私の主張
国勢調査の廃止を!
 (日本消費者連盟関西グループ「草の根だより」2000年11月号掲載)


国勢調査は人口調査
 第17回目の国勢調査が終了したが、現在地方自治体では整理作業に追われている。
国勢調査票の左上には、小さく「指定統計第1号」と書かれている。この表示は、国勢調査は総務庁統計局が「統計法」に基づき実施する調査であることを意味している。「統計法」によれば、国勢調査とは10年ごとに実施する人口に関する全数調査で、国勢調査を行った年から5年目にあたる年には簡易な方法で調査を行うとなっている。また国勢調査をはじめ総務庁の定める指定統計については、調査対象者に申告を命ずることができる(第5条)とあり、罰則規定(第19条)も定められている。つまり調査対象者には申告の義務があり、申告しなかったり、虚偽の申告をしたものは6箇月以下の懲役若しくは禁錮または10万円以下の罰金が、調査員等が職務上知りえた事項を漏らしたりしたときは1年以下の懲役または10万円以下の罰金が処せられることになっているのだ。
国勢調査の主要事項、たとえば調査時は10月1日午前零時現在であることや、調査対象、調査事項、調査員、調査区、調査方法などは、「国政調査令」で定められている。
 今回の国勢調査の調査項目は配偶者の有無、国籍など22項目にもわたるが、「統計法」に基づく人口に関する調査ならそんなに必要ないのではと、誰もが抱く素朴な疑問である。

人口調査なら住民基本台帳で十分
 記入された国勢調査票は調査員、指導員、市町村、都道府県、総務庁へと送られ、各種統計結果が公表される。前回95年10月実施の国勢調査の各種統計結果は、その年の12月に都道府県市町村別人口がまず公表され、以後何回にもわけ公表されたが、親子同居等に関する特別集計結果などは本年9月に公表された。統計の集約に実に5年もかかっているのだ。
 そもそも国勢調査など指定統計の目的は、国や地方自治体の各種行政施策を立案するための基礎資料を得ることである。総務庁のHPによると、国勢調査の結果得られた統計は3つの分野で利用されているという。一つは法律に基づく利用で、国会議員や都道府県、市町村議会の議員定数の決定、市などの設置要件、地方交付税算定基準、都市計画や過疎地の要件などは、それぞれ関係する法で人口、世帯数は国勢調査の統計結果を使うことになっている。
また、二つ目は社会福祉政策や地域開発計画などの行政施策への利用、三つ目が将来人口の推計や人口分析など学術研究での利用という。
しかし、人口に関する総計は高槻市でも住民基本台帳に基づき毎月毎に公表されている。国勢調査の結果とこの数字を比較してみると、1995年10月1日の国勢調査結果は36万2270人であるが、前日9月30日の住民基本台帳と外国人登録をたすと36万4451人であり、誤差は0.6%である。ちなみに95年高槻市国勢調査費は1億2051万円であった。議員定数や地方交付税決める根拠の人口は、関係法律を変え、最新の人口に変えれば1億円は浮くのだ。
また、本年4月実施された介護保険制度の場合、介護保険事業計画策定にあたっては、それぞれの自治体で、詳細な実態調査を実施している。国勢調査の統計結果だけで自治体の行政計画はたてられず、地域住民のニーズに合った計画にするためには最新の調査結果を使用しなければならない。こうしてみると、国勢調査の統計結果は、結局は学術研究に利用されているだけではないかと思わざるをえない。
なお、今回高槻市(36万人)での国勢調査予算は1億9000万円(全国では700億円)であり、うち1億5000万円は調査員(約1600人)、指導員(247人)等の報償金である。全て国の負担であるが、国勢調査専任の職員約10名分の費用はこの中に入っていない。地方交付税の中で交付しているとのことだが額はわからない。また兼務で調査業務にかかわる職員25名もおり、もし、国勢調査がなければ、本来の自治体の仕事に専念できる。5年ごとに臨時で国勢調査実施本部(35名)を設置しなければならない高槻市の負担ははかりしれない。

