RV258 系
RV218 は、RV239,RV258 と続くこのシリーズの出発点となった真空管です。 電気的に英国のPX25 に近い特性で、大変ドライブしやすい球と言えます。 後から紹介するRV258 やRV239 を含め劇場用などの業務用アンプに盛んに使用されていました。
この球に関しては、資料が少ないのですが、今回調査した結果、登場したのは1920年代後半でPX4 より早く、また米国の250 より先に登場した可能性が高い事が分かりました。
左のRV218 は、その最初期のもの(Type I)で、テーパーのかかったベースは、1910から1920年代にかけてのドイツ中型管の特徴を良く表しています。
写真にも有るように、ベースは通常の物と異なりいわゆるメス型のタイプを採用しています。 何故この様な仕様としたのかよく分かりませんが、RV239、RV258の他 Telefunken社の戦前戦中の中大型管には良く採用されています。 ただ、市販のバナナプラグが丁度合いますので、他の特殊なベースを持つ球よりかえってソケットの自作は容易と言えます。
プレートは、ニッケルの1枚成型で、断面が楕円の筒状のものです。 フィラメントは、いわゆるトリタンで2本が平行に取り付けられています(シリーズ点火、折り返しは有りません)。 このフィラメント構造は、Telefunken の他のRV ナンバー真空管にも良く採用されています。
因みに、RV は Rohre Endverstarker(一部英語表記)の略で、出力管を意味しています。
2番目も同じくTelefunken のRV218(こちらはType III)で、まだ1920年代の製品です。 写真でもお判り頂けると思いますが、プレートがかなりサイズアップされています。 他にもグリッドの形状やフィラメントへのテンションの加え方など変更がなされています。
また、ベースも円筒状に変わっています。 材質は、真鍮でその上に黒の艶消し塗装がされて有ります。 ベース上部に白く見えるのは石綿で、ガラスグローブとベースの間に挟んでベース上部の金具部分で締め付け固定するようになっています。 この方法もドイツの中大型管では良く見られます。 接着剤による固定よりも耐熱性や耐久性に優れ、まず緩むことが有りません。
3番目は、Klangfilm のK218 です。 製造は、Telefunken の親会社AEG でKlangfilm に納入されていました。
内部の構造は、細部を除いて左のRV218 とほぼ同じですが、プレートの材質が異なるようです。 表面は艶消し銀色で何か(モリブデン?)の合金かもしれません。
Klangfilm ブランドですが、あとから出てくる有名なトレードマークはまだ無く、Klangfilm の大きなロゴがエッチングで書かれて有るだけです。 また、反対側にはAEG のロゴがやはりエッチングで入っています。
なお、このRV218 の比較的新しいタイプ(アルミベースや排気部分をベース内に納めたボトムシールの球)は、余り見かけません。 わりと早い時期に次に紹介するRV258 やRV239 に移行したのかもしれません。
RV218 をパワーアップ(プレート損失を32Wに)し、プレート電圧も800Vまで可能としたのが、このRV258 です。 欧州大陸でのオーディオ用大型3極出力管の代表格と言える存在です。
一番左は、Telefunken RV258 TypeIV で製造は1933年のものです。
RV218 との外観的な違いは、プレート表面にカーボン処理を施して有る点(プレートの大きさや形状は全く同じですが、材質は異なるようです)とプレートの支持方法(プレートを支持する2本の支柱をガラスステム下部の金属製ベルトで固定)が異なります。 また、プレート上部に台形のマイカ板を追加し、各電極の支持金具をサポートするようになっています。
2番目に、少し新しいタイプの例としてTelefunken がKlangfilm に納めたKL72401 を紹介します。 写真の物は、1939年製で Telefunken RV258 のType V の時代のものです。 Klangfilm のトレードマークが画かれるようになっています。
アルミ製のベースに代わり、排気部分もベース内に納めるように改良されています。 この様な仕様の変更は、アルミベースが1934年頃、ボトムシールが1937年頃に行われています。 つまり、このシリーズに関して、Telefunken社は、かなり遅い時期までトップシールの真空管を製造していたことになります。
内部の各電極の構造等に変更はなく、以前の物と同じです。
3番目は、同じくTelefunken のRV258 ですが、こちらは戦後に製造されたタイプです。 恐らく保守用としてある時期まで生産されたようです。
写真では、少し大きく見えますが、撮影位置の関係で、実際は左の2本と同じサイズです。 写真からも分かるように、仕様がかなり変更されています。 プレートは、8角形を扁平にしたような断面で、表面は灰色、材質自体も変更されているようです。 また、プレート上部のマイカ板は、セラミック板に変わっています。 細部には若干簡略化が見られますが、古典的な2本の平行なフィラメント部分の構造は踏襲して有ります。
4番目は、Tungsram のP41/800 で、規格はRV258 と同一です。 この系統としてはめずらしく直管でなくST形状のものです。
