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「ATRACの石」を追え!■一通のメール今ではしろクリと呼ばれている、SONY社のパームOS搭載機クリエの第2世代製品 PEG-N700C が発表されたのは今年、2001年3月半ばのことでした。パームOS搭載機初の音声再生機能、320×320ドットの高解像度と独自の日本語フォントによる美しい画像や文字の表示。チラホラと断片的な噂があって、ある程度、心の準備はしていたはずなのに、実際に製品として発表されると、スマートに独自路線を通してしまう、いかにもSONYらしいスタンスのせいもあるのか、様々な機能拡張が賛否両論を巻き起こしました。 3月18日、まだそんな騒然とした気分が続いている時期に、Clie User Club!に「PEG-N700Cのオーディオ機能について 」という記事が掲載されました。
翌日(3月19日)、私(白石)も、palm - musicで、この情報を紹介しました。(当PMUGでは、この話題は取り上げていません。)
けれども、結果的には、この情報は事実ではなかったようです。2ヶ月後の5月23日には、SONY社自身が、しろクリのAudioPlayerの有償アップグレードを発表しました。ソフトウェアのアップグレードで、MP3の再生が可能になるそうです。 Clie User ClubのSPAさんも、palm - musicの白石も、上の引用記事では、言葉を選んで断定を避けているように見えます。「ATRAC3専用の石」という話はあくまで「未確認情報」、慎重に読めば、そのことがわかるようになっているように思います。 それに、後述するように、実はこの情報と平行して、当時既に、クリエの開発者サイド(?)から「MP3対応も検討」との発言があったようです。 ですから、情報に通じた人であれば、3月の段階でも、「実はしろクリでMP3再生は可能」と予想できたのかもしれません。そして、断固として白MSの購入を控えるとか……。 でも、実際には、正直に告白すると、紹介記事を書いている私自身、いつしか、記憶から「未確認情報」という部分が抜け落ちていました。そしてしろクリ発売、大容量白MSの発売といった出来事が続いた4月後半(=英語版PEG-N710Cが出る直前)には、「しろクリでMP3はハード的に不可」と思いこんでしまっていました。 そして私(白石)の周囲では、ゴールデンウィーク中のiWeek2001!や、その後のオフ会でも、「しろクリ日本語版はATRAC3専用の石を積んでいるから……」という話が出ていました。こうした正確でない情報の訂正が、早い段階でできればよかったのになあ、とささやかながら情報サイトにかかわっている当事者のひとりとして、今、私はとても残念に思っています。 「ATRAC3の石」という思いこみは、どうしてこんなに上手く、私たちの心に入り込むことができたのでしょう。そして、そういう思いこみは、回避することができることだったのでしょうか。以下、「ATRAC3の石」の謎をわかる範囲で検証してみようと思います。 なお、AudioPlayerのMP3対応と、白いMGメモリースティックの今後については、Clie User Club!の2001.5.24の[SPAのつぶやき] が、とてもバランスの取れた意見と思います。まだの方は、是非、ご一読をおすすめします。 ■現場検証改めて探索してみると、2001年3月14日、ソニーによる新しいクリエ(PEG-N700C)の発表会を伝えるニュース記事に、次のような記述があります。 Pal Macさん、ご指摘ありがとうございます。
私自身も、メールボックスを調べてみたら、PMUGのメーリングリストに、3月15日に、こんなコメントを投稿していました。
3/14の発表を知った直後の段階では、私も、実はしろクリでも、ソフトウェア的な操作でMP3を再生できるんじゃないか、と想像していたようです。 先日ご紹介した情報(しろクリは「ATRAC3専用の石」を使っているからMP3の再生はできない、という話)は、この後、3月18日にでてきます。タイミングとしては、「MP3」への淡い期待をうち砕く形……。実際、クリクラの過去ログを詳しく見直してみると、 まず、3月17日に、SPAさんがまとめた「Q&A」の中にこういう記述があります。
