開会式。 「おい!早くしろよ!急がないと始まるじゃないか!」 「そんなに急がなくても見れるだろ?」 やや、疲れたような男の声。しかし、相手はその言葉にやれやれと言ったポーズを取る。 「何も分かってねぇな?KOFって言うのは、一番近くで見てこそ燃えるんじゃないか!」 どうやら二人は、KOFの観戦客らしい。 そう、今日はKOFの開会式、出場する全選手がそろう唯一の日。いよいよKOFが開催されるのだ。 「おっしゃー!燃えてきたぜ!」 ジョー東は自分達に割り当てられた控え室で待っていた。入場まではまだ時間がある。 この緊張感がジョーは好きだった。この部屋にいるのはジョーだけではない。後他に二人。 「ジョーさん!俺もなんかどきどきしてきましたよ!」 そういったのは、青い学生服に身を包んだ青年。矢吹真吾である。 「いやー、いよいよですね!あー、緊張するなぁ」 真吾は全然落ち着いていない様子で、控え室内をうろうろしている。 対照的にジョーはベンチに腰掛け来るべき瞬間をじっと待っている。そして・・3人目は・・・・ 「ねぇ?バイスさんは緊張しないですか?」 真吾が話し掛けたその相手、緑を基調とした服に身を包んだバイスは、ドアに近い壁にもたれて立っていた。 「緊張?久しく感じた事のない感情だねぇ。まぁ、そうだな。楽しみだけどねぇ。」 そういうとその顔に微笑みを浮かべる。見様によっては残酷な・・・微笑み。 しかし真吾は、全く気づかなかったのか・・・ 「え?楽しみなんですか!?いや、おれも楽しみなんですけどそれ以上に緊張しちゃって」 「矢吹。ちょっとは落ち着け。何も今日試合があるわけじゃねぇだろう?」 そう、今日はあくまで開会式と抽選だけなのである。 「だって、TVに写るじゃないですか!!あー、俺これから街歩けないっすよ!」 さすがにあきれた表情のジョー。 (まぁ・・戦う事に緊張していないなら・・意外に素質あるのかもな) そう思うジョーだった。 それからしばらく・・ ついにその控え室のドアは開かれた! 「そろそろ入場です!よろしくお願いします」 運営スタッフがそう告げる。 「よっしゃー!」 「あーいよいよか、緊張するなぁ」 「・・・・・・・」 三者三様の反応を示して、3人は会場へと向かう。 少し薄暗い廊下を抜け・・・ゲートをくぐる。眩しい太陽の陽射し。 そして・・・・・大歓声。 「それでは次のチームの入場です!!!」 アナウンスの声に従い、ジョーたちは入場する。 「まずは!今までのテリー、アンディという2名のチームメイトと別れ新たなチームを結成。 ムエタイチャンプ!ジョー東選手です!!」 オーッ!!!! ひときわ大きな歓声が起こる。 それに答えて右手を大きく上げるジョー。 その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。これからの戦いに胸躍らせて・・ 「次に入場してくるのは、あの草薙選手の弟子。何と現役高校生!!矢吹真吾選手です!」 真吾にも歓声が起こる。 その大きさに圧倒されたのか、真吾は思わずうつむいてしまう。 (うわ・・・すごい。・・・・これがKOFなのか) しかし、その拳をぐっと握り締め、真吾は顔を上げる。そして、前を見る。 (俺は・・やるんだ!あの人と・・戦うんだ) その視線の先には、すでに入場していた京がいた。 「最後は、バイス選手。特にこれといったスタイルは持ちませんが、投げ技を主体に戦う選手です!」 歓声が起こる。男の歓声が多いのは気のせいではないようである。 バイスはその歓声、周りのもの全てがそこに存在しないかのようにただ歩いていた。 そして選手は次々と入場する。 すべての選手が入場して、開会セレモニーが始まる。 大会主催者の簡単な挨拶。 TV局によるインタビュー。 そして・・・・抽選会。 「じゃあ・・引いてくるからよ。」 そういってジョーは抽選台へと向かう。 向かう途中、その視界に赤い帽子の男が入った。 (テリー・・・) そしてテリーはジョーに向かって笑いかける。 (俺達を引けよ) まるでそう言っている、ジョーにはそう思えていた。 そして抽選箱へと手を伸ばす。 (別に何処でもいいさ、俺達は全部勝つだけだ) そう思いながら、手に取った一つの球。 「二日目第一試合。Aです」 アナウンスの声がそう告げる。 ジョーはトーナメント表へと目を移す、 「えーなになに?・・二日目の・・・・第一試合・・・・へぇ・・」 視線の先、既に決まっていた対戦相手のチーム。 その名はサイコソルジャーチーム。 「サイコソルジャーってアテナさんの所ですよね?いやー・・俺けっこうファンなんですよね」 再び控え室。 ホテルへ戻る支度をしている所だった。 「いやー、明後日か。楽しみだなぁ。」 慎吾はジョーに話し掛けていた。 実は、ジョーは抽選の後雰囲気が違っていた。なにか・・・そう、今すでに戦っているような・・・・・ そんな近寄り難い雰囲気だった。 