私の主張

住民訴訟制度改悪の白紙撤回を!
(日本消費者連盟関西グループ「草の根だより」2001年10月号掲載)

<腐敗防止のための住民訴訟>
 日本国憲法にうたわれている国民主権を保障する制度として、議会制度がある。しかし、この議会制度だけでは住民の意見は反映されにくいことから、地方自治法では、住民監査請求制度とその延長の住民訴訟制度が設けられている。これは直接民主主義の機能を持つ制度であり、住民の声と行政のありかたを司法に判断をゆだねることにより、国民主権を保障するものである。
 『行政訴訟10年史』(最高裁判所、1961年)によれば、住民監査と住民訴訟は「地方公共団体の理事者や職員の腐敗行為を防止するため設けられた住民参加の一方式であり、終局的に司法権の関与をまってその実効性を確保しようとするものである」とされ、制度の目的は腐敗防止なのである
 ところが、現在開会中の国会では、地方自治法の改正として、住民訴訟制度の「改正」が審議されているが、改正点をよくみると、実は住民は今までのような監査請求、住民訴訟ができなくなる、住民の権利を狭める「改悪」にほかならない。
 

<住民訴訟の例>
 高槻市では、市長を相手取り起こされている住民訴訟は現在2件ある。1件は高槻市議会不正乱脈追及訴訟の上告審である。高槻市議の行った会派視察は地方自治法や条例に基づかないうえ、公務に値しないため、その費用を返還せよと市議及び市長を相手に住民が起こされた裁判であったが、監査請求は棄却、却下、第1審は原告敗訴、第2審は原告一部敗訴の勝訴判決であった。この敗訴部分をめぐり最高裁に上告中であるが、被告であり敗訴した議員は視察費用を市に返還した。
 もう1件は大阪地裁で係争中で、高槻市土地開発公社がJR高槻駅前再開発用地を買収した価格が不当に高く、高槻市に損害を与えたとして、住民の方が前市長を相手取り、損害賠償請求を求めている裁判である。もちろんその前に監査請求をされたが、監査委員により棄却され、大阪地裁に提訴された。もし原告住民が勝訴すれば、市長は損害を与えたとして、損害賠償金を市に支払うか、控訴することになる。
 大阪市の市役所見張り番は監査請求、住民訴訟制度を使って、「官々接待」など数々の大阪市の税金の無駄遣いをチェックしてきた。監査請求・住民訴訟制度は、税金の無駄遣いを許さない、腐敗を防ぐために大きな役割を果たしてきた制度であり、住民、弁護士が手弁当で取り組んできた制度なのである。

 <改悪の背景>
 ところが、今国会では、地方自治法の「改正」と称して住民訴訟の手続きを複雑化させ、住民が監査請求、住民訴訟を起こせないような制度改悪が目論まれている。
 背景には、次のような全国市長会の要望書や、地方行政調査会の報告があったようだ。この意見書でいう、先行行為の違法性とは首長が事業をする前に違法性を根拠に起こされる裁判のことだが、どのような問題があるのか、市長会の指摘する代位請求住民訴訟というのは、自治体に成り代わって住民が職員や首長など個人を相手に裁判を起こすことであるが、どのような問題あったのか、また応訴費用の負担のありかたといってもどのような問題なのか、この要望書だけではまったくわからない。

 

「住民訴訟制度の改善に関する要望」

[平成10年11月12日 全国市長会 理事・評議員合同会議決定]

住民訴訟制度については、地方公共団体の職員による違法又は不当な行為により地方公共団体が損失を被ることを防止するために、住民全体の利益を確保する見地から、職員の違法又は不当な行為の予防、是正を図ることを目的としており、住民の直接参政手段、地方公共団体の利益を擁護する手段、違法又は不当な地方財務会計の管理・運営に対する司法統制の手段として意義のあるものと考える。
 しかしながら、昨今、住民訴訟をめぐって、先行行為の違法性などの訴訟対象のあり方や代位請求住民訴訟に関しての訴訟参加、さらには応訴費用の負担のあり方等のさまざまな問題が提起されているところである。
 よって、国はこのような実態を踏まえ、住民訴訟制度に関する諸問題について検討のうえ、必要な措置を講ずること。
 以上要望する。」

<改悪の問題点>
 改悪されるとどのような問題が生じるか、入札情報が市幹部、議員、業者の癒着で洩れた場合を考える。現制度なら住民は市長、市幹部、市議、業者を直接訴えることができる。
 しかし、改悪されると、住民はまず自治体に対し、「市長に対し、損害賠償を請求しなさい」という裁判(第1次訴訟)を起こす。その結果住民が勝訴すれば、自治体が市長や市幹部などを訴える(第2次訴訟)という、2段階の方式になる。これでは、今でも手弁当で闘う住民にとって、時間もお金もかかることになり、実質住民負担が増え、裁判は起こしづらくなる。
 その上、仮に住民が勝訴しても、第2次訴訟では住民は原告になれない。原告は自治体であり、自治体が市長を訴えるということになる。それも市長に対しては代表監査委員が訴えることになっており、監査委員は実質裁判を起こすとは考えられない。なぜなら、監査委員は首長が推薦して議会の承認を得て職についているのであり、自分を推薦した首長に裁判を起こす監査委員はまずいないのではないか。しかも、第2次訴訟の提訴期限はきめられておらず、いくらでも引き伸ばしができるのである。これでは、腐敗防止のための制度として機能しないことは明白だ。
 しかも、訴訟対象からこの談合業者は外されており、業者は訴えられない。
 今国会では、総務委員会で現在審議されているが、他の法案の審議もあり、1119日現在2回委員会審議されただけで、継続審議の可能性が高いとのことである。日本弁護士会からも反対の意見書がだされているが、本当に地方分権を進め、まちづくりに住民参加をすすめていくのであれば、このような住民訴訟制度の改悪は住民自治の制度の後退にしかならない。このような改悪をさせないように総務省は白紙撤回をするべきである。