LOEWE multiple tubes

 

3NF(LOEWE)    

3NF  1920年代の初め頃に米国やオランダでダブルフィラメントタイプと呼ばれるユニットが二つ封入された真空管(内部で各電極が並列に接続されたもの 2A3もこの構造)が誕生しましたが、1920年代中頃には、独立した複数のユニットを封入した複合管(Multiple tube)が、ドイツ、英国、米国などで 登場しました。
 ここで紹介する LOEWE 社(LOEWE Radio AG)の複合管も1926年に登場しましたが、他の複合管と決定的に異なるのが、回路に必要な抵抗やコンデンサーまで封入した真空管を造ってしまった点です。
 また、他社はほぼ単発で短期間の製造に終わったのに対し、LOEWE は、10年以上にわたり多品種の複合管を製造したのも特筆すべき点と思います。
 LOEWE の一連の複合管で一番有名なのが、この3NF かもしれません。 この型番は、Nieder Frequenz(低周波)の真空管ユニットが3つ入っているところから来ています。
 その内部は、基本構造材にガラスを多用したドイツ古典管の特徴を良く表しています。
 ガラスステムの上部両端からガラスロッドを立ち上げ(U字型)てあり、このロッドを介して3つの電極と抵抗(4本)、コンデンサー(2本)を支持するようになっています。 中央に出力用の3極管ユニット(縦型の円筒形 LA175相当)が1つ、その両サイドに増幅用3極管ユニット(横向きの円筒形 LA199相当)が各1つ有り(何れも直熱タイプ)、その下に抵抗、コンデンサーが収められています。
 なお、各抵抗、コンデンサーは、各々ガラスチューブを被せ完全密封(各々のチューブ内も真空状態)されてあります(管内にガス等の放出を防ぐため)。
 また、中央の3極ユニットには、他のユニットからの物理的影響(金属分子の付着等)を防ぐためでしょうか、箱形に加工したマイカで囲ってあります。 ただ、極めて透明度が高いため写真では確認出来ないかもしれません。 この様に、細部に工夫の後が見られ、複合管を実現するにあたり、当時かなりの試行錯誤が有ったように感じます。
 改めて3NF を見ると、この様な複雑かつ機能美溢れる真空管を開発した当時の技術者とそれを可能にしたドイツの熟達したガラス職人に敬意を表したくなります。
  

3NF 3NF


 

2HF (LOEWE)

2HF  2HF も1926年に発表された複合管です。 このネーミングも、Hoch Frequenz(高周波)増幅用の真空管ユニットが2つ封入されているところから来ています。
 3NF が基本的に低周波増幅部の回路を集積して有るのに対し、2HF は、高周波増幅部の回路を1本の真空管内に閉じこめたものと言えます。 内部には、直熱タイプの4極管(RE074d相当)が2つと抵抗(2本)、コンデンサー(1本)がバランス良く配置されて有ります。
 U字型のガラスロッドがメインの構造材となっているのは3NF と同様ですが、各パーツはガラスステムからのピラーによってほとんど支持されています。
 写真では確認しにくいですが、抵抗、コンデンサーは中央部つまりガラスロッドの間にやはりガラスチューブによって完全密封されて一列に配置されて有ります。 また、横向きの円筒形ニッケルプレートが、その両サイドに1つずつ配置されています。
 内部にはやはりユニット相互の影響を防ぐ為と思われますが、マイカ板が組み入れられてあります。 肉眼でも良く見ないと確認できないほどの透明度の高いものです。
 ベース部分は、LOEWE の複合管独自のタイプで、足は等間隔の6ピンです。 ベースにある3カ所のガイドピンで位置決めし、ソケットに圧着固定するという特殊なタイプです。
 なお、この2HF は、3NF と比べて製造数が少なく、したがって現存している数も少ないようです。 この辺の事情に関しては、後のラジオ受信機のところをご覧下さい。