多発するプライバシーの侵害
 国勢調査は、約50世帯を1調査区として、9月下旬より国からの委嘱を受けた調査員(臨時の国家公務員)が調査票を配布、注意事項を説明、10月1日以降に受け取りにまわる。
 今回の調査事項は22項目だが、ずばりプライバシーにかかわる事項ばかりで、プライバシー侵害が多発している。9月27日から10月6日まで国勢調査ホットライン・関西(事務局高槻市)が開設され、私も参加した。また西宮市議の大月良子さん、阪南市議の沢ナオミさんも独自でホットラインを開設された。これらの電話相談の総計は849件、結果を次ページにまとめた。
95年のホットラインと比較して、今回の特長は、やはり調査員によるプライバシー侵害が多いことである。今回初めて密封用シール貼付ととともに、調査員には個人保護情報マニュアルが配布され、調査票の厳重管理、他人にしゃべらない、密封分はあけないことなどが徹底されたはずだったが、シールが配布されなかったり、シールで密封しても目の前で破った調査員もいた。過去の国勢調査時にプライバシーが近所にもれた経験を持つ人も多かった。
高槻市では調査員によるプライバシー侵害防止のため、調査員の研修とともに調査員は居住区を受け持たないよう、クロス配置を徹底している。しかし、大阪市などは自治会に依頼して調査員を推薦してもらっており、調査員は近所の人だ。ホットラインでも大阪市民からの苦情の多くは調査員に関する件であった。
 また5年前に比べ、「拒否したい」というケースが増えた。やはり、プライバシーに関する意識が変わってきた証なのであろう。統計法で罰則があるが罰せられた事例はないことを伝えたが、おそらく前回に比べ未記入で提出した人も多かったであろう。しかし、自治体は未記入提出数を発表しない。なぜなら、前号の草の根だよりで豊中市の方が述べられているように、「国勢調査令」に基づき、氏名、人数、男女数については世帯員以外の人に聞くことができ、調査員は近所等に聞いているからである。本人は未記入でだしても、人数だけでも統計に入れられ、表向きは未記入者なしになるのである。
また、前回のように女性からの電話が圧倒的に多かったが、「夜遅く、男の人が入ってくる」「ストーカーから身を隠しているのに、調査に応じなければならないのか」「母子家庭であることがわかってしまう」「離婚しているのがわかる」など深刻な電話もあった。失業中の男性から「失業が近所にしれるのがいやだ」という電話や調査員からの相談も目立った。

国勢調査は廃止を!
 シールを貼る人と貼らない人がいると、貼るひとは何か知られたくないことがあるのか、調査員を信用していないのかなどと疑われる。これもプライバシー侵害だ。プライバシーを尊重するなら、全員が封入提出すべきである。しかし、本来プライバシー権は、本来自分に関する情報は自分でコントロールできる権利である。何人にも答える答えないの選択の自由があるはずだ。コントロール権を認めるなら、申告の義務を課す調査はできないはずではないか。また、プライバシーについては本人以外から収集するべきではない。
 もうこれ以上、地方自治体も国も多額の税金を使ってプライバシー侵害をするのはやめるべきだ。21世紀は人権の時代、国勢調査は廃止すべきである。

表1 国勢調査2000ホットライン電話受付数

9/27

9/28

9/29

9/30

10/1

10/2

10/3

10/4

10/5

10/6

合計

関西

109

74

103

121

71

85

99

52

55

31

800

阪南

18

4

3

2

2

1

4

1

1

2

38

西宮

0

0

0

2

4

3

1

0

0

11

合計

127

78

106

125

77

89

104

54

56

33

849



表2 国勢調査ホットライン項目別集計表(関西、阪南、西宮分)
            電話受付件数 2000年849件 1995年403件

2000年

1995年

調査員が顔見知り(近所の人、町会の人、大家、管理人など)

339

89

調査員に渡したくない(役所へ持参・郵送したい)

160

29

調査方法を改めるべき

82

8

密封できるか

62

43

密封しにくい

32

密封をあけられないか

66

60

密封を開封された

19

15

小計

760

244

調査項目が問題だ(多すぎる/問題のある項目

165

11

全部拒否できるか

91

46

一部拒否できるか

97

84

小計

188

130

ウソを書けるか

21

3