私の主張
国勢調査の廃止を!(2)−大阪府内7市1町の報告書を比較して−
   (日本消費者連盟関西グループ「草の根だより」2001年5月号掲載)

 昨年11月発行の「草の根だより」で「2000年国勢調査実施状況報告書」(以下、報告書)についての入手を呼びかけたところ、大阪府内7市1町、兵庫県内6市の報告書を送っていただいた。兵庫県内分は山崎昌子さんがまとめられたので、私は大阪府内7市1町の報告書を比較してみた。

 この報告書は、国勢調査終了後に、17項目について自治体のデータ、意見、提案等を記入したもので、都道府県に提出された。主なデータの比較は次表にまとめた。

   表:2000年国勢調査実施状況比較(大阪府内7市1町)

 調査票封入提出率は、25.6〜56%であり、前回より大幅アップした。また、「顔見知り」が調査員(調査員が自分の居住区の調査をしている)である比率が高い自治体ほど封入提出率も高い傾向があり、プライバシー意識の高まりを示したものといえよう。報告書には現行調査に対する各自治体の苦悩がにじみ出ていて、現行のまま調査を続けるべきという自治体は皆無であった。とりわけ現行調査の廃止も含めて検討すべきという意見を出している自治体もあり、人口が多い自治体ほど調査前年度から職員配置も含めた予算要求を提案するなど、多くの問題を抱えていた。

 各自治体の意見を読むと、自治体の抱える共通の問題点は、調査員の確保、調査員の質、調査員調査の限界、調査項目の必要性、調査の精度にあることがわかる。

 しかも、表の最下段からわかるように、調査ができず、近所に聞き取り(氏名、性別、世帯員数)をしてあらためて郵送をお願いしたが戻ってこなかった世帯も多い。これらの世帯は調査項目22が未記入であり、全数調査が行われていない。また提出した世帯でも部分記入であったり全部拒否もあり、22項目にもわたる全数調査は不可能になってきている。B市が指摘するように、人口については住民基本台帳と外国人登録で、他の項目については各種指定統計調査で十分対応できるのではないか。もはや国勢調査の意味はないと断じざるを得ない。
 
 ちなみに、私の住む高槻市では、月末にその月の人口が発表されるが、9月30日の住民基本台帳と外国人登録のあわせた人口は35万9601人(13万8859世帯)、翌日の10月1日の国勢調査では35万7440人(13万3098世帯)、2001年3月末の人口は35万7791人(13万8975世帯)である。これを見る限り、あえて国勢調査の人口データを使う必要性が感じられないし、さまざまな行政施策は最新のデータでこそ行うべきである。調査する側の自治体の指摘や提案、調査される側の住民の苦情を真摯に受け止めるなら、国勢調査はやはり廃止すべきである。


報告書に記載された自治体の意見など

<実施体制について>
 兵庫県では実施本部を設置していない市もあるが、大阪府内では実施本部は設置されていた。が、相談窓口のない市があり、相談窓口設置市は相談件数も把握しているが、未設置市の相談等の件数は概数であり、市民の苦情や意見を受け止めるためには窓口設置が必要である。

<調査員について>
 調査員のプライバシーに対する認識はきわめて重要であり、高槻市、八尾市では市職員等の公務員が調査員に占める割合が高く、また調査員は居住区をはずす措置をとっている。そのためか、両市とも封入提出率が低くなっていた。また、各自治体とも調査員の確保に苦労していた。
・一定水準を満たした調査員を多数そろえるのは至難の業である(A市)
・公募により調査員を募集したが、具体的な選考基準がないため一定水準を確保することが困難(D市)
・引き受けてくれる人がなかなか見つからなかったので、選考らしい選考ができなかった(G市)
・原則として民間人の調査員を任命するので、自治会等への推薦依頼が多くなったが、調査員としての適格性について十分把握することは困難な場合が多く、調査実施機関中にその点での世帯からの苦情も各地で出ており、現行の選考基準について抜本的に見直すべきではないか?(E市)
・世帯によって顔見知りの調査員がよい場合とよくない場合があり、調査員調査には限界があるので、調査の廃止も視野に含めてその方法を検討しなければならない。(B市)
・調査区の増加に比べて、調査員の配分数が少ないため2調査区を担当する調査員数が前回比で3倍以上となり、選考に苦慮するとともに、100以上では世帯数が多すぎて調査精度にも問題があると思われる.(E市)
・自宅周辺の調査をはずした.特に希望があれば、同一小学校区の調査をはずし、自転車で10分〜20分程度の距離を目安とした(D市)
・市民のプライバシー・個人情報の保護の観点から調査員と対象世帯との顔見知りを避けるための配置を行った(C市)