プレートの形状は、PX25 旧管や同社のP27/500 と良く似ていますが、その厚み(奥行き)は2倍ぐらい有ります。 フィラメントは、Telefunken と異なりオキサイドコートタイプ(次のLK7100、4624 も同様)の4本吊り構造となっています。 ブラスベースが印象的な真空管です。
次はValvo 版RV258 のLK7100で、次の4624 を見ても分かるように親会社のPhilips の影響が良く現れています。 Philips系独特のプレートやその支持方法が採用されています。
ベースは、Telefunken と同じ形式ですが、こちらは全てベークライト製となっています。 側面にはエッチングで書かれたValvo の旧タイプマークが見えます。 年代的には、1930年代後半と言ったところでしょうか。
最後は本家オランダPhilips の4624 です。 この球の元々の型番はE707 で、1932年に登場しています。 このE707 が同社の4600番シリーズにも採用され4624 というもう一つの型番を持つようになったもので、両者は特性、外観とも同一です。
写真の4624 は、少し時代が新しいようで、プレート上部にマイカ板を追加し、その部分でも電極を支持するように考えられていますが、これが無くても十分剛性は確保されているように思います(左のLK7100 はマイカ板無し)。
特性は、RV258 と同じですが、今回紹介してます各真空管の中で唯一いわゆるオス型ベースとなっています。 W4 と言われるちょっと変わったタイプで、米国のUX タイプを少し大きくしたような感じです。
なお、この4624(E707) は、傘下のMullard(英国)にもOEM で当時供給されていました。
RV258 がドイツのPX25 とするとDA30 に相当する存在がこのRV239 と言うことになります。 DA30 同様内部抵抗を小さく設定して有りますが、プレート損失自体はRV258 と同じ32Wとなっています。 このRV239 もバイアスはかなり深く、民生用と言うよりシアターアンプなどプロ用を意識した球と言えます。
左は、RV239 のType IV で、1936年製です。 ベースはアルミ製ですが、これ以前の物はRV258 の場合と同様ブラスベースに黒塗装となります。
内部は、基本的にRV258 と同じです(勿論、グリッドピッチは異なります)。
次は、RV239 Type VI で、第二次大戦中では最後のバージョンと言えます。 写真の球は、1943年製です。
プレート表面の処理が変わったのか或いは、しなくなったのか分かりませんが、その表面がダークグレーに変わっています(写真で見えるほど白っぽくは有りませんが)。 また、プレート上部のグリッドとフィラメントの支持金具をサポートする補助支柱とガラス棒(RV218 の2枚目の写真参照)が省略されています。 恐らく量産のためと思われますが、この他にも何カ所か簡略化が図られています。
最後は、Tungsram のP40/800 です。 外観は、前出のP41/800 と細部を除いて同一です。
同社の型番は、前の数字がプレート損失を、後ろの数字が最大プレート電圧を通常表すようになっています。 今回の場合、プレート電圧の方はそのとおりですが、プレート損失はRV239(RV258) と同様32Wと考える方が良いと思われます(それとも本当に40W?)。
今回ちょうど良い機会ですので、Telefunken社の中大型真空管の製造時期を表すコードの見方について紹介します。
左の写真で、型番の下に並んでいる数字の内 /(スラッシュ)の左側は、その真空管のシリアルナンバー(通し番号)でその球固有のものです。 右側の3桁ないし4桁がその球の製造時期を表します。
この数字の最初の2桁が製造月、残り1桁ないし2桁が製造年を表します。 写真の球の場合、1936年9月に製造された事が分かります。
Telefunken では、この表示方法を1928年頃から採用しており、それ以前の球は、シリアルナンバーのみ記入されていました。 当初、製造年は1桁で表示していましたが、これでは10年後には識別できなくなりますので、その後2桁表示に改められました。
例えば、1044 で有れば、1944年10月製となるわけです。
この表記は、(型番や年代で若干例外も有るかもしれませんが)その製造年月を特定する上で大変重要です。
なお、同じTelefunken でも小型管(特に民生用)では、この表示は余り見られません。 また、他のメーカー(AEG やSIEMENSなど)でも中大型管の場合同様の表記が有る場合も有ります。 もしこの様な真空管をお持ちの方は、一度確かめて見て下さい。
また、これとは別に軍に納入された球には、その納入時期(製造時期と一致するとは限りません)を表す表示が別途される場合もありました。
(米国のWE社でも同様の表示が行われていました。 ただし、WE で採用するようになったのは第二次大戦後のことです。 WE の場合、製造月ではなく週(13週単位 ただし軍用管は別)で表示していました。 面白いのは、同社も製造年は最初1桁表示で、10年後に2桁に改めています。 十年後の事まで気が回らないのは、年代や国の違いによらず共通のようです。)
ITEM Vf(V) If(A) Va(V) Vg(V) Ia(mA) Ri(ohm) Gm(mA/V u Ra(ohm) Po(W) Pa(W) RV218 7.2 1.1 440 -32 55 3600 2.1 7.0 24 RV258 7.2 1.1 800 -80 40 3500 2.0 7.1 14K 10 32 RV239 7.2 1.1 800 -180 35 2800 1.3 3.5 14K 10 32