私の主張

 e-たかつき計画と民主主義
                 
(2004年2月24日掲載)

 高槻市は、政府が推し進めている電子政府・電子自治構想に応えるべく「e-たかつき計画(原案)」(以下、原案という)を策定し、1月25日にはこの原案をホームページで公表するなどして、1月25日〜2月15日の間、市民の意見を募集しました。そして、2月19日には高槻市地域情報化推進市民会議(委員7名)を開き、提出された市民の意見もとり入れ、修正した「e-たかつき計画(案)」(以下、修正案という)を明らかにして、意見を求めました。この市民会議の意見も踏まえ、現在、新たな「e-たかつき計画(案)」が策定中のようです。

 この「e-たかつき計画」は、高槻市が2004年〜2006年に取り組もうとする行政事務の電子化計画を明らかにしたものであり、市民生活に大きな影響を及ぼすものです。
 しかし、この計画の策定経過や原案、修正案を見ていて、この計画は、高槻市が市民や職員、議会が一丸となって築いてきた「民主主義」を否定し、市民生活に混乱を持ち込むのではと危惧をせざるをえません。

そこで、公開された資料に基づき、問題点を3点指摘し、私の考えを明らかにしておきたいと思います。

 

1.庁内民主主義の否定

 原案は庁内で十分な議論を経て作成されてはおらず、かつ策定経過には不透明な部分が多く、このような行政計画の手法は重大な問題です。今後このような手法で行政計画が策定されるなら、行政施策は住民ニーズに基づいた庁内でのボトムアップ方式ではなく、トップダウン方式で行われることになります。このことは地方分権・住民自治の理念に反しますし、長年にわたり築かれてきた庁内民主主義を否定することになります。

 (1)所管課で議論されていない

原案には、住基ネットの記述等に重大な誤りがありました。2月2日には6箇所が訂正されましたが、原案策定途中で所管課がご覧になっていたら、まず間違わない点でした。
 またアクションプログラムのなかには、3年間で実施できるのかと疑問をいだく事業がいくつもありました。たとえばICカードの多目的利用の項目で、中学校の生徒証に利用するという全国でも検討の例のない案が記載されていました。
 そこで、私は、アクションプログラムに記載されている事業の所管課の多くに、説明を求めにまわりました。しかし、原案に記載されている内容をご存知ない課も多々ありました。過去の行政計画等で、市民意見募集をしている段階で所管課がご存知なく答えられないというのは、信じられない事態でした。  
 この原案の事務局(総合調整室、情報システム課)は、アクションプログラムなど原案については、トップダウン方式で決定したとの説明でしたが、行政計画しかも3年間のアクションプログラムまで添付した計画で、所管課が知らないという事態は、行政として無責任としかいいようがありません。

 (2)庁内での策定経過の不透明さ

行政計画を策定する場合、策定経過も重要ですが、3つの点からこの原案の策定経過には納得がいきません。
 原案策定経過については、2003年12月19日に開催されたに高槻市地域情報化推進市民会議(以下、市民会議という)に提出された参考資料6「情報化計画検討にいたる経過」や、原案にはありませんでしたが、2004年2月19日に開催された市民会議に提出された修正案には添付されていました。

これらの経過からわかるのは、この原案策定には2002年5月以来、次の5つの庁内組織が関っていることです。

@情報化推進委員会(課長級17名、行政事務改善委員会の分科会)

  A電子行政サービス調査部会(各課112名 課長補佐以下の職員)

  B電子自治体研究部会(課長補佐級16名)

  C市長公室政策推進室、情報政策課、人権生活文化部人権室(事務局)

  D行政事務改善委員会(部長級の会議)です。

経過を少し述べます。まず2002年5月1日の情報化推進委員会で、電子行政サービス部会の設置が決定されました。同年8月6日には電子行政サービス調査部会(7班112名)が発足、10月31日に一人の市民としての立場からという提言書が作成されました。
 同年12月17日の情報化推進委員会でこの提言書が報告され、新たに電子自治体研究部会の設置が決められ、翌2003年1月7日に電子自治体研究会が発足、この電子自治体研究会は同年6月13日に情報推進化委員会宛に報告書を提出しました。   同じ6月には庁内で電算化希望調査が行われ、8月8日には費用対効果の調査も実施されました。
 ところが、8月26日の行政事務改善委員会で、原案の検討体制を事務局の3課(市長公室政策推進室、情報政策課、人権生活文化部人権室)(*)にすることが決定され、この後、3課で11回の会議か開かれたのち、11月25日の行政事務改善委員会で原案が決定されたことになっています。(*10月6日の機構改革後は市長公室総合調整室、総務部情報管理室情報システム課、総務部情報管理室市民情報課)