真吾もそれに気づいたのか、気を使って多く話しかけていた。 「なぁ?・・矢吹」 そんなジョーがようやく口を開く。 「な、何ですか?」 「明後日の試合なんだがな。俺が一人目で出るぞ。」 言っている事が理解できない真吾。 「ど、どうしたんですか?ジョーさんは3番手で行くって決めませんでした?」 「何か理由でもあるのかい?」 バイスも話し掛けてきた。 「ああ・・あいつらだけはよ。どうしても俺が倒したいんだ。すまないな。確かに、試合前・・決めたけどな」 彼らが決めた試合順はこうだった。 基本的には真吾→バイス→ジョー。 この順番で行く事にしていた。 ただ、テリーたちと戦うとき、この日だけはジョーが一人目で出ると決めていた。 あと、何があっても京との試合だけは真吾が一人目という事も・・。 「でも・・・・・」 そう食い下がる真吾。納得がいかない様子である。 「いいさ、何か理由があるんだろう?私は楽が出来ていい。」 「そんな!バイスさんまで!」 なおも食い下がる真吾。 「お前だって、草薙との勝負まで余計な怪我はしたくないだろう?」 「そりゃあそうですけど・・・・もう。わかりましたよ。その代わり草薙さんとの時は絶対俺が最初ですからね!」 ジョーに向かってそう言う真吾。 「わりぃな。二人とも。」 そして、ジョーはさらに帰る準備に向かった。 しばらくして・・・ バイスはいつのまにかいなくなっていた。 真吾は『草薙さんに挨拶してきます。そのままホテルの方に帰りますから、ジョーさんも先に帰っていてください』 そう告げて出ていった。 ジョーは誰もいない控え室で考えていた。 明後日の試合の事を・・・ コンコン。 その静かな部屋にノックの音が響く。 「どーぞ、開いてるぜ」 その声と同時に扉が開く。 その扉の向うには、小柄な人影・・ 「!?・・お前は・・」 「こんにちは!ジョー東さん。」 ジョーの視線が厳しくなる。その視線の先には小柄な女性。・・いや、少女と言った方が正解だろう。 「麻宮アテナ!・・・・・なんだ?なにしに来やがった。」 「挨拶です。明後日の試合。私たちも全力を尽くします!よろしくお願いしますね」 微笑みかけるアテナ。 「言われなくてもやるさ。俺達は誰にも負けねぇよ。用はそれだけか?」 「ええ。それじゃあ失礼しますね。」 そういって、軽く頭を下げ部屋を出て行こうとするアテナ。 その後ろ姿にジョーが声をかける。 「なぁ、お前は・・歌、歌っているんだろう?」 振り向いて再び微笑むアテナ。 「はい!よかったらジョーさんも聞いてくださいね。それじゃあ明後日に。」 そしてアテナは帰っていった。 部屋に残されたジョー。 その拳は堅く握られていた。 (歌・・・・・・・か・・・・・・・) それから数分。 ジョーもそろそろ帰ろうと立ち上がったその時だった。 バン! いきなりドアが開く。 「よう!驚いたぜジョー!」 金髪、青い瞳、赤い皮ジャンと帽子。テリーボガードだった。 「まさか、あんなチームとは思わなかったぜ。いったいどういうつもりだ?」 そういって椅子に座る。 ジョーも再び椅子に座り直す。 「へへっ!どうもこうもねぇよ。お前らを驚かそうと思ったのさ」 「本当にそれだけか?そうじゃないだろう?・・特に・・」 テリーも少し真剣な表情をする。 「バイスか?・・ああ・・何か企んでいるようだがな。少なくとも。俺らに危害をくわえる気はないってよ。 なんでも、個人的な目的があるらしいがね。」 「その言葉信じるのか?」 「さあなっ!どっちにしても・・・だ!俺の目的は優勝。あいつはそのためには欠かせない戦力だよっ。」 ジョーがテリーに向かって軽くパンチを繰り出す。 それを、こちらも軽く止めながら、 「ほう。俺らに勝つつもりか?そいつは無理だ。お前の変わりに俺らと組んだのは誰だと思う?マリーだぜ?」 そういって笑いかける。 「なんだ?マリーかよ。舞じゃないのか?アンディ悲しんでるぜ?」 こちらも笑いだす。 「はは、違いない。まぁどっちにしろ順当に行けば・・俺らが当たるのは4回戦だ。それまでは負けるなよ。」 「そっちこそ!・・・なっ!」 右腕を出すジョー。 ガシッ!テリーも右腕を出し、ひじ同士を強くあわせる。 「気を付けろよ。今回のKOFも・・・やっぱ何か起こるぜ。」 「ああ、あいつら・・あの3人組がいるからな。」 二人が気にしている3人組・・・オロチ四天王のうちの3人。 七枷社・シェルミー・クリス。 彼らは今年も出場していた。 ただ、今の雰囲気は何処にでもいる普通の青年達。 「バイスもそれと関係しているんじゃあないのか?」 「だとしても俺がさせねぇよ・・テリーは心配しないで、俺に負ける準備をしていな」 そして、テリーはドアへ向かう。 「まぁ、元気そうで安心したぜ。明後日・・負けるなよ。」 そう言ってテリーも部屋を後にした。 バイスは電気も点けないで部屋にいた。 (・・・・・奴等と当たるのは・・当分先か・・でもその前に・・あいつがいるな) そして、二日後。 第一試合! ・・・続く。