私の主張

「地方分権・住民自治」とは名ばかりの中核市移行!
     −最近の議案審議から−


                  (
日本消費者連盟関西グループ「草の根だより」2004年1月号掲載)

<新地方自治法が施行されたけれど・・>

議員としてどうしても読んでおかなければならない本の一つに、兼子仁さんの『新 地方自治法』(岩波新書・1999年)がある。1999年7月に大改正された地方自治法のしくみをわかりやすく解説した本だが、まえがきの冒頭で、兼子さんは、「21世紀の日本は『地方分権』と住民自治の時代だと言わなくてはならない。今の日本の経済・生活社会を本格的にリストラしていくために、各『地域』で、住民と自治体が活力を発揮することがぜひ必要だからである」と述べておられる。

 日本国憲法の第92(地方自治の基本原則)には、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める」とあり、 その法律として地方自治法が194753日の憲法施行日に併せて施行された。この旧地方自治法では、市町村の事務の多くは国の機関委任事務であり、市町村は国の出先機関の位置づけだった。

 戦後50年経った1995年に地方分権推進法が制定され、地方分権推進委員会が設置された。4次にわたる勧告が出され、地方分権推推進計画が策定され、この新地方自治法が制定された。新地方自治法では、機関委任事務が廃止され、市町村の事務は、自治事務と法定受託事務に分類されている。しかし、自治事務といえども、国の法律で基準が作られており、それに従わなければならないことが多い。名前から連想する「自治事務」と呼ぶにふさわしい事務ではない。

 新地方自治法が施行され、地方分権の枠組みができ、住民自治が進むことになると、兼子さんの言われるように誰しもが期待をいだいておられるのではと思う。しかし、法はできたものの、地方議会にいると、現実には地方分権・住民自治が進んでいるどころか逆行しているのではと思うことが続出している。

<中核市に移行はしたけれど・・> 

新地方自治法では、市は4つに分類されている。「政令指定都市」(13市)「中核市」(35市)「特例市」(39市)「普通市」である。それぞれ人口や面積などの要件があり、国や都道府県の権限が移譲されているが、市の持つ権限数が異なる。高槻市は2003年4月に普通市から中核市に移行した。移行理由は、地方分権・住民自治を進めるためであったし、私も憲法に明記された地方自治を進めるために中核市移行に賛成をした。

 ちなみに大阪府内では、政令指定都市は大阪市、中核市は堺市と高槻市である。堺市は隣接市町村との合併で政令指定都市をめざし、規制緩和で、東大阪市が2005年に中核市移行の予定だ。特例市は、豊中、吹田、枚方、茨木、八尾、寝屋川、岸和田の7市である。

さて、中核市についての総務省の説明には、「指定都市以外の都市で規模能力が比較的大きな都市について、その事務権限を強化し、できる限り住民の身近で行政を行うことができるようにして、地域行政の充実に資するべく設けられたものです」とある。実際に中核市になり、大阪府が行っていた保健所業務や産業廃棄物の指導・監督、屋外広告物の規制など、新たに約2300もの事務を高槻市が行うことになった。事前に職員研修がなされ、中核市推進計画が策定され、昨年4月にその一歩を踏み出した。

 中核市移行で住民の暮らしがどのように変わるのか、住民ニーズにあったまちづくりがどのように進むのかと、この1年間の議案はある意味で楽しみでもあった。

中核市に移行してまだ1年も立たない今、移行が住民サービスの向上につながったかどうかを結論づけるのは早いかもしれない。しかし、この1年間近くの議案審議を経験して、いま国が進める地方分権は私たちの暮らしをよくすることにはなっていないのでは、住民自治を進めていないのでは、権限を地方に移譲し、国の事務をスリム化しているようで、実際は、地方分権の逆行で、中央集権化しているのではと危惧を抱かざるをえない。

 <期限付き法律で拘束される市町村>

 
中核市移行後の、6月、9月、12月議会での議案審議の中で、法律ができたからとにかくやらなくてはならないという議案や検討事項が次から次へと出てきた。しかもかなり性急な期限を区切ってあるのだ。全国約3200もの市町村の実情を省みずに、政令指定都市から数百人規模の村まで、いっせいにいつまでにこれこれを実施せよという法律は、地方分権・住民自治の流れに反する。

 たとえば、9月議会では、「次世代育成支援行動計画」策定のための予算があった。これは少子化対策として、7月に施行されたばかりの「次世代育成支援対策法」に基づき、全国の市町村がいっせいに2004年中に子育て支援等の内容を盛り込んだ計画を策定しなければならないというのだ。すでに同種のエンゼルプランを作っていても関係なく、新たに策定せよという。確かに少子化対策は必要だ。しかし、期限付きでいっせいにつくれとは、「子ども」に関する審議会などがない市町村は、市民意見の反映といっても形だけで、結局コンサルタント会社に丸投げのところが多く出てくる。住民自治の精神からするなら、住民のニーズ調査、そのアンケート項目の検討も含め、時間的余裕を十分確保してやるべきだ。

また、同じ9月議会では、10年間の時限立法である「都市再生特別措置法」に基づき、JR高槻駅前等を再開発する計画があることが報告された。この法律は2002年6月にできた法律だが、読んで驚いた。都市再生緊急整備地域に指定されると、私たちの生活を守るためにつくられてきた「都市計画法」や「建築基準法」が規制緩和され、かつ財政支援も国土交通省の外郭団体からだされるというのだ。エリア指定は東京や大阪中心であり、超高層ビルを建てるための法律といっても過言ではない。公共工事の批判がなされる中で、ゼネコン主導のまちづくりのメニューが特別に用意されていたのだ。

前回、「公的個人認証サービス」について書いたが、これも2002年12月に公布された「電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律」に2年以内に施行と書いてあるため、この1月29日から実施される。おそらく住民ニーズはゼロに近いサービスだ。小泉政権のIT戦略本部(内閣に設置)が決めた「e−Japan」計画(2001年3月)に基づいて進められているのだが、この法律ができる段階で地方自治体の意見がどれだけ反映されているか、疑問ばかりだ。
 さらに、12月議会では「指定管理者制度」についての説明があった。これも地方自治法が改正され、地方自治体は3年以内に取り入れなければならない制度である。詳細はまた後日ご報告するが、公的な施設の管理や運営を民間事業者などに委託できるという内容だ。市役所の中では、急遽、検討が始まっている。

一例をあげたが、これらは地方からは要望しておらず、つまり住民ニーズがまったくないのに、法律で期限付実施が迫られ、市町村はばたばた検討して実施をしているのが現状である。ほんとうに地方分権・住民自治を進めるというのなら、このような法律で厳しい拘束をするトップダウン式の事務はやめるべきだし、もっと市町村が独自のまちづくりをできるように財源確保することがまず第一だ。

  <ほんとうの住民自治をめざして>

イラク派兵が強行され、憲法改悪も取りざたされる今、有事法制と関連した国民保護法制も検討されるという。法律ができれば必ず地方はそれに拘束される。地方自治体・地方議会の権限など無いに等しい。小泉政権の構造改革・規制緩和路線が地方に何をもたらしているのか、地方議会の予算審議等を通じて何が進行しつつあるのか、もっともっと現場から明らかにして問題提起をしなければと思う毎日である。

                                                 (高槻市議会議員  二木 洋子)