私の主張

 自治体の公文書の情報公開は誰のためなのか
             
(日本消費者連盟関西グループ「草の根だより」2004年10月号NO331掲載)

<気になる駅前ユアサ工場の鉛土壌汚染>

高槻市では、JR高槻駅北側にある西武百貨店やユアサ工場の広大な土地を、都市再生特別措置法に基づき新たな開発をし、超高層ビルを建設しようという動きがある。

この駅前ユアサ工場では、大正時代から鉛蓄電池製造のため多くの化学物質が使用され、鉛等の重金属による深刻な土壌・地下水汚染があるのではと懸念されてきた。

ユアサ工場の鉛による地下水汚染が明らかになったのは1998年だった。ユアサの汚染調査報告を受け、市が調査したところ、工場内の井戸水から最高で環境基準の56倍の鉛汚染が判明したが、工場周辺の井戸水からは鉛が検出されず、汚染の拡大はないという趣旨の説明を市は発表していた。

ところが、都市再生特別措置法の手続を調べているなかで、ユアサが新たに昨年から土壌汚染調査をし、今年の7月にその汚染状況調査結果報告書を市に提出していることがわかった。

<なぜ報告書をすぐに見せられないのか>

土壌汚染状況を知るため、議員として市にこの報告書の資料請求をしたところ、予期せぬ答えが返ってきた。「すでに汚染状況は公表している、情報公開条例の第三者情報なので、第三者(ユアサ)に公開について意見を聴かなければならない、どちらにしろすぐに公開できず情報公開請求手続をしてほしい」というのだ。すでに市内の他社の場合、同種の報告書の資料提供があり、それをもとに説明を受けた経験があるので、今さら何をと信じられない対応だった。

 市のもつ公文書は原則的にすべて公開である。この報告書は企業の情報ではあるが、住民の生命・健康・財産等に係る情報であり、条例上非公開には該当しない。汚染原因者なら、会社で内部手続のために正式の公開請求をしてほしいというのではなく、自ら積極的にどうぞご覧下さいという対応をして説明責任を果たすべきであり、市はそのことを企業に説得すべきではないか。担当課とこのようなやり取りしている間に、報告書等関係文書を市民の方が情報公開請求され、公開が決定し、私も報告書等をようやく入手できた。

 <誰のための情報公開制度か>

こうした経過の中で、昨年7月にユアサが市に提出した土壌調査・浄化対策基本計画書については、1月に公開請求された方には部分公開、8月に請求された方には全面公開という、時期により公開基準が異なる、ありえない事態が起きていたことがわかった。

さらに、98年に市が地下水調査をするにあたり、ユアサから土壌・地下水調査結果報告書が提出されていたにもかかわらず、このデータについては議会にも市民にもいっさい明らかにされていなかった。98年時点で、鉛による土壌汚染の概要をすでに市は把握していたのだ。

公開された文書から、駅前のユアサ工場では、最高で環境基準の200倍もの鉛による土壌汚染(土壌含有量)があることが明らかになった。しかし市の姿勢は、周辺の井戸水から鉛が検出されておらず、汚染の拡大はない、工場閉鎖後の開発計画が確定したのち、環境アセスメントや土壌汚染対策法の手続の中で土壌の調査結果は明らかにされるから、今あえて公表する必要はない、市民が聞けば答えるというものなのだ。

私は、行政も汚染原因者の企業も環境汚染の状況はできうる限り早く市民・住民に明らかにし、安全ならその説明をすべきだと思う。98年から把握している土壌汚染の状況をいっさい説明せず、工場閉鎖後の計画にかかわる法的手続の中で明らかにすればいいという対応は、環境保全行政としてあるまじきことではないか。

<制度を使って市民の監視を>

市民の知る権利を保障し、行政の説明責任を果たし、開かれた市政をめざす情報公開条例があるからといって安心してはいられない。たえず市民がこの制度を使い、ことあるごとに市の姿勢を糾さなければならないとあらためて痛感した。理念がいくら立派な条例をつくっても、市民の監視が無ければ生きた制度にならない現状なのだ。