません。

労働協約の改定が行われることはあります。しかし、改定は労働条件の維持および改善のためでなければなりません。労働協約は、それを定めた労働組合法の目的ー「労働者の地位を向上させるための権利」として労働者に保障されたものです。

その目的に反することを「労働協約の改定」として、不利益に変更し、個々の組合員に押しつけ、拘束することは法の趣旨に反するものです。判例でも、不利益なものに変更した協約については、個々の労働者の合意が必要であり、それがなければ無効とする判決がでています。

■「雇用延長」と結んだ企業年金の改悪

三菱電機では、「雇用延長」と結んだ企業年金の改悪がすすめられています。これは、企業の新会計基準の導入による「積立不足」を理由に労働者への給付を大幅に削減するものです。三菱電機の提案では、年金支給総額が15%から25%も大幅に減らされることになります。

■ 企業側にも責任が

年金制度についていえば、企業側は、その導入時にメリットを強調し、バブルの時期は、資金の運用で大きな利益を得ていたはずです。

労働者に抱かせた期待を裏切ったのですから、その責任は免れません。企業に落ち度や見込み違いがあったならば、その責任を償ってもらうのは当然のことではないでしょうか。

■ 退職金・年金は賃金の後払い

労働者は退職金規定や年金の規約を信じて、老後の生活設計を立ててきました。退職金や企業年金は賃金の後払いであり、労働者にとって基本的な権利です。単なる条件の変更というような軽い問題ではないのです。

■ 企業側の計画発表を

新会計基準のもと、退職金や年金の積立不足は、企業の負債として会計報告に計上されますが、これを一挙に解消することは難しいので、最長15年で穴埋めすることになっています。三菱電機グループの積立不足が「5400億円」とすれば毎年360億円の計上となるのです。

企業にはその責任があるわけですから、まずは企業側に計画を発表させ最大限の努力を払わせることが先決です。
具体的な条件についての協議はその先の話ではないでしょうか。


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