<調査方法などについて>
・ オートロックマンションやワンルームマンション、さらには所有者が非協力的なマンションでの調査は至難の業であった。・・・以上のようなマンションでは近隣の人に面接することすら困難であり、仮に面接できたとしても、「聞き取り」による調査票作成すら不可能である(A市)。

<調査票封入シールについて>
・ 全面封入できる大きさのシールにするか、もしくは封入提出用封筒を全世帯に配布を(B市)。

<その他、提案や意見>

A市  プライバシーの意識が高くなりつつあり、現行の方法では調査が困難なので、この際、郵送による調査方法や、特にプライバシーにかかる項目(教育・勤め先など)については全数調査から除くなど、抜本的な改革を検討されたい。
「国勢調査を自治の視点から組み直す」(再検討のための素案として)
@ 人口調査(全数)と社会調査(任意)に区分する
国が全国の人口を把握するために必要な項目(男女別・年齢)に限定して調査員の聞き取りにより全世帯に対して実施する人口調査と、それに併せて自治体が地域の必要性に基づき作成したアンケートを任意に(全世帯を対象)郵送での提出を求める社会調査に区分して実施してはどうか。
A 正確な人口をめざすため、法整備をする
人口調査は実施する上、正確でなければならない。そこで、まず、世帯が調査に応じやすいよう項目を限定する。次に、居住しているという事実は地域の安全上、必要不可欠な情報なので、申告義務を明確にする。さらに、共同住宅の所有者・管理者等に対しても協力義務を課すべきである。
B 自治・分権を進めるため、自治体が調査主体となる。
国勢調査は一貫して国の根本調査として実施されてきており、地方集計等の制度はあるものの、あくまで国政に資するため、項目が選定され実施されてきている。自治・分権の時代にふさわしく、調査結果を地域の計画等に有効活用するためには、地域の実情に応じた項目を設定し、自治体が主体となって実施すべきである。そこで、人口調査に併せて実施する社会調査は、自治体が住民のニーズを把握し、各種の計画等に生かしていけるよう、世帯の協力のうえに成り立つコミュニティ実態調査の性格をもつべきであろう。

B市<国勢調査の在り方について>調査方法など根幹を成すものは大正9年からのものが踏襲されており、生活環境や住民意識が大きく変化している現代ではすべてにわたり矛盾が生じ、多額の経費をかけているにもかかわらず、現況が確実に把握された統計調査とは言い難い.国勢調査については、廃止も含め抜本的な見直しを早急に行う必要があるため、以下にその問題点を列挙した。
@廃止について/人口・世帯を把握するには住民基本台帳人口ならびに外国人登録人口でもって、常駐人口と十分判断できる。また他の指定統計調査で各種状況は把握できる。A調査員調査について/  世帯に提出方法の選択性をB調査項目について/プライバシーに属する項目等は全廃をC聞き取り調査は廃止をD「世帯名簿」「調査区要図」の廃止E調査区並びに調査員の配置についてF調査員ならびに指導員の安全対策の欠如について(*B市の意見、この提案はA4版3頁にわたるもので、項目のみ記載した。)
 
C市 郵送方法の制度化

E市 調査員の配置については1人60〜70世帯が限度と考えられることから2調査区担当の調査員配分は減らすべき。調査項目については、他の統計調査と重なる項目が多いので、基本的な項目のみとするような整理が必要ではないか?「機械で読み取りをしない」という勤務先の社名などはなぜ必要なのかという世帯からの質問や記入拒否が多く、次回調査において検討されたい。

F市 今後も調査票の封入提出率が増加していく傾向が予想されるなかでは、調査方法を調査員による直接配布・取集だけではなく、郵送提出方式も活用すべきではないか

G市 プライバシーの保護等の問題が大きく取扱われる中で、現行の国勢調査では5年後正確な調査は望めないと思われる。

 調査項目の一部拒否も含め調査拒否もあり、調査員の確保も困難であることから、調査方法、調査項目について見直しを図っていただきたい。プライバシー保護の関心は今以上に高まっていくことが予想され、現行のままでは、調査がますます困難になっていくだけでなく、調査の結果内容の正確性についても落ちていく一方であると思われる。調査方法については、なるべく調査員が個人のプライバシーに触れる機会を少なくし、調査項目も固有名詞を記入しなくてもよい形式に改善していただくよう検討願いたい。