私の主張

 合併しても財政状況はよくならない!
       −島本町・高槻市合併財政シミュレーションから−

                  (
日本消費者連盟関西グループ「草の根だより」2004年
2月号掲載)

    
<なぜ市町村合併なのか>

 市町村合併の問題が連日のように報道されています。市町村が合併すれば特別に財源を確保するという法律(市町村合併特例法)の期限が来年2005年3月で切れるため、それを当てにして駆け込みで合併したいという自治体が多いからです。大阪府内でもいくつか合併の話が議論されてきましたが、なかなかうまくいっていません。私の住む高槻市と東隣の島本町との合併の話もありましたが、この1月、島本町長は住民アンケート結果をふまえ今回は合併を見送る旨の発表をされ、合併はなくなりました。合併すれば住民にとってどのようなメリットがあるのか、具体的に示されていませんでしたから、住民の間で合併の機運が盛り上がらないのは当然のことです。

 そもそも、特別の法律まで準備して、政府はなぜ市町村合併を進めようとしているのでしょうか。小泉首相は、2001年5月の衆議院の本会議で、「地方分権の推進のためには、住民に身近な総合的な行政主体である市町村の財源基盤を強化することが不可欠であり、市町村合併によって、その規模を拡大し、能力を強化していくことは、地方行政の構造改革を進める上でも極めて重要な課題であると認識しております。市町村合併特例法の期限でもある平成17年3月までに十分な成果が挙げられるよう、『市町村合併後の自治体数を1000を目標とする』という与党の方針を踏まえて、自主的な市町村の合併をより一層強力に推進していきたいと思います」と答弁しています。

 ここでは、市町村合併をすれば財源規模が大きくなり財政能力が強化できる、またこれは地方行政の構造改革だとも言っています。
 もう少かみくだいていうと、21世紀は地方分権の時代で自治体間の競争の時代だ、競争に勝ち抜くためには一定の行政能力・財政規模が必要であり、そのためには市町村合併が必要だというのです。
 また構造改革というのは、50年前の昭和の大合併時に比べると、電話やインターネットなどで情報のネットワーク化が進んでいますし、道路網も整備されて住民の生活行動圏は大きく広がっていて、公共サービスを受ける範囲も住民が納税している市町村の枠を超えて広がっているため、地方自治は自己決定でという原則から、実態に見合った形で市町村の行政規模を拡大しなければならないということなのです。

 自治を拡大し、住民サービスの向上のために合併があるかのような説明ですが、ほんとうでしょうか?

<合併財政シミュレーションをしてみると>

 関西グループの島本町議の平野かおるさんをはじめ島本町には市民派の議員がたくさんおられます。その島本町で初めて市民派として議員をされたのが、元町議の南部由美子さんです。

 南部さんは、島本町が高槻市と合併すればほんとうに財政基盤が強化されるのか、島本町民へのサービスの利便性の向上につながるのか疑問に思われ、町当局が明らかにしない以上、自分達で計算してみようとが合併財政シミュレーションの勉強会を立ち上げられました。南部さんも「現場」に徹される方ですが、行政の言い分だけでなく、自分達で確かめてみようという試みです。

 さっそく私も参加させていただき、昨年夏から秋にかけ、計11回の勉強会を続けました。財政用語はなかなか難解ですし、島本町の方に高槻市の財政状況、まちづくりのことを理解してもらい、また私も島本町の財政状況やまちづくりの様子を教えていただきながら、市民が入手できる財政に関する資料を駆使して、毎回電卓片手に計算し続けました。もちろん市民だけではとうていできるわけがなく、指導をしてくださったのは、都市行政コンサルタントの初村尤而さんです。合併すればどのような財政上の優遇措置があるかなどわかりやすく説明してくださいました。もちろんシミュレーションに当たっては、合併後の議員数を何人にするかなど、楽しい議論をしながら前提条件を決めました。

 そして、12月にようやくその結果がまとまりました(*)。結果は、合併後23年間に約97億円のマイナス効果となる、つまり現在の別々の財政運営よりも経費がかかるという結果になったのです。理由は、中核市の高槻市は行財政改革の進んだまちと言われており、類似団体(人口規模等がよく似た自治体)に比べかなり職員数が少ないのですが、合併して人口が36万人から39万人の中核市になった場合、島本町の現職員数以上の職員を増やさなければならないからです。驚きました。

 北摂7市3町(大阪府北部にある市や町)が設置している北摂広域連携行政研究会が2002年11月にまとめた『広域連携のあり方等に関する調査研究報告書』でも、高槻・島本の合併パターンについては、物件費や人件費で合併効果がマイナスになる、つまりかえって財政負担が増えるという結論になっていましたが、見事にそのことを自分達で裏付けることができたのです。

 これでも合併を進めるというのであれば、財政面は負担が増えるがほかにこういうメリットがあるという、違う観点から合併を検討しなければなりません。

<あきらめない総務省>

 政府が言うように合併すれば財政基盤が強化されるどころか、かえって島本町と高槻市のように、財政負担が増える合併もあります。

 しかし、島本・高槻のケースを見ていても、政府が市町村合併をすすめるメリットの一番に財政強化をあげていますが、それなら、市町村自らがその計算をして、住民に明らかにすべきですが、そのような事例はほとんどありません。

 そのため合併したものの、議員の数が減らずに、しかも町から市へ変わった場合は、市並みの報酬になり、議会費を増額しなければならない、あらたな行政事務のために庁舎を新設しなければならないなど、支出が膨大に増え、合併後5年間の財源の特例措置だけではどうしようもない、また小さな市町村ほど合併後はその住民の声が届きにくくなるなど、合併後の問題も多々指摘されています。

 本来、まちづくりは住民ニーズがあってこそうまくいくもので、政府の進める、お金をちらつかせてやるような市町村合併は愚の骨頂です。ほんとうに市町村合併が住民サービスの向上になるのなら、財政シミュレーションも含め、徹底した情報公開と民主的な議論が必要です。

 各地で合併は挫折し、どう考えても市町村の数を1000に減らすのは不可能と思うのですが、政府は合併推進あきらめていないようです。特例法が期限切れになっても、合併をすすめるための新たな法律をこの国会で出すことも計画されているようです。

<住民自治をもとめて>

 小泉政権がすすめる構造改革、規制緩和路線の行政レベルでの施策が、この平成の市町村合併と電子政府・電子自治体の推進です。

 市町村の数が3200から1000に減れば、地方自治体の大きな財源の一つである地方交付税は大幅に削減できますし、政府は市町村への指導や管理もしやすくなるでしょう。

 電子政府・電子自治体もつきつめていえば、自治体のネットワーク化を進め、情報を一つの政府に集中してしまおうというものです。

 私は、市町村合併も電子政府・電子自治体推進も、政府の本音はここにあると思っています。住民サービスの向上ではなく、いかに住民を安く管理するかを狙っているのだと。

 市町村合併問題は、住民自治を守ることができるかどうかの問題です。今回は合併はなくなったけれど今後またどういう動きがでるかわかりません。各地の合併後に起きている問題もしっかり学んでおかなくてはと思っています。

 *冊子は100円(送料200円)です。お申込は二木(072−685−0468)まで。