6L6系各種同等管

 

Left to right 6L6(RCA),6L6G(NATIONAL UNION),6AH5G(NATIONAL UNION)

6L6-1  左から6L6(RCA), 6L6G(NATIONAL UNION),6AH5G(NATIONAL UNION)です。
 史上初のビーム出力管6L6 は、1936年にRCAから発表されました。 当時主流だった3極出力管ではなかなか出せなかった高出力をいとも簡単に取り出せ、しかも安価でした。 まさに革命的製品で、良くも悪くも3極管全盛時代を終わらせた真空管となりました。
 最初の6L6は、英国のキャトキン管をお手本にRCAが当時力を入れていたメタル管として登場しました。 写真の物は戦後の製品ですが、当時の物は型番やロゴが印刷ではなく刻印されていました。
 この6L6 のバリエーションには軍用管として1614,1622 やヒーター電圧を12.6Vとした1631 が有ります。 これらの外観は6L6 と同一のため今回は省略しています。
   翌年にはSTスタイルの6L6G(いわゆるG管)が登場しています。 6L6G は各社ともカーボンスート処理された物がほとんどで内部を見にくいですが、写真のNATIONAL UNION の初期タイプは、クリアーガラスのため内部の様子が良く解ると思います。 円筒と四角柱を組み合わせたようなプレートが特徴で、後の6L6系の基本形状となっています。
 3番目は6AH5G で、ほとんど聞かない型番と思いますが6L6系の1本です。 内部は6L6G と基本的に同じで特性も同じですが、ピン接続が全く異なります。 この6AH5G はどういう目的で存在したのでしょうか。 いずれにしても短期間だけの製造で終わったようです。
 なお、今回撮影時に木製の丸い台を使用しています球は全てオクタルベース(いわゆるGT管のベース)です。
   


 

Left to right 6L6GX(HYTRON),RK-49(RAYTHEON),T21(TAYLOR)

6L6-2  左から6L6GX(HYTRON),RK-49(RAYTHEON),T21(TAYLOR)です。
 6L6GX は6L6Gのスペシャル管とも言える存在で、セラミックベースを採用し高周波用にも適した設計となっています。 なお、オクタルベースの真空管でセラミックを採用した物は非常にまれと言えます。
 高耐圧でプレート損失も21Wにアップされています(6L6, 6L6Gは共に19W)。
 この6L6GX はHYTRON 製のものしか見たことはありませんが、SYLVANIA あたりも恐らく製造していたと思われます。
 この6L6GX 相当の真空管は、他社からも出されています。 RAYTHEON のRK-49 もその1例で、同社のRK送信管シリーズの1本です。 内部は6L6G そのものですが、白いセラミックのUZ(6ピン)ベースとなっています。
 プレート損失はやはり21Wで、高周波用に特化したタイプと言えます(もちろんオーディオ用にも使えます)。
 次のTAYLOR T21 もRK-49 に良く似た真空管で、プレート損失21Wでベースも同じくセラミック製UZベースを採用しています。
 同社は送信管製造に特化した数少ないメーカーの一つで、大変しっかりした真空管を製造した会社です。 民生用通信機器向け真空管にも力を入れていましたので、このT21 もそうした用途に使用されていたと思われます。
  


 

Left to right 6AL6G(RAYTHEON),807(RCA),6L6GA(SYLVANIA)

6L6-3  左から6AL6G(RAYTHEON),807(RCA),6L6GA(SYLVANIA)です。
 6AL6G もあまり聞かない球ですが、6L6Gと同特性の真空管です。 次の807 同様高周波用にトッププレートとしていますが、カテゴリー的には受信管となっています。
 写真の6AL6G はRAYTHEON 独特の4ピラー管で、プレートとマイカ板の間に更にセラミック版(プレートの上下とも)を入れるなど絶縁性の向上を図って有ります。 また、全体にも非常に堅牢な造りになっていて、オーディオ用ではちょっと勿体ないような気さえしてきます。
 6L6G を元に送信用に進化した球の代表が次の807 と言えます。 写真の807 はRCA の初期タイプで、同社の800番台送信管シリーズの1本です。 トッププレートで、セラミック(後には茶色のマイカノールベースが主流となります)のUY(5ピン)ベース、プレートとマイカ板の間にセラミック片をスペーサーのように追加して有ります。 また、他にも高周波用に改良した点が幾つか見られます。
 プレート等は基本的に通常の6L6G と見分けが付きませんが、プレート損失は25Wとなっています。 また、理由は分かりませんが、プレート全体が通常の6L6G と比較して軸を90度ずらすように取り付けられています。
 807 には更に幾つかバリエーションが生まれましたが、ここでは省略しています。 興味のある方は調べてみて下さい。
 時代と共に6L6系も小型化が進みましたが、その最初のタイプが次の6L6GA です。 特性は6L6G と変わりませんが、ST14サイズに小型化されています(6L6G はST16サイズ)。 ガラス形状以外にプレート自体も若干小さくなっているように感じます。
 なお、米国ではこの6L6GA のように改良されたタイプの名称として元のタイプの型番の最後にアルファベット1字(Aから始まり開発順にB,C ....)を加えるスタイルが取られています。



