German Historic tubes #01

 

Type-A(Siemens & Halske)

Type-A  ドイツでは、最初に Lieben tube (soft tube)が実用化されたわけですが、より安定した特性を得るため hard tube (高真空タイプの真空管) の開発がドイツでも始まりました。
 シーメンスでの実用化第1号が、この Type-A です。 1916年の事でした。 元々電話回線用などに用いられる予定でしたが、折しも第一次大戦が始まっていましたので、多くは軍用に使われる事になったようです。
 写真の茶色い箱は、当時の元箱です。
 こうした昔の真空管が、未使用の状態で残っているのは、国情の違いも有るでしょうが、ドイツの敗戦後それらの多くが戦勝国側に接収され、その後忘れ去られた為と思います。
 Type-A は、いわゆる初期の真空管によく見られるダブルエンドタイプ(ガラス部分の上下2箇所にガラスステムを持ち、電極からのリードを取り出す構造)で、一方がフィラメントもう一方がプレートとグリッドとなっています。 
 電極構造も独特のもので、グリッドは1枚の長方形の板を梯子段状に加工した物で、その下にやや小さめのプレートがセットされています。 なお、グリッドとプレートは、四隅のガラスによって一定の間隔を保つよう固定されています。 また、その部分は、ステムから直接延びた細いガラス棒で保持されているだけです。 この様にガラスを直接構造材に使用するのは、ドイツ最初期の真空管の大きな特徴でもあります。
 フィラメントは、アーチ状の1本の細線(タングステン)で、グリッドの上1mm ぐらいの位置で固定されています。
 次の EVN171 同様、まさに3極管の基本構造を絵に描いたような真空管です。
 

Type-A Type-A


 

Two versions of the EVN171 (AEG-Telefunken)

EVN171  このEVN171 もドイツの超古典管の中で有名な真空管です。 
 Telefunken でも同様に hard tube の開発が進められ、上の Type-A とほぼ同時期に登場しました。 Type-A 同様各電極の構造に非常に特徴が有ります。
 最初にこの真空管を見たのは、25年程前、神戸の某商社のショーケースの中で飾られていたときでした。 その時は、どのような真空管か知りませんでしたが、印象が強烈でその後も頭の片隅に残っていたようです。
 EVN171 のベースには、2種類有るようで、右側のシンプルな薄板の鉄製ベースと左の一見削り出しの様な重量タイプが存在します。 ただ、どちらが古いと言うこともないようで、用途により区分していたのかもしれません。 ちなみにベースに貼られているラベルには、右の方は1916年、左の方は1917年と各々記入されています。(当時使用開始日を記入するようになっていました)
 各電極の基本構造は、Type-A と大変よく似ていますが、一番の特徴はそのグリッドの形態でしょう。 1本の線材(ニッケル?)を渦巻き状に巻いた物で、まさに蚊取り線香のようです。 その蚊取り線香の受け皿に当たる位置にあるのが、円盤状のプレートです。
 なお、グリッドの変形を防ぐために右側の球では、1本の補強材(同じくニッケル?)が渡して有り、左の球では、ガラスの構造材を2方向から渦の中心付近まで延長し補強(こちらの方が一般的)して有ります。
 各電極の支持は、Type-A と同様細いガラス棒で行っています。 フィラメントも同様にアーチ状の1本線です。
   なお、TELEFUNKEN でも、このEVN171 以降は、円筒形のプレートの中にグリッドとフィラメントを納める新設計の真空管に移行していく事になります。
    

EVN171 EVN171


SSI (Siemens)
SSI SSI

 最後は、実質世界初の4極管と言えるシーメンスの有名な SSI です。 以外に早く1917年に登場しました。
 戦争が結果的に科学技術のレベルを押し上げるのは、第一次大戦のドイツでも例外ではなかったようです。
 軍部の要求は、通信装置の可搬性を高めるための小型軽量化でした。 その為にはバッテリーが少なくて済む低電圧下で十分動作する真空管が必要でした。 当時ドイツでも前述のように最新の高真空型3極管を実用済みでしたが、軍の要求を満たすには、更なる新型管が必要だったようです。
 その新型管を開発したのが、シーメンス社の Dr.Walter Schottky で、4極管(Wグリッド管)にする事で、低電圧でも有る程度の動作を確保しようという物でした。 その名も Siemens-Schottky (SS)シリーズと言われる真空管で、ここで紹介しています SSI の他、開発順に SSII、SSIIIの3タイプが存在したようですが、今ではどれもほとんど現存していないようです。 (驚くべき事に、ショットキー博士は、当時3グリッド管(結果的に5極管)まで開発済みで一部使用されたようです。)
 ただ、SS シリーズも完成の域に至る前に翌年には終戦となり、他の真空管同様戦勝国に接収されたようです。 これらの新型管が当時戦勝国側の研究材料に成った事は想像に難くないと思います。
 なお、Wグリッド管も含めた多極管が各国で本格的に普及するのは、1920年代半ば以降ですから、当時ドイツの技術レベルの高さが分かると思います。
 SSI の各電極の構造は、当時の最新型である円筒形で、プレートは長方形の薄板(鉄?)を円筒形に丸めた物(両端は接合せずそれぞれガラス構造材に固定)です。 各グリッドも Type-A の梯子段グリッドに似たものを円筒状に丸めた形状をしています。
 また、フィラメントは、超極細の物(タングステン)が1本で、円筒部の中心を貫通する構造となっています。
 これらの電極を支持しているのがやはり全てガラスです。 メインのガラス材は、ガラスステムの側面の一部を肉厚にした部分から立ち上げ、途中から四方にさらに細身のガラスピラーを伸ばしてあります。 その各先端で各グリッドを固定しています。
 この SSI も Historic tube と呼ぶにふさわしい真空管と言えます。
   
SSI  
 
 追記; 以上紹介しました3種の真空管共通の事ですが、各電極を支持しているガラス棒(ピラー)に粟粒ほどの大きさのカラーガラス粒(結構綺麗です)が製造時に着けて有ります。 その色は、分かっている範囲で、緑、黄、水色、茶色の各色で、数は1から3個のバリエーションが有ります。
 製造時に通し番号を記入される場合もありましたが、これらのサインも製品の品質管理(製造時期やライン)に利用していた物と思われます。 なかなか粋な事をしていました。
 


TUBE DATA
ITEM	Vf(V)	If(A)	Va(V)	Vg(V)	Ia(mA)	Ri(ohm)	Gm(mA/V	u	Ra(ohm)	
Type-A	3.5	0.5	75		3	120K	0.12	14			
EVN171	2.7	0.5	90			100K	0.10	10			
SSI	2.7	0.4	36	-2	0.2	400K	0.08			
				Vg2=13V

Approximate Dimensions ( mm )

ITEM	overall length	diameter of bulb
Type-A		107		35
EVN171		113		42
SSI		112		42

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