私の主張

−基本的人権、プラーバシーを守るために−
    住民基本台帳ネットワークシステムの凍結を!
                     (日本消費者連盟関西グループ「草の根だより」20
02年7月号掲載)

<住基ネットとは>

 85日から「住民基本台帳ネットワークシステム」(以下、住基ネット)が稼働しようとしている。住民基本台帳とは住民票を集めた台帳と考えればよい。日本では、「住民基本台帳法」という法律により、市町村には住民に関する記録を正確かつ統一的に行う住民基本台帳を整備する責務があり、個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して、住民基本台帳を作成することになっている。住民票に記載する事項も、氏名、出生の年月日、男女の別、世帯主ないしはその続柄、戸籍など法律で定められている。また、住民も正確に届出を行うように求められている。

 99年住基法が改正され、住民票記載事項に住民票コードが付け加えられ、かつ住基ネットが法制化された。この住民票コードとはすべての国民に付けられた11桁の番号である。そして、住基ネットとは、住民票記載の氏名、生年月日、性別、住所、住民票コード、それらの変更履歴の6情報を、全国3200の自治体のコンピュータを結び、一元管理するシステムをう。

 なお、11桁の番号の通知は、高槻では葉書で世帯ごとに85日発送予定である。世帯に届かなければ、市役所で保管される。

  <地方自治情報センターとは>

 住基ネットでは、まず市町村が住民の6情報を都道府県に送る。都道府県は、総務省の外郭団体である「財団法人・地方自治情報センター」(以下、センター)にこの6情報を送り、センターのコンピュータの中に12000万人分の6情報をストックする。センターは、霞ヶ関官庁のネットワークである霞ヶ関WANにつながっており、官庁から本人確認の申請があれば6情報を提供することになる。官庁が本人確認を行ってよい事務は当初93事務となっていたが、この国会で256事務に拡大されようとしている。この85日からはいよいよ本人確認事務がおこなわれるのだが、3200もの自治体と霞ヶ関官庁のコンピュータが、センターを間にはさんで結ばれるという、コンピュータの日本一巨大なネットワークが誕生し、12000万人分の6情報が行き来し、管理されることになるのだ。


<住民にメリットがあるのか>

 住基ネットのメリットとして、政府は次の3つをあげている。

@     市町村の区域を越えた住民基本台帳に関する事務の処理

A     法律で定める国の行政機関等に対する本人確認情報の提供

B     住民基本台帳カードの活用

@は、全国のどの自治体からでも住民票の写しが取れるようになるということであり、Aは、年金給付申請等の際、申請先の官庁がセンターから6情報をとって本人確認を行うため、住民票の写しを取る手間が省けるという。たしかに手間は省けるかもしれないが、システム立ち上げに約400億円、年間維持経費に約200億円(99年国会答弁)もかかることを考えると、それだけの費用対効果があるかどうか極めて疑問だ。

<住基カードの恐ろしさ>

  Bは、来年8月からは、千数百円支払えば、自分の住む自治体からICカード(住民基本台帳カード)を交付してもらえる。このカードを持ってさえ入れば、全国どこの自治体からでも住民票の写しを交付してもらえるし、転出時も、今までは転出、転入の市町村に2回足を運ばなければならなかったが、転入先にのみ行き、カードを返却すればよいことになる。だが、転入先自治体は、カードを転出先に返送しなければならなくなり、逆に仕事が増えることになる。

  もっと厄介な問題は、このICカードには新聞紙1枚分の情報を埋め込むことができ、自治体ごとにさまざまな独自の使い方もできることになっていることだ。図書館カードなどに使われたり、病歴や年金情報も入れ込まれたり、写真を入れ、身分証明書代わりに使ったりできるため、否応なしに持たざるを得なくなる事態も生じるかもしれない。

  <プラーバシーは必ず洩れる>

 民間事業者を対象にした「個人情報保護法案」と行政機関を対象にした「行政機関の保有する個人情報保護法案」が現在国会で審議されているが、問題点が多々指摘されており、今国会成立は不可能となっている。住基法の附則には、個人情報の保護に万全を期すことがうたわれており、個人情報保護法の成立が住基ネット稼働の前提条件になっていた。しかし、その条件がないまま見切り発車されようとしている。

 個人情報保護法がなくても住基法で目的外使用を禁じているし、罰則規定があるから大丈夫だという説明も聞くが、罰則があっても悪用する公務員や委託業者はあとを絶たないし、罰則だけでプラーバシー漏洩は防げない。そして、個人情報漏洩で、被害に遭うのは住民なのだ。
 いくら個人情報保護法があっても、コンピュータのネットワークでは、セキュリテイが100%完璧ということはあり得ない。またネットワークが巨大化すればするほどプライバシーが洩れる危険性は高まる。住基ネットは3200もの自治体と霞ヶ関官庁を結ぶ巨大ネットワークだ。担当する市町村、都道府県、センター、霞ヶ関官庁の職員や委託された業者などの数もいったいどれくらいの人数になるのか想像もつかない。プライバシー漏洩事件は必ずや起こることは間違いないだろう。プライバシーを守るためには、ネットワーク化しないことが一番だ。

<市町村に調査権限がない>

 では、住民の個人情報が悪用されたとき、市町村に調査権限があるのだろうか。情報化社会のなかで、住民のプライバシーの保護を図るため、高槻市をはじめ市町村は「個人情報保護条例」を制定し、市町村のもつ個人情報について住民の「自己情報コントロール権」の保障をしてきた。ところが、住基ネットでは、市町村から都道府県を通じて送られた6情報が、センターを通じて官庁にどのように使われたかを住民本人が追跡調査することはできないし、かりに悪用されても市町村には調査権限がないのだ。これでは、市町村の個人情報保護条例が何のためにあるのかわからない。杉並区長や国分寺市長など6首長が住基ネットの稼働延期を求める要望書を総務省に提出しているが、それは、住民の個人情報を守ることを責務としている市町村として、住基ネットは自己情報コントロール権が保障されていないことに起因している。また、高槻市議会も含め全国の66議会も住民の個人情報を守れと、稼働延期を求める意見書あげている。

  <住基ネットの凍結を!>

 日本弁護士会は、現在審議されている個人情報保護法等では、11桁の番号をもとに「名寄せ」ができる、つまり官庁が11桁番号をもとにさまざまな個人情報を集めることが出きると指摘している。そして、本人確認事務が93から256に拡大されれば、11桁番号をもとに「名寄せ」できる情報もぐんと増える。防衛庁リスト作成問題で明らかなように、霞ヶ関の個人情報に対する認識からすると、11桁番号をもとに個人情報を官庁が勝手に収集していることもありうるのだ。これは、まさに「国民総背番号制」ではないか。

 住民の個人情報を管理することは戦争と密接な関係にある。小泉内閣が出した有事法制関連3法案といい、メデイア規制法といわれる個人情報保護法案といい、住基ネットの見切り発車といい、いつでも戦争のできる国への準備態勢だ。憲法に保障された基本的人権であるプライバシーを守るために、住基ネットは凍結すべきだ。