2HF 2HF


3NFB (LOEWE)
3NFB 3NFB

 3NF の後期版がこの3NFB です。 電気的にはほとんど3NF と同じです。
 全長は、3NF とほぼ同じですが、ガラスグローブの直径はふた周り位太くなっていますので、短く見えるかもしれませんが堂々たる外観の真空管です。 ガラス表面には、銀色にメタルスプレーシールドされていますので、内部の構造は分かりません。
 ただ、コーティングのはがれた部分から中を覗くと3NF とは内部の構造がかなり異なるように見えます。 まず出力用のユニットが大型化され、その位置も3NF のセンターからサイドに移動しているようですが確かでは有りません。
 (ご覧になっている方の中には、それならいっそコーティングを剥がしてしまえば良いのにと思われるかもしれませんが、この様な真空管はオリジナルの状態で次の世代に残すべきと考えています。  興味本位に状態を変化させるのは、厳に慎むべきと思います。 海外の文献でも、コーティングを剥がさず内部を確認するためX線撮影までしている例が有ります。 こうした気づかいが有るからこそ海外では、希少な真空管も現在まで残されているのではないでしょうか。)
 3NF のシリーズにはこの他に、3NFK、3NFL、3NFNetz、3NFW が有り、真空管ユニットの構成や抵抗、コンデンサーの数などは基本的に同じです。 だた、3NFK、3NFL は出力段ユニットをかなりパワーアップしてあります。

  


WG33 (LOEWE)
WG33 WG33

 LOEWE では、1930年代前半に3NF や2HF の発展型にあたるWGシリーズを新たに出しています。 このシリーズでは、各真空管ユニットが傍熱タイプとなり出力管も5極管が採用されるようになりました。 また、ヒーター電圧も50V,63Vなどと大きく変わっています(旧タイプは4V)。
 WG33 は、そのWGシリーズの第1弾として登場した真空管です。 ガラス表面には3NFB 同様銀色にメタルスプレーシールドされた上に黒の艶消し塗装がなされていますので、内部の各パーツの配置などは分かりません。
 ただ、封入されている真空管ユニットが、増幅用の3極管(AC2クラス)が2つと出力用の5極管(AL4クラス)が1つであることは分かっています。 3NF の改良版といったところです(ヒーター電圧50V)。
 WGシリーズには、このWG33 以外にWG34,WG35,WG36,WG37 が発表されています。 WG33 は3NF などと同じく回路ごと封入してあるため6ピンの特殊なベースをそのまま採用していますが、WG34 からは12ピンのベースに変更されると同時に抵抗、コンデンサーを内部に入れ回路ごと封入すると言うLoewe 複合管の特徴がほとんど失われてしまいました(逆にこの為にピンの数を増やす必要がありました)。
    


2H3N Receiver (LOEWE)
2H3N Receiver 2H3N Receiver

 これらのLoewe 複合管は、その発売当初から同社のラジオ受信機用に用いられていました。
 写真の受信機は、1926年に複合管と同時に発表されたLoewe 2H3N です。 名前のとおり2HF と3NF 各1本使用した本格的な受信機です。 前述のように必要なパーツは回路ごと2本の真空管に入っているため、ご覧のように内部には真空管以外のパーツはほとんど見られません。  あとは周波数帯別のバリコンが3つ並んでいる程度です。 これに外付けのバッテリーとアンテナ(正面からの写真の左端に一部写っています(左右各2本))そしてスピーカーを接続するだけです。
   この他に廉価版として3NF 1本のみ使用した受信機も発売されていました。 当時、この廉価版の方が良く出たようで、結果として3NF は結構製造されたようです。
 この時代ラジオは各メーカーの主力商品で、同じドイツのTelefunken やSiemens社でも自社製の真空管を組み込んだラジオを製造販売していました。 ただ、Loewe のような複合管は、他のメーカーで造られることは無かったようです。
 海外の文献には、当時ラジオはまだ贅沢品で、ドイツでは受信機に税金がかけられ、その税額は使用している真空管の数で決められていたと記載されています。 つまり真空管の数が多いと言うことは、増幅段が多く高級品と考えたからでしょう。 その税金対策としてLoewe では、この様な複合管を製造したと言う説です。
 確かに興味深い説ではありますが、それだけが理由とはとても思えません。 
 ドイツの他のメーカーでは、この様な複合管を製造していませんし(TEKADE 社が2〜3ユニットを封入しただけの複合管を一時期出した例は有りますが)、同時期に英国や米国でも複合管は造られています。
 1910年代の混沌とした時代を経て、1920年代は真空管に関する基本的な技術もほぼ確立され、次のステップへと試行錯誤が盛んに繰り返された時代です。 その為、欧米を問わず非常にユニークな真空管が多数登場したのもこの時代でした。 Loewe の複合管もそうした時代の代表的な産物と言えるのではないでしょうか。
       


Approximate Dimensions ( mm )
ITEM	overall length	diameter of bulb
 3NF		162		45
 2HF		148		45
 3NFB		156		52
 WG33		156		52

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