私の主張
IT革命と議員活動(日本消費者連盟関西グループ「草の根たより」2001年7月号掲載)


 5年以内に世界最先端のIT国家をめざすという「e−Japan戦略」(2001年1月)が進行中である。本年1月に施行された高度情報通信ネットワーク社会形成基本法に基づくものだが、IT(情報通信技術)を積極的に活用し、その恩恵を最大限に享受できる知識創発型社会の実現に向け、早急に革命的かつ現実的な対応を行わなければならないとして、超高速インターネット網の整備とインターネット常時接続の早期実現、電子商取引ルールの整備、電子政府の実現、新時代に向けた人材育成等を通じて、市場原理に基づき民間が最大限に活力を発揮できる環境を整備するという。

 この戦略のなかで、地方議員に一番関係があるのは2003年「電子政府」実現への取り組みである。「電子政府」とは単にパソコンを使っているというだけではなく、情報のネットワーク化で省庁横断的、国・地方一体的に情報を瞬時に共有・活用する行政のことである。つまり24時間いつでも全国どこからでも行政手続きの受付が可能になるのである。そして、大阪府が「電子府庁」と看板を掲げているように、「電子政府」にあわせて、地方自治体でも「電子自治体」をめざす取り組みが進められている。一昨年ぐらいから高槻市でもパソコン購入費やソフト開発の予算が相次いでおり、新たな公共事業ともいえる状況である。この施策をチェックするのが今私たち地方議員の大きな仕事になってきた。

 原発に反対し、できるだけ電気を使わない生活をしようと心がけてきた私は、ワープロやパソコンなどの電気製品には反射的に体が拒否する。だが、議員になって10年、言いかえれば、ITと格闘の10年でもあった。IT施策の評価は住民の側の視点に立って行うべきで、いずれ電子自治体の光と影についてはまとめたいと思うが、今回は、草の根地方議員が今抱えているIT問題を述べたい。

<手書き、ワープロからパソコンへ>
 「議員活動の報告は議員の責務」と肝に銘じている私は、91年初当選時から手書きの議会リポートを出していた。自分では読みやすい字だと思っていたのだが、ワープロの活字が主流になってくると、「読みづらい」「1ページにもっと情報を」という声が寄せられた。名簿だけはワープロで管理していたが、それなら文書作成もと日常的にワープロを使い始めた。法律事務所に5年間勤務していて和文タイプには慣れていたので、なんとかローマ字変換で打てたが、名簿数が増えると宛名シールの打ち出しには数時間かかり、ワープロの限界を感じていた。
 2期目の選挙に際して、思い切って安いデスクトップ型パソコンを事務所に購入し、名簿管理をパソコンで行った。94年の年末のことであった。友人に入力してもらったのだが、パソコンは名簿管理には便利だったし、宛名シールも短時間で打ち出せた。やがて、文書作成もパソコンに変えた。

<インターネット接続に>
 その後まもなくウインドウズ95が発売され、インターネットがブームになリ始めた。
 ある日、議会質問の準備のため、新聞発表にあった資料を送ってほしいといつものように総理府に電話をしたところ、「ホームページ(HP)に出ていますので、そこからとってください」とのつれない返事だった。仕方なく市職員にとってもらったのだが、その後も何度か同じようなことが続いた。そこで、資料収集は人の力を借りずに自分でしようと、インターネット接続を決意した。だが、安く買った事務所のパソコンは容量が足らず、インターネットは接続できなかった。ちょうど夫も仕事の関係でパソコンが必要になり、今度は自宅にデスクトップ型のパソコンを購入し、電話回線で接続した。
 インターネットを始めて熱中したのは、行政や市民運動、政治家のHPだった。議会質問の資料収集のためである。そして、双方向性が売り物のIT時代に対応するには、情報の受け手だけでなく情報の発信元にもならないとITの問題は見えてこないのではと新たなチャレンジを決意した。もちろん私1人でできるはずもなく、夫に協力してもらい、先駆的な政治家のHPを研究し、ようやく98年4月に私のHP『わさび通信』を開設、情報の発信元になった。内容は最初は無理をせず、配布用に作成した議会リポートのみの掲載だった。
 ところが、ここで大きな問題が起こってきた。電話回線の安い料金でインターネットをしようとすると、夜の11時以降になる。その時間帯は夫もパソコンを使って仕事をしたい時間だ。それなのに高校生や中学生の息子たちまでもがインターネットを使いたがり、11時以降は家族が順番で1台のパソコンの前に座るはめになった。私の順番はどうしても最後になり、いつも睡眠不足に襲われた。しかも、この時間帯は回線が混み、接続が遅くなるのである。

<大型のノートパソコンに>
 そこで、1999年秋に2つの解決方法をとった。ひとつは、電話回線でのインターネットは費用もかかれば接続時間もかかるので、工事費はかかったがケーブルテレビ接続に切り換えた。おかげで定額で24時間いつでも瞬時に接続することができるようになった。
 もうひとつは、仕事はできるだけ昼間に事務所で片付けようと、私用に大きい画面のノートパソコンを1台購入した。これなら夜ふかしせずとも、昼間に情報を検索できるし、そして、ノートパソコンなら自宅と事務所を往復できるようになり、仕事の能率もあがるのではないかと期待して。
 しかし、息子たちは自宅のパソコンをどんどん占拠し、夫の仕事はまったくはかどらなくなってきた。その上、携帯電話を買ってくれないなら、せめて友達とパソコンでメールのやりとりをさせてほしいと言い出したのである。
 また、私は自転車議員、自転車の振動の影響がないようにと、ノートパソコンをリュックに入れて背負っていたのだが、大きいのがたたって重く、肩が凝って仕方がなかった。