そして「ATRAC3の石」情報は、翌日3月18日、この箇所に関する情報提供メールの中に登場します。
その後も、真相はどうなのか、私なりに注意していたつもりですが、決定的な発言を見つけることはできませんでした。 例えば、しろクリ発売直後に、早速、「ハードウェアの検証」をしたPalm de COOLの記事「開いてくりえ」(2001.04.08)は、
という結果……。結局、しろクリ英語版発表まで、少なくとも私は、「ATRAC3の石」という情報を決定的に覆す情報を得ることはできませんでした。 DSPなどのハードウェアについてある程度の知識があれば、「ATRAC3専用の石」を使うなんて、ありそうにない、といった予測がついたのかもしれません。 また逆に、メーカーの公式リリースと大手ニュースサイトの記事だけに目を通して、いわゆるユーザー・サイトによる情報をあまり気にとめないでいた人は、単純に、当初の「前向きな対応」が現実のものになったのだ、と納得できたのかもしれません。 結局、今回の出来事は、「中途半端に情報収集したから間違った」ということだったのだろうか、だとしたら、個人サイトをやっている人間として、とても残念……。一通り調べたところで、私はかなりがっかりしていました。 ■有力情報でも、ありがたいことに、ここまでの話をPMUGに公開したところで、一通のメールが手元に届きました! メールの送り主は、Palm de COOL常駐スタッフSANAIさん。 4月8日の「開いてくりえ」公開後にDSPを特定しておられた、ということでした。そこで、改めて該当記事を見直すと、確かに、次のような記述がありました。
何故、私はこの追記に気づかなかったのでしょう。「開いてくりえ」が公開されたのは、4月8日。その後、メモリー増設に果敢に挑戦した4月13日の記事「増やしてくりえ-失敗編その2-」は、続編ともいうべき内容ですが、その後、私は「開いてくりえ」をきちんと見直すことはなかったようです。 少なくとも、上の「現場検証」の文章を書いた時(5月26日)には、「開いてくりえ」を見直しているはずなのですが、ここでも、私は追記を見落としています。言い訳にしかないませんが、しろクリのDSPの詳細は不明、という思い込みが注意力を鈍らせていたのかもしれません。 残念! 4月14日の段階で、しろクリのDSPの正体がほぼわかっていたのです。この段階で、少なくとも、「ATRAC3専用の石」が存在しないことははっきりしていたようです。この点は、私は、知識不足かつ情報不足、迂闊だったという以外にありませんね。 そしてこれで、疑問はほぼ解消しました。 ■「犯人」はいるのか?以上が、「ATRAC3の石」という話題について、私が調べることのできたことのすべてです。当初、私は、「何故、不正確な情報が広まってしまったのか?」原因を特定できるんじゃないか、と意気込んで調べはじめました。そして、結構、上手く、事態を整理することができたのではないかと思います。 でも、改めて見直すと、結局、誰か特定の人、どこか特定の時点に問題があって、こうなった、ということではないようです。 発表会の場で解説してくださったソニーの方、その情報をユーザー・サイトに上げてくださっている人、情報をまとめてサイトを運営している人、皆、善意でやっていることですし、それを読んでどう判断するかは、読んだ側の「自己責任」。 大抵の場合、こういう善意のバケツリレーでかなりのことが上手くいっているわけですが、今回は、そうならなかった。微妙に善意のバランスが崩れたということでしょうか。とても月並みな教訓ではありますが、情報源が曖昧な話の扱いに慎重でなければならない、ということですね。 なお、結果的には、「しろクリはATRAC3専用の石」という情報は、「ATRAC3 + OpenMG」というソニーが推進するスタイルを後押しした格好になりました。 4月から5月にかけての動きをおさらいしてみます。
そして、ひとおおりOpenMG対応メモリースティックなどが売れたところで、ようやくMP3対応が発表になったