German Historic Tubes #04 (Post Tube)

 

Type 110(Siemens & Halske)

Type 110  Siemens & Halske社の Type 110 は、German Post Tube の原点になった真空管のひとつです。 登場したのは第一次大戦中の事で、既に紹介しました SSI とは兄弟の関係と言えます。 (開発順は、SSII とSSIII の間(1918年?)だったようです)
 SSI 等と同様、同社のDr Walter Schottky が開発したダブルグリッドタイプの4極管です。
 最初期の Type 110 は、電極等 SSI と大変良く似た感じですが、写真左の110 は1920年代初め頃の製品で、各電極を支持するガラス製のピラーが補強、改良されています。
 ガラスステムから直接伸びたピラー(左右各1本)の先がフォークの様に3つに分かれ電極を計6点で支持するようになっています。
 二重のグリッドは、一見すると SSI に良く似ていますが、細部は少し異なります。 両端にリングが有りそのリング間に極細の(髪の毛よりずっと細い)ピアノ線を一定間隔で平行に何回も往復させるという特殊な構造になっています(両グリッドとも)。 その中心部をやはり極細のフィラメント(単線)が貫通する構造となっています。
 プレートは、 SSI と直径が同じ円筒形ですが、素材は SSI と異なりニッケルのようです。 また、その長さは二倍程度の大きさがあります。
 写真右の 110 は、1920年代半ば頃の恐らく最終バージョンと思われます。
 各電極の構造は、前の物と同じですが、電極を支えるガラスピラーが3本から4本に増やされ、ピラーその物の幅も狭くするなど全体の剛性を高めるよう改良されています(マイクロフォニック対策?)。
 余談ですが、SSI も1920年代半ばぐらいまで同様の改良がなされています。 海外の文献には、第一次大戦後これらの Schottky type 4極管は、顧みられることもなく姿を消していったように記述されていますが、実際にはこの様に1920年代にも改良を加えながら生産、供給されていました。

Type 110 Type 110


OR (Siemens & Halske)
OR OR

 この OR も Schottky type4極管の一種と言える大型ダブルグリッド管です。 登場したのは1920年代初め頃で、やはり電話回線用増幅管です。
 特筆すべきは、やはり電極の支持方法と思います。 1910年代のドイツ製大型管に良く見られるガラスピラーで電極全体を取り囲むようにして支持するタイプで、ORは恐らくこの方法を採用した最後の真空管と思われます。
 その概略は写真で確認していただけると思いますが、前出の Type 110 同様ガラスステム両端から立ち上がったガラスピラーが途中で各々2本に枝分かれ(直径約2mm)し、メインの支持材となっています。 その上端で再度1本となり両端をつないで有ります。 更に特徴的なのは、この上部ピラー中央部から伸びたS字型のガラス棒が管壁内部に剛結されています。 これも電極全体の剛性を高める為の工夫と思いますが、恐ろしく手の込んだ構造と言えます。
 各電極の構造は、SSI のそれと基本的に同じです。 勿論、大きさは遙かにサイズアップされ、両グリッド、プレートともニッケルを使用している点も異なります。 フィラメントは、酸化被膜タイプの単線で、その上端部ではコイルスプリングと銅製のリボンの組み合わせによりテンションを微妙に調整するようになっています。
 なお、型番の頭のO(ゼロではありません)は、この酸化被膜(Oxide coated)フィラメントから来ているようです(次の OCK も同様)。
 ベースと足ピンは、SSI と全く同一の物を使用しています。 また、ガラスグローブは、TELEFUNKEN などのRS237 と全く同じサイズの物(RS237 の方が後から登場しますが)を使用した大型管です。
 現在ではこのORを完全に再現するのは恐らく不可能かと思います。 当時のドイツのガラス加工技術が可能にした繊細かつ優美さを感じさせる真空管で、今日では本来の工業製品の範疇を越えた工芸作品のように思えます。

OR  


 

Two versions of the OCK (Siemens & Halske)

OCK  OCK は、後に登場してくる同社のCa やDa の原点となった3極出力管です。
 1920年代中頃、海底ケーブル回線の増幅用として新たに設計されたようです。
 OCK には、左の板プレートを採用した物と右のメッシュプレートのものが存在しています。 写真のOCK は、どちらも1926年製のサンプルですので、両タイプを同時期に生産していたことになります。
 もっとも OCK の場合、開発当初もメッシュプレートを使用していましたので、こちらの方が一般的なようです(球によって逆のケースもあります)。
 写真でもお分かりのように、SIEMENS & HALSKE 社のPost Tube シリーズの中では珍しくダブルフィラメントタイプ(1つの真空管の中に2組の電極があり、内部で並列接続されている)を採用しています。 これは、1920年代の真空管に一時期採用された方式と言えます(2A3系は例外)。
 どちらのタイプもプレートは円筒形で一体成型されつながっており、板プレートの方には放熱のためのフィンが1枚づつ取り付けられています。 また、素材はどちらもニッケルを採用しています。
 内部は、各ユニットとも螺旋状に巻かれたグリッドの中心部に単線フィラメント(酸化被膜タイプ)が配置された古典的構造です。
 なお、写真では確認しにくいかもしれませんが、両タイプともフィラメント下端に取り付けたやや大きめの安全ピンのようなバネでテンションを調節するようになっています。 ちょっと面白い例と言えます。
 このOCK は、1920年代末から始まる真空管の劇的な発展期の直前に登場してきたユニークな存在で、当時のSIEMENS & HALSKE 社としても冒険的な製品で有ったような気がします。 なお、その製造期間はあまり長くなかったようです。
 (あまり知られていませんが、型番がOで始まるこのシリーズには、OCK よりプレート損失の大きな(10W強)の本格的出力管も存在していました。 欧州の代表的出力管PX4 が登場する数年前のことです。)
 

OCK OCK
 


TUBE DATA
ITEM	Vf(V)	If(A)	Va(V)	Vg(V)	Ia(mA)	Ri(ohm)	Gm(mA/V	u		
Type 110	3.2	0.55	24		3.0	13K	0.5		Vg2=24V			
OR	2.1	1.1	220	-1.7	30	3K	1.2		Vg2=80V			
OCK	3.0	1.1	220	-12	25	5K	1.4	7		

Approximate Dimensions ( mm )

ITEM	overall length	diameter of bulb
Type 110		100		44
OR		208		50
OCK		121		48

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