@     計画策定途中でなぜ情報化推進委員会がはずされたのか不明である。

 ここでわからないのが、なぜ情報化推進委員会ではなく、3課で原案を検討することになったかという理由です。多くの担当課にまたがる計画であればあるほど、計画策定後の推進体制も視野にいれて、策定段階から多くの課が関るべきですし、これまでの行政計画はそうでした。
 この点について事務局の説明はトップダウン方式で決めることになったということだけです。実際、この8月の行政事務改善委員会の議事録は存在せず、理由がよくわかりません。
 2002年5月から2003年8月まで、情報化推進委員会で議論してきた経過があるなら、電子自治体研究部会の報告書をもとに情報化推進委員会でなぜ議論をせず、突然トップダウン方式をとるのか。一つの重要な計画を策定するのに、突然方針を変えるのは計画的でありませんし、ましてその理由が不明ですし、このようなやり方は今までの庁内の民主主義を否定するものにほかなりません。これでは、職員のみなさんが信頼関係を保って仕事ができません。

 Aアクションプログラム選定の基準が不透明

原案を読んでいて、なぜこうなるのか判らない点が多々ありました。とりわけ、2003年6月に電子自治体研究部会が情報化推進委員会宛に報告書を出した以降、会議で何が問題になり、どのような議論があったのか、その結果、何をものさしにあのアクションプログラムがつくられたのかがまったくわからないのです。そこで、3課が検討された11回の会議の議事録を求めましたが、この記録は何も残っていないとのことでした。結局、議論の中身がまったくわからないままです。費用も伴うアクションプランならば、その選定基準はどういうものさしなのか、議論の中身もわかるように具体的に明らかにすべきです。

B費用対効果調査実施もどのようになされたのか不透明

  策定経過の中で、2003年8月8日に「費用対効果調査実施」と記されています。これはアクションプログラム選定の重要な調査かと思われ、この点についての資料も求めましたが、無いとのことでした。

なおこの点については、2003年12月19日開催の市民会議でも副会長が質問されています。「参考資料6に8月8日費用対効果の調査実施というのがありますが、最初のところではサービス調査会ではそういうのを抜きにして考えてみようということで集まって、そこでたくさんの項目があげられていますが、費用対効果調査というのはどの程度行われているのでしょうか?」これに対する事務局の答弁は、「ここでいう費用対効果調査とは、サービス調査部会についてではなく、その前にある各所管課に電算化希望調査をお聞きした際に、補填資料としてお願いしたものです」と答えています(市ホームページ掲載の議事録より)。対象は「各課が出した電算化希望業務」とのことですが、各所管課で費用対効果測定ができるかのか疑問ですし、やはり客観的な評価が必要と思われます。

 また、事務局は先の発言に続き「例えば住民票を家から取れるようなサービスがあるならば、往復のバス代とその人の平均来庁が1時間かかるとして、その分が経費的に高槻市が潤う等の経済効果という計算をしました。」と答えていますが、果たしてこの答弁が妥当かどうかも疑問です。私は大阪府庁に行き、家庭で住民票が取れるような電子申請の計画があるのかお伺いしましたが、担当者は現状ではとてもできないと否定されました。このような例をあげて答弁するのも問題ですし、また後半の部分も、どのような計算であったのか不明です。

 

2.市民との協働の否定

 パブリックコメントを求めたからといって、必ずしも市民との協働がはかれたとはいえません。安易なパブリックコメントは逆に行政への不信感を増すだけです。今回のパブリック・コメントは下記の2つの点から、大いに反省すべきです。

(1)パブリック・コメントのルールの確立を!

