TM tube
TM Metal
フランスでも1910年前後からFleming valve やde Forest のAudion を元に試作、研究が進められました。 米国では、Audion の特許を買い取ったA.T.&T.が長距離有線通信実用化にこぎ着け、隣国ドイツでは、Lieben tube を使用し実用化を進めていました。
今日流行のIT開発競争は、既に第一次大戦前夜の列国で国運をかけて繰り広げられていたのです。
フランスのTM tube 誕生には、一つの偶然が働いていました。 それは、当時ドイツに亡命していたフランス人技師が(ドイツのために)米国から持ち帰った最新のAudion が、第一次大戦の開戦(1914年)によりフランス軍にもたらされたのがきっかけとなったそうです。 この辺の面白いエピソードは、著名な研究家Gerald F.J.Tyne が彼の著書"Saga of the Vacuum Tube"の中で詳しく紹介しています。
ただ、TM tube はAudion の単なるコピーではなく、独自の技術や他の先端技術を凝縮したもので、当時としては画期的な真空管の出現と言えます。 しかも、戦時下とはいえ非常に短期間で完成させています。
具体的には、Audion と異なり高真空タイプ(後の主流)を採用したことや、フィラメントを覆うようにグリッドとプレートを配置した筒型電極構造(これも後の主流)としたこと。 A.T.&T.の製造部門WE社の真空管がAudion の電極構造をその後も引きずっていたのと対照的と言えます。
もう一つの特徴は、一つのガラスステムで 電極を支持するシングルエンドタイプとした事と同時に新開発のベースを採用した点です。(それまでの真空管は、白熱電球と同じベース(接点が2つしか無い)でグリッドとプレートは直接リード線を引き出していた。 この為真空管の交換も少々面倒であった。)
このTM tube で採用されたベースは、後にフランスはもちろんドイツ、英国などでも普及し欧州真空管の基本ベースとなっています(日本でこのタイプのベースは、一般にUFと呼ばれていますが、これはFrench から来ていると思います)。
受信管として使用する際のフィラメント電圧は、4Vでこれも後の欧州管の基本となっています。 高真空タイプのため送信用として使用する場合は、プレート電圧500V まで許容出来たという事です。
TM Metal は、フランスの白熱電球製造会社であったCompagnie des Lampes (ブランド名 Metal) で製造されたタイプです。
内部は、螺旋状に巻かれたグリッドの中心にタングステンの極細フィラメントが1本貫通しています。 さらにニッケル板をロール状に曲げたプレートがそれらを覆うように取り付けられています。 因みにニッケル板の一方だけがステムから伸びた支柱に固定されていて、もう一方は自由端となっています。 ベース部分は、白のセラミック板にスリットを入れたピンをネジで固定しています。 このスリットは、ソケットに差し込むだけで真空管を抜けにくくするための工夫です。
TM Metal と次のTM Fotos は外観上も良く似ていますが、TM Metal の方は球形のバルブの下部(ベースとの間)に首に相当する部分があり、容易に識別することが出来ます。
TM Fotos
このTM (Telegraphie Militaire) tube は、当初やはり白熱電球製造会社のGrammont社(ブランド名Fotos)で生産されました。 偶然もたらされたAudion が軍の指揮下Grammont に持ち込まれ、同社で解析が進められ試作段階から関与したためです。
当時はどの国も同様ですが、真空管を製造する工場などどこにも無く、白熱電球製造プラントの一部を使用して生産を始めるパターンが一般的でした。
量産タイプ決定後は、一定の生産数を確保するため前述のMetal との2社体制としています。
両タイプのTM tube を区別するため各々のブランドを冠して、それぞれTM Fotos ,TM Metal と呼ばれるようになりました。
TM Fotos もTM Metal と基本構造は同じですが、何故か材質も含め若干の相違が有ります。 特にグリッドの材質はモリブデン(Metal はニッケル)で、また螺旋構造の直径も少し大きくピッチがやや細かいようです。
また、ロール状プレートの端部加工方法や、グリッドの支持ピラーも少し異なっています。
なお、TM tube の生産を任されたFotos, Metal 両者は第一次大戦後もフランスを代表する真空管メーカーに発展したことは言うまでも有りません。
TM Fotos(blue glass envelope)
第一次大戦終結後もTM tube は改良を加えながら生産されています。 この頃になると当初の軍事用としての用途の他、新たに始まったラジオ放送の受信機向け真空管需要が急拡大する事になります。 本格的民生用真空管の誕生です(これは当時の先進列国共通の現象です)。
それらの一例として青ガラスを使用した戦後型TM Fotos を紹介します。
1920年代中頃の製品で、透明のガラスの上からラッカー等で着色したものでは無く、ガラス自体に着色したカラーガラスを使用しています。 1920年代末頃、米国でも同様の青ガラスを使用した真空管が一時流行した事がありますが、このFotos の方が数年早く、恐らく世界初のカラーガラス真空管と思います。 Fotos ではこの後にも数種類の青ガラス真空管を生産しています。
内部の構造は前出の戦中型と少し異なります。 まず、電極全体が90度回転しガラスピラーに平行に取り付けるように変更されています。 プレートのニッケル板は更に薄くなり、完全な円筒状となっています。 また、タングステンフィラメントを支持する2本の支柱の内、片方を極端に細くして有ります。 衝撃等による断線を防ぐための工夫と思いますが、他には余り見られない手法と言えます。
ベース底板もセラミック板から樹脂製の物に変更されています。 恐らく受信専用管と思います。
ところで、こうしたカラーガラスを採用した理由に関しては、いくつか聞いたことがありますが、いずれも十分納得出来るものでは有りませんでした。 この時代のラジオ受信機、特にフランスのものは、木製の本体(箱状)の上に真空管(複数本の場合が多い)だけをまるでディスプレーするように配置するスタイルが取られています。 そうしたことから恐らく外観上の美しさを追求した結果というのが最大の理由と個人的には考えています。
いずれにしても、コバルトブルーのバルブとシルバーカラーのベースとのコントラストは大変鮮烈で、フランス人の美的センスの良さには拍手を送りたくなります。
TUBE DATA
ITEM Vf(V) If(A) Va(V) Vg(V) Ia(mA) Ri(ohm) Gm(mA/V u Ra(ohm)
TM Metal 4.0 0.6 - 0.8 40 - 120
TM Fotos 4.0 0.6 - 0.8 40 - 120
Approximate Dimensions ( mm )
ITEM overall length diameter of bulb
TM Metal 117 55
TM Fotos 105 55
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