<最新ノートパソコン、ウィルスとの闘い>
 そこで、2000年の夏、持ち運びに便利な小さな軽いノートパソコンをもう1台購入した。これで、4台目のパソコンである。前の大型のノートパソコンは夫が使い、デスクトップの方は息子たちがメールアドレスをそれぞれ取得して、使うことにしたのである。
 この間に、自宅のデスクトップとノートパソコンで家庭内LANを構築し、ネットワーク環境がどのようなものか体験した。また、夏もクーラーなしでがんばっていたが、パソコンのためにクーラーも設置せざるを得なかった。
 これで一段落つき、家族それぞれITの環境が整ったとほっとしたのもつかのま、私の新型ノートパソコンでは、ウィルスとの闘いが始まったのだ。最初に感染したの昨年の秋のこと、使い始めて3ヵ月後だった。知らない間に他の人にも感染させてしまった。その後もワクチンを使用してもウィルス感染は続くし、駆除に失敗すれば、大変な事態に陥る。修復には相当なエネルギーを要したし、メールアドレス等は何度かすべてなくしてしまった。原稿が間に合わなくてご迷惑をおかけしたこともあった。この苦労は感染した人でないとわからないだろうが、ウィルス感染は噂に聞くとおり、たいへんな事態なのである。この1ヶ月はなんとか落ち着いているものの、感染原因は不明で、いつ感染してもいいように対策は万全を期して行っておかなければならず、気を使う毎日だ。
 パソコンを4台も買いこみ、プリンターは事務所と自宅に計3台、スキャナー1台、MOやCD-RWなど付属機器、それにいろいろなソフトやその解説書、いったい総計いくらITに投資しただろうか。初期投資がようやく終わった段階で、まだまだほしいものがあるが、あとはお財布とにらめっこしながら整えていくつもりだ。それにしても、パソコン、インターネットの世界は次から次へとものを買わされる世界である。

<今抱える私の3つの課題>
 先日、自治体の電子化について考える会合で、ある市の情報政策担当者が「職員がパソコンを使いこなすには、上からの仕掛けが必要なことと、20代なら半年、50代以上は1年以上かかります」と言われた。50代以上の人が業務上使うのでも1年以上かかるのなら、夜しかパソコンの前に座れない私などは、使いこなすのに数年かかっても当たり前だと安心した。
 自分ではまだまだ使いこなしているとは思わないが、確かにパソコンは議員活動上必要な名簿管理と文書作成には便利であるし、インターネットは行政情報等すぐに入手できて便利である。が、悩みはつきない。

《隠れた情報をどう入手するか》
 第一に、インターネットと接続することでいろんな情報は瞬時に手にすることはできるが、ネット社会ではその情報は今や議会質問をする上では、基礎資料にしか過ぎない。ネット上にない情報をどう入手するかが逆に問われだした。とりわけ行政情報の場合、ネット上にあるものがすべてではないし、担当者に都合のいいものしか発信されていない場合もあり、隠れた情報の入手がより重要になってきた。
 
《ネットに無縁の人々と》 
 第二に、私の支持者の人たちは、ネットと無縁の人が多い。FAXを使わない人もおり、種々の連絡は、電話、FAX、ネット上でのEメールと3つを使い分け、議会報告も今までどおり戸別配布も続けながら、新たにインターネット上でも発信せねばならない。便利とはいえ、仕事は増える一方である。
 議員のHPを採点しているHP『開け!電網政治の時代』では、私のHPは並み居る国会議員と同じ土俵で堂々全国第17位、府内では2位と健闘している。議会リポートだけでなく、最近ではけっこうエネルギーを使ってまめに更新をしているのだが、それを一番の支持者に見てもらえないのが私のつらいところである。

《まだまだ続くITとの格闘》
 第三に、ITとの格闘はまだまだ続くことだ。
 地方議員でもインターネットでEメールを扱い、HPを持って発信している人もいるが、自分で作成も更新もできる人はまだまだ少ない。
 ところが、住民基本台帳ネットワークシステムなど、すさまじいスピードで自治体の電子化が進められている。パソコンを使いこなせずに、これらのネットワークシステムを理解し、問題点を指摘するのは、かなりむずかしい。
 たとえば、担当者から説明を受けていて、あまりにもさりげなく使われるIT関連の専門用語に、それはどういうことかと聞くのも恥ずかしくて聞けないことが多々ある。こっそりあとで辞書をくって調べているのだが、ちょうど農薬問題に取り組んだとき、カタカナの農薬名を覚えるのに苦労したのと同じ調子だ。IT用語やITのシステムを理解し消化していないと、「電子自治体」の抱える課題や問題を提起できない。
 バイオテクノロジーといいIT革命といい、「先端」という言葉がつくと、いいこと尽くめように受け止められるが、社会のあり方にかかわる重要な問題だ。しかしチェックする議員が不消化の状態で、議会で充分な議論もできないまま予算がつき、どんどん進んでいくことに、私は恐怖を感じる。議員としての責務を果たす以上は、あまり好きではないITとまだまだ格闘していかねばならならない。
 地球温暖化問題を考えると、91年度に比べ私の消費する電気代、紙代は確実に増え、二酸化炭素を排出しているのが、私の一番気になる点だ。