 原案は、1月25日付け広報でパブリックコメント(市民意見募集)を求めますと明らかにし、ホームページにも掲載されました。しかし1月26日に私が市民情報課に行き、市民配布分を求めますと、概要版しかなく、しかもコピーをしてほしいとの扱いでした。そこで、概要版ではなく本文で意見募集をすべきであり、必要な市民には配布すべきと申し入れたところ、翌27日、本文で意見募集することになり、また市民配布分も用意されました。
 しかし、この概要版にも本文にも下記のような問題があり、早急に市として、パブリック・コメントのルールを確立すべきです。
 @概要版は、わかりやすくするために作成した概要版ではなく、重要な点が省かれていた。
 A概要版には策定年月及び策定組織名の記載がない。
 B概要版にも本文にも原案の策定経過がない。
 C概要版にも本文にも、提出された市民の意見に市としての立場を表明するのかなどの市民意見の取り扱い方法や今回のパブリックコメントが政策決定過程でどの位置にあるのかの説明がない。

(2)パブリックコメントを求める文書とは

 原案は果たしてパブリックコメントを求めるだけの内容になっていたのか疑問に思います。なぜなら、パブリック・コメント後に6箇所の初歩的な訂正がありましたし、2月19日の市民会議に提出された修正案には、原案の根本的な修正を含んでいました。たとえば、個人情報保護の位置づけが明確になっています。またアクションプランにあげられた事業のうち、実施内容という項目が検討事例に変更されましたし、ICカードの多目的利用では中学校の生徒証は削除されました。  政策形成段階の文書とはいえ、基本的な間違いを見つけてもらうのもパブリックコメントなのかどうかもふくめ、どのような段階でパブリックコメントを実施するのか、文書の内容については十分考えるべきです。

3.議会制民主主義の否定

 e-たかつき計画は、庁内のみでなく、議会での議論や議会に対する説明もおろそかにされ、議会の存在を無視した内容になっています。
 たとえば、高槻市の情報化の現状については、わずか20行の記述しかありません。市によっては数ページをさいているところもあります。電算化をめぐっては、過去に議会でも数々の議論がされてきました。議会での議論があってこそ、現状があるのです。これらを他の記載に比して、具体的に書かないことは、過去の取り組みの軽視としかいいようがありません。ここをきちんと書くことこそ、高槻らしさがでるわけですし、議会での議論も生きてきます。
 また、原案には住基ネットについての記述がほとんどありません。議会答弁ではくりかえし住基ネットは電子自治体の基盤と答弁されてきました。高槻市議会では、住基ネットに関しては全会一致で慎重な対応を求める意見書をあげています。議会でも住基ネットについては重要な位置づけをしているにもかかわらず、原案は高槻市が取り組んできた経過をほとんど記載していません。これは議会での議論を軽視したものです。 
 さらに、e-たかつき計画策定については、原案、修正案についても議会に十分な説明があったとはいえない状況です。
 なお、私は電子政府・電子自治体反対の立場から、今まで議会で質問をしてきました。とりわけLGWAN(総合行政ネットワーク)については何度も説明を求め、12月議会では一般質問も行いました。過去、LGWANの説明は、一貫して「単なる電話回線あるいは高速道路のようなもの」との説明を受けてきました。ところが原案ではLGWANについて「共同アウトソーシングの基盤」(用語説明)と記載されています。この原案の作成が12月議会以前(11月25日行政事務改善委員会)であるにもかかわらず、12月の一般質問時ではこのことを説明されず、あまりにも不誠実な対応に怒りを感じます。この点でも議会軽視もはなはだしいと言わざるをえません。

 そもそも日本の政治形態は、間接民主主義を採用しており、直接民主主義はその補完的なものとなっています。今回の対応を見れば、パブリックコメント、市民会議が優先され、そこでの決定がすべてのような感がぬぐえません。私がe-たかつき計画の各所管課に対して説明を求めにまわった際には、多くの課は寝耳に水であり「ホームページを見ていない」との回答までありました。庁内での議論を軽視し、議会への説明もおろそかにして、パブリックコメントを求めたから、あるいは市民会議のお墨付きをもらったからe-たかつき計画は市民に認知されたとして強引に推し進めるのなら、それは、議会制民主主義の否定であり、「市民」を政治的に利用した民主主義の否定ではないでしょうか。

  以上のように、私は、今回のe-たかつき計画は、庁内民主主義の否定、市民との協働の否定、議会制民主主義の否定につながる計画案だと考えています。もう一度、今日までの民主主義のルールに基づき、まずは全庁的な体制で議論され、また、議会での議論をふまえ、市民との協働でe-たかつき計画が作成されることを強く望みます。

                        2004年2月24日 二木洋子