DH Pentodes (Part 1)

 

Left to right B443(Philips), C443(Philips), RES164(Telefunken)
L416D(Valvo), PT240(Osram) and PT225(Lissen) 

B443L416D

 そろそろ3極管だけが真空管では無いという声が聞こえて来そうですので、5極出力管を何回かに分けて紹介したいと思います。 Philips社で発表された5極出力管(当然直熱タイプ)は、たちまち欧州全体に普及していくことになります。 この事は、米国市場と大きく異なる点と言えます(米国での本格的普及は1930年代の傍熱5極管登場後)。

   米国より数年早く(1927年)世界初の直熱5極出力管 B443 が本家オランダPHILIPS から発表されました。 早速同社のラジオ受信機に使用されましたが、単体での発売は翌1928年でした。 (主要な3極出力管である米国の250,245や英国のPX4より早かった事になります。)
 ベースは、当時欧州の標準であるB4タイプで、5極管ですと足が当然足りなくなります。 この為、第2グリッドは、写真のようにベースの側面に取り付けたネジ付き端子に接続するようになっています(第3グリッドは内部でフィラメント中点に接続)。 また、米国輸出用としてUXベースタイプも生産されていました。
 この形式は、5本足のB5ベースが登場(1928年)した後も標準的なスタイルとして定着する事になります。 なお、この様な形式は、B4ベースが真空管を差し込むだけで固定できたから出来た方法と言えます。 米国では当時まだ筒状のソケットにベース側面のガイドピンを通し回転させ固定する方法でした。 この為、輸出用は、第2グリッド用としてベース上端(ガラスと接する部分)から金具を引き出す方法を取っています。
 B443 の内部の構造は、写真では分かりませんが、縦長のプレート(ニッケル?)が水平方向に取り付けられています。 こうした水平プレートは、ちょっと奇異な感じがするかもしれませんが、この時代(1920年代)他の真空管(特に欧州大陸のメーカー)でも良く見られます。
 B443 も後期の物は、側面の端子の無いB5 ベースとなります。 なお、外観は次のC443 と同様(旧型より少し背が低い)のため省略します。
 次の C443 は、B443 のパワーアップ版と言える球で、1930年頃登場しました。 ベースは、当時新型のB5 タイプを採用しています。
 プレートは、やはり水平タイプでB443 の物を少し幅広にした感じです。 その他はB443 の構造を踏襲しています。
 この頃Philips では、5極管に"PENTHODE"と言う愛称を使うようになり、真空管にも型番と共に記入して有ります。
 RES164 は、B443 のTelefunken 版で電極の構造も B443 とほとんど同じです。 このRES164 は、1930年代に入りナチが台頭し始めた頃、その宣伝用として普及させた国民ラジオ(VE301シリーズ)の初期タイプに出力管として使われた事でも有名です。
 余談ですが、最近海外の文献で分かったことですが、1920年代末頃から傘下のValvo とは別にPhilips の真空管をTelefunken社の工場でも造らせていたと言うことです。 両社は、思っていた以上に当時親密な関係が有ったようです。 このRES164 もそうした経過で生まれたようです。

 4番目は、同じくB443 のValvo版 L416D です。 Valvoも当時Philips グループに入っていましたが、電極構造は全く異なっています。
 プレートは、一般的な縦型タイプに変わっています。 プレート自体は楕円の筒状で、ちょっと特殊なメッシュタイプを採用して有ります。 また、プレート上下にマイカ板を採用した当時(1930年代前半)としては先進的構造と言えます。
 B443 他のシリーズは英国でも買収したばかりの Mullard社で生産販売されていましたが、外観はベースの色を除き同一ですので省略します。 ここでは、英国市場で販売されていた同クラスの球を紹介します。
 PT240 は、M.O.Valve 製(Osram ブランド)で、フィラメント電圧は2Vとなっています。 プレートは、Philips 系のMullard 製を除き英国では珍しく水平プレートを採用しています。 プレート形状は、同じ年(1929年)に登場したPX4 初期タイプ(斜めプレート)の物を小さくした感じと言えます。
   最後は、当ギャラリー初登場の Lissen社(英国)のPT225 です。 同社は、1920年代初め頃設立の会社で、当時普及しだしたラジオの部品やキットの販売が主で、真空管自体はもっぱら他社からOEM で調達していたようです。 写真のPT225 は、ベースの特徴からMAZDA の前身であるBTH 製で1920年代末頃の物と分かります(当時英国では、ベースにも各社固有のデザインや色が有り、ベースだけでメーカー識別が出来るようになっていました。 詳細は、また別の機会に紹介出来ると思います)。
 写真では、黒っぽく映っていますが、プレートはニッケルでリブのないシンプルな平面のもので、これが逆に特徴となっています。
 


 

Left to right PT2A(Lissen), 220PT(Cossor), PP230(Tungsram)
KL1(Telefunken), Y220(Hivac) and TC432(Dario [FRANCE]) 

PT2AKL1

 左端も同じくLissen のPT2A で、こちらは1932年頃登場した製品です。 この頃からLissen社でも独自のベースを採用するようになります。 写真では黒に見えますが、現物は黒と茶色のマーブル模様になっています。 ただ、同社のように製造メーカーでない会社で独自のベースを持っていたケースは、当時の英国でも他に余り例がないと思います。
 製造元は、細部の特徴から恐らくCossor社と思われます。
 次はそのCossor の220PT で、やはり1930年代初め頃の製品です。 大変繊細なパーツの使用、緻密な仕上がり等同社の特徴が良く現れた例と思います。 この頃の製品には写真のようにプレートに会社名の頭文字Cがデザインされています。
 3番目は、British Tungsram のPP230 で、220PT と同じ頃の製品です。 このPP230 のプレートは、前出のB443 やRES164 とその形状が大変似ています。 面白いのは、電極とその支持金具ごと90度回転させ垂直方向に移動したような構造となっている点です。
 写真では確認しにくいかもしれませんが、プレートの片側に1本のガラス棒(水平プレートの場合のガラスステムの位置)が有り、そこから各電極を支持する構造となっています。 この方法は、3極管にも見られ同社の真空管の大きな特徴(1930年代の中小型管)でも有ります。
   ところで、もうお気づきかもしれませんが、これら英国製真空管の型番には、似たような3桁の数字が付けられています。 これらは、偶然では無く、ある意味を持っています。
 数字の1番目は、フィラメント電圧(2で有れば2V 他には4と6が有ります)を 残り2桁は、同じくフィラメント電流値(例えば20なら0.20A 因みに当時は1A 以下の球が大半)を表しています。  この様な表示は、1930年前後の英国各メーカーで広く採用されていました(5極管だけでなく3極管も)。
 なお、Philips 製真空管の型番も良く似ていますが、表示の仕方が少し異なります。 以前一度紹介したかと思いますが、頭のアルファベット1文字がフィラメント電流値(A;0.1Aまで、B;0.15Aまで、C;0.25Aまで、D;0.65Aまで、E;1.0Aまで、F;1.0A以上)で、3桁の数字の最初がフィラメント電圧値とここまで3極管と同じですが、残り2桁が多極管の場合その用途を表しています(3極管の場合はミューの値)。 例えば今回のように43(他に53,63も同様)は、5極出力管を表しています。 この表示方法は、1924年から始まり、1934年のTelefunken社と共同で行われた真空管の規格統一まで使用されました。

 Telefunken のKL1 もこの規格統一時の第一期生と言えます。 写真のようにまだ水平プレートでナス管形状の球ですが、この後すぐに新型のSTタイプに切り替えられています。
 プレートは、前出のRES164 などの半分強ぐらいで支持方法などは同じです。 ベースは、新たに導入されたサイドコンタクトベース(8ピン)を採用しています。
 新規格の型番についてですが、先頭のアルファベットは、基本的にフィラメント電圧(K;2V(DC) 他にはA;4V(AC)、E;6.3V(AC)など)で、2番目(複合管の場合複数)のアルファベットがその用途(L;5極管出力管 他にはD;3極出力管、C;出力管以外の3極管、F;出力管以外の5極管、Z;両波整流管など)を表しています。 また、その後の数字(1桁〜2桁からなる10グループ)は、使用しているベースの仕様(例えば1〜10は、基本的にサイドコンタクトベース)を表し、同一のグループ内では基本的に出現順に番号が付けられています。 (詳細については、長くなりますので別の機会にしたいと思います。) つまり、KL1 の場合、フィラメントが直流(バッテリー点火)2Vのサイドコンタクトベース5極出力管の第1号となるわけです。
 一部例外(例えば同じKL1 でもB5ベースのタイプも製造)も有りますが、型番だけでその球の用途やソケットのタイプなどが分かる便利なもので、ご承知のように戦後のミニチュア管の時代まで長く採用されました。
 直熱5極管も1930年代中頃には、各社とも新型のST管タイプとなり、かなりの種類が製造されています。 それらの内、次に2点だけ紹介します。
 Y220 は、当ギャラリー新登場のHivac (High Vacuum Valve Co.) の製品です。 同社は、英国の中堅メーカーで、比較的遅く1932年に真空管の製造販売に参入しています。 Y220 もその時に発売された物の1つ(当時はナス管)です。
 写真の球は、1935年に発表された一連の新型シリーズの1本です。 見た目は通常のST管ですが、ちょっと変わった球と言えます。
 まず、ST管ですが、他の球のように(ドーム部分で)マイカ板で電極を固定するようになっていません。 その代わりと言うわけでは有りませんが、プレート内部両側面に1枚づつマイカ板(これ自体はガラス面に接していない)を固定し、更にそれに固定した支柱で第2、第3グリッドを支持すると言う独特の構造となっています。 また、第2グリッドとプレート間がかなり離れており(当時、同社のセールスポイントだったようです)、第3グリッドは通常の螺旋巻きではなく(WEの丸球のように)梯子段形状となっています。
 同社は、また他社が手掛けていない分野の真空管を開発したことでも知られた存在です。 なかでも、補聴器用に開発した一連の小型管は有名です(機会が有れば Historic Gallery の方で紹介したいと思います)。
 最後は、RT(フランスPHILIPS)のDario ブランドのTC432 です。 当時、RT社もPhilips グループの一員となっており、輸出品(主に英国やイタリアなど向け)にはこのDario ブランドを使用する事が多かったようです。
 ST管の時代になっても、写真のようにB4 ベースで第2グリッド用のベース側面の端子が設けられたタイプです。 これは、旧タイプの代替え用で、1930年代後半にもまだ需要が有った為と思われます。
 このTC432 は、一見すると普通のM字型フィラメント(2本吊り)を持った球(2V管)ですが、フィラメントの点灯方法がかなり変わっています。 M字型フィラメントの3/4だけ、つまりN字型に点灯するようになっています。 これは、一部断線しているわけでは無く、元々そう言う設計で、点灯するN字部分のフィラメントのみにオキサイドコーティングがなされて有ります。 何故この様な構造にしたのかちょっと理解出来ないところです。
     


 

Left to right RES964(Telefunken), RES964 later type(Telefunken), E443H(Philips)
G100(Fotos [FRANCE]), AL1(Telefunken) and L1(SER [SWEDEN]) 

RES964G100

 これまでは、出力1W前後の直熱5極小型管を紹介しましたが、出力3Wクラスの本格的な球も意外に早く1928年頃から発売されています。 出力3Wとなると当時の一般家庭用としては十分なパワーと言え、PX4 など同クラスの直熱3極管と用途によって住み分けていたようです。
 順番が前後しますが、左から3番目のPhilips E443H は、B443 の発展型で1929年に発表されています。 このクラスの原点となった真空管です。 写真のE443H は、新しいゲッタを使用した物で少し後の製品と思われます。
 プレートは、やや幅広の縦型で上下にはマイカ板が取り付けられています。 ベースは、B5タイプで第3グリッドはやはり(3本吊り)フィラメント中点付近に接続されています。
 B443 などと同様、上部が少し扁平気味の特徴の有るガラス形状で、頂部に型番などと共に"PENTHODE"の記入が見られます。 1920年代には、マグネシュウムを主成分とする(或いは100%)ゲッタを各社とも使用するケースが多く、この為内部が見えにくい事が多かったのですが、新しいゲッタの採用と(内面上部を避け)下向きに飛ばすようになり、内部の様子がより見えるようになって来ています。
 左端のRES964 は、TELEFUNKEN版のE443Hで、初期のタイプと思われる球です。 カーボン処理をしていないメッシュプレートを採用して有ります。 また、プレート上下にシールド用と思われる袴状のものが取り付けられているのが非常に特徴的です。 ガラス形状は、大きさも含めPHILIPS のE443H と全く同じものを使用しています。
 2番目も同じくTELEFUNKEN のRES964 で、ロット番号から少し後のタイプと思われます。 こちらは、通常の板プレートで、表面にはかなり厚めのカーボン処理が施されています。
 このRES964 は、PHILIPS のE443H に似ているのは分かりますが、驚いたことに同時代の米国の直熱5極管RCA247(47の旧ナス管 1931年に発表)と内部が瓜二つと言って良いほど似ています。 RES964 が3本吊りフィラメント(247 は2本吊り)と言う点を除けば、プレート形状、サイズ 更に上下のマイカ板などは形は勿論、各穴開け位置まで同じです。 ここまで来ると偶然とは思えず、両者の合意が有ったか無かったかは分かりませんが、どちらかが参考にしたとしか思えません。 真相はどうだったのでしょうか。
 ここで、TELEFUNKEN の型番の付け方について少しふれたいと思います。 1910年代末頃、受信管(Empfanger Rohre (一部英語表示))にはすべて頭にREを付け、最初のころはその後に出現順に2桁の数字を付けていましたが、その後最初に2桁のフィラメントの電流値を表す数字(ただし、例外も多い)、最後に同電圧値を表す1桁の数字を付ける方法に変わりました。
 真空管が直熱3極管しか無かった時代はこれで良かったのですが、その後新しいタイプ 例えば、今回のように(5極管に限らず)スクリーングリッド(Schirmgitter)を持つ真空管にはREの後ろにその頭文字Sを追加しRESとするようにして、型番でその球の概略が分かるように工夫がされています。

 この様なRE、RES などの表示方法も、PHILIPS との規格、型番統一後は順次廃止されて行きました。 この時、RES964 も特性はそのままで、サイドコンタクトベースを持ったAL1 に生まれ変わっています。
 また順番が前後しますが、右から2番目のTELEFUNKEN AL1 がこの時登場したタイプ(RES964 最終モデルのベースを変えたもの)で、傍熱管が主流になるまで生産されました。
 内部は、既に紹介しました同社の新旧RES964 を折衷したような構造となっています。
 AL1 は、TELEFUNKEN、PHILIPS グループ各社の他、数多くのメーカーからも発売されています。
 その内の一例として、スウェーデンの SER社から出されたL1 を紹介します。 同社は、スウェーデンの代表的真空管メーカーの一つです。
 このL1 は、大きめのドームトップが特徴で、内部はカーボン処理のため見にくいですが、他社のAL1 と同様のプレートが収まっています。 ただ、全体の造りは大変良く出来ているように感じます(スウェーデン製真空管共通の印象でも有ります)。
 最後になってしまいましたが、フランス代表としてGrammont社(ブランド名 Fotos)のG100 を紹介します。 同社は、フランスの代表的老舗メーカーです。
 G100 は、PHILIPS E443H の同等管ですが、ガラス形状、プレートのサイズ等遙かに大型の物を採用しています(写真では、AL1 やL1 が小さく見えます)。 ガラス形状は、英国のPX25 と同じサイズのもので、E443H の3倍は有りそうな大型のニッケルプレートが斜めに取り付けられています。
 また、ベースは1910年代のフランス古典管のイメージと重なるような形状となっています。 G100 自体は、1920年代末頃の製品と思われます。
 因みに、真空管に関してフランスは欧州の中でも屈指の先進国と言え、個性的な球が多い欧州管の中でも強烈な個性を持つ製品が少なく有りません。 このG100 もそうした例の一つと思います。
    


TUBE DATA
ITEM	Vf(V)	If(A)	Va(V)	Vg1(V)	Vg2(V)	Ia(mA)	Ig2(mA)	Ri(ohm)	Gm(mA/V	Ra(ohm)	Po(W)	Pa(W)
B443	4.0	0.15	250	-19	150	12		45K	1.3	6K	0.6	3
C443	4.0	0.25	300	-25	200	20	4.5	35K	1.7	15K	2.8	6
PT240	2.0	0.4	150	-9	150	16			1.65		0.5
PT225	2.0	0.25	150	-6	150	8	2.0		1.4	18.7K	0.3	1.5
PT2A	2.0	0.2	150	-10.5	150	18	3.0			8.5K	1.1	3
220PT	2.0	0.2	150	-9	150	19	4.0		2.5	7.5K	1.0
PP230	2.0	0.3	200	-16	150	12	4.0		1.8	11K	0.42	
KL1	2.0	0.15	135	-6	100	8	1.2	100K	1.7	14K	0.4
Y220	2.0	0.2	150	-4.5	150	10					0.5
TC432	2.0	0.2	150	-4.5	150	9.5	2.2	75K	2.4	15K	0.5
E443H	4.0	1.1	250	-15	250	36	6.8	43K	2.8	7K	3.1	9

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