 

Left to right 6L6GAY(SYLVANIA),5932(SYLVANIA),5932 later type(SYLVANIA)

6L6-4  左から6L6GAY(SYLVANIA),5932(SYLVANIA)の初期型そして中期型です。
 6L6GAY は基本的に6L6GA と同じ真空管ですが、ベースにより信頼性の高いマイカノールを採用した(いわゆる茶ベース)タイプです。 米国ではこうした真空管には型番の最後にYを加えて区別するケースが有ります。 (どの真空管にもYタイプが有るのではなく、特定の型番のみに存在します) 高信頼管の一種と考えて良いと思います。
 次の5932 はSYLVANIA 独自のタイプで、5930(2A3W)、5931(5U4GW)などと同じ高信頼管シリーズの1本です。 これらの共通の特徴は、通常のGT管を数倍大きくしたような形状で、大型のマイカノールベースが特に目立ちます。
 この5932 には知る限りでは3種類有り、中央の5932 はその内の初期タイプで、2A3 のように2つのユニットを並列にしています。 訳はあったと思いますが、ちょっと変わった例と言えます。
 右が5932 のいわば中期型で、ユニットは1つとなり角張った精悍な感じのする黒の艶消しプレートに変わっています。 また、放熱のためでしょうか両側面に大型の丸孔が開けられています(孔の無いタイプも有り)。 プレート損失はどちらも21Wで、民生用では無くほとんど軍など政府各機関向けに納入されたようです。
 今回省略していますが、5932 の後期タイプはスタイルはそのままで下の5881 のようなライトグレーのプレートに代わり、形状も6L6G のスタイルに近いものに戻っています。 また、この5932 を807版とした5933 も生産されています。
     


 

Left to right 6L6GB(RCA),6L6GC(GE),5881(TUNG-SOL)

6L6-5  左から6L6GB(RCA),6L6GC(GE),5881(TUNG-SOL)です。
 6L6G の小型化は戦後も進みGT管スタイル(T12 タイプ)の6L6GB となります。 6L6GB は旧スタイルのままのプレートをT型ガラスグローブに納めたといった感じで、特性も6L6G と基本的に変わりません。
 GT管の中でも大型のサイズで、プレートも大きいため見栄えのする真空管と言えます。 次の6L6GC も同様ですが、価格面からでしょうか後期のタイプはライトグレーのアルミクラッドプレートが主流となりました。
 6L6 登場後すぐ欧州では6L6 以上のスペックを持つライバルが登場していましたが、RCA は何故か6L6系のパワーアップをすぐには行っていません。 6L6GB の次のバージョン6L6GC でようやくプレート損失30Wとし、プレート電圧も最大500Vにアップしました。
 6L6の直系としてはこの6L6GC が最終版となりましたが、その後も米国各社から6L6GC から派生した真空管(4桁ナンバー)が幾つか作られています。 今回省略していますが7581A などがその例で、7581A の場合プレート損失35Wとなっています。
 最後はやはり4桁ナンバーで6L6G スペシャル管とされる5881 です。 6L6GC より先か後か良く判りませんが、6L6系では一番小さいサイズで、プレート形状も一新されています(別に元になる真空管が有ったのかもしれません)。 プレート損失は23Wです。
 回路自体の進歩もあってこれら6L6GB, 6L6GC, 5881 は戦後始まったオーディオの一大ブーム(ステレオ再生の普及前後)の中で、メーカー製アンプの主力出力管となり、戦前からの3極管はほとんど顧みられなくなりました(生産自体ほとんど終わってしまいます)。 同時に(メーカー、ユーザーとも)単なるコスト対出力競争や能率の向上のみに力点が置かれ、多極出力管自体の改良、改善は余り行われなかったように思います。 この事は、後に登場する新参のトランジスターにいとも簡単に主役の座を奪われた事でも明らかではないかと思います。
 


 

Left to right CV1947(ELECTRONIC TUBES),CV1947(BRITISH TUNGSRAM),6L6G(VISSEAUX [FRANCE])

6L6-6  左からCV1947(KB/K),CV1947(KB/T),6L6G(VISSEAUX)です。
 戦前の欧州では米国製真空管の影響をほとんど受けなかったのですが、この6L6系はかなり欧州マーケットにも影響を与えました。 ただ、何故かそれは6L6G 時代のものがほとんどで、戦後の主力6L6GC あたりに関しては余り見当たりません。
 ここでは、それら欧州メーカーの6L6系を何点か紹介したいと思います。
 欧州製6L6G の代表格と言えば、BRIMAR の6L6G(STC ではCV1947)となりますが、今回はそれ以外のタイプを選んでみました。
 左は6L6G のCVナンバー管CV1947 で、そのメーカーコードKB/KからElectronic Tubes と分かるのですが、何かそのまんまといった社名です。 ただ、この球の製造元は同じく英国のCOSSOR で間違いないと思います(以前この球でCOSSORのコードKB/Vと入ったものを確認しています)。
 6L6系らしくない丸みのあるプレートが特徴です。 造りもしっかりしたきれいな真空管です。 なお、このタイプをトッププレートにした807同等管(ATS25)も存在します。
 次のCV1947 は、メーカーコードKB/T つまりBritish Tungsram の6L6G です。 こちらの電極は本家米国の6L6G に大変近いタイプを使用していますが、左のCV1947 同様欧州管特有のST形状をしています。 
 6L6G はフランスでも生産されていています。 右端はVISSEAUX社の6L6G で、プレートに補強目的のリブを追加してある以外は、この3本の中ではオリジナルの6L6G に一番近い外観をしています。 このVISSEAUX社は、米国のSYLVANIA と(いつ頃からか分かりませんが)ライセンス契約をしており、6L6G 以外にも米国型番の真空管を生産していました。
 また、戦争中のことと思いますが、英国のGEC がRCA から直接6L6G (マークはRCA とGEC 併記)の供給を受けていたという事実も有りましたし、同じくMULLARD ブランドの6L6G も存在しました(こちらはOEM と思います)。
 


 

Left to right 6TP(FIVRE [ITALY]),OSW3108(RFT),FZ-064A(MATSUDA [JAPAN])

6L6-7  左から6TP(FIVRE),OSW3108(RFT),FZ-064A(マツダ)です。
 6TP は日本ではほとんど馴染みがないと思いますが、イタリア版6L6系の真空管でFIVRE社の製品です。 
 6L6G と同規格で、カテゴリー的には受信管となっていますが、上のRK-49,T21 と同じUZ(6ピン)ベースでトッププレートなど送信管仕様とした軍用管です。
 ベースは底面のセラミック版と一見鋳物のような金属を組み合わせたタイプで、重厚な造りをしています。
 管壁にはイタリア管固有のデカールが貼られて有り、1942年の日付が見られます。 なお、同社は通常の6L6G も生産していました。
 次も馴染みのない球ですが、ドイツ版6L6系のOSW3108 です。 RFT社の製品でOSW というのは同社のサブブランド名と思われます。
 同じくドイツの著名管EL156 を少し小さくしたようなバルブ形状で、プレートもEL156 のそれを少し複雑にしたような感じです(4枚の板で構成されています)。 今回紹介する中では一番6L6系からかけ離れた外観をしています。
 製造年代など詳しいことは解りませんが、結構古いかもしれません。 ちょっと面白い球です。
 この様に西欧各国でも6L6系は製造されましたし、東欧や旧ソ連でも同様です。 また、欧州と米国の両方の影響を受けていたオーストラリアと日本も勿論例外ではありません。
 最後は当ギャラリー初の国産真空管で、マツダ(後の東芝)のFZ-064A です。
 この球は、当時の軍関係者の御子息から当ギャラリーに以前寄贈していただいた真空管の1本で、今回6L6系の1本として是非紹介したいと思います。
 プレートは6L6G そのものと言えますが、正確には807系統の真空管です。 ただ、残念ですが詳しいスペックが不明です。 もしご存知の方がおられましたら御教授いただければ幸いです。
 イカリのマークからも判るように旧海軍で使用された送信管仕様の球で、戦闘機など主に小型機搭載の無線機などで使用されていたようです(昭和18年(1943) 3月の記入が有ります)。 当時やはり日本軍で使用されていたUY-807A と比較するとこのFZ-064A の方が細部の造りが数段上という印象を受けます。
 この時代としては珍しいかもしれませんが、上の5932 同様(電極間容量を考慮してと思いますが)ボタンステムを採用しています。 ベースは、白のセラミック製でUZ(6ピン)の大変しっかりしたもので、特大のガイドピンも付いています。
 余談ですが、同時代のセラミックベースでも欧米のものと国産のものでかなり印象が異なります。 使用する土の成分の微妙な違いによるものと思いますが、国産のものは何となく透明感が有るような気がして個人的には好きです。
 当時物量では欧米列強と差が有ったのは確かで、特に民生仕様真空管に関しては欧米製の物と比較するのは酷ですが、軍用真空管の一部には大変完成度が高く何処に出しても恥ずかしくない製品も見られます。 このFZ-064A もそうした真空管の1本と思います。
        


TUBE DATA
ITEM	Vf(V)	If(A)	Va(V)	Vg1(V)	Vg2(V)	Ia(mA)	Ig2(mA)	Ri(ohm)	Gm(mA/V	Ra(ohm)	Po(W)	Pa(W)
6L6	6.3	0.9	250	-14	250	72	5.0	22.5K	6.00	2.5K	6.5	19
807	6.3	0.9	300	-12.5	250	83	8.0	24.0K	6.50	3.0K	6.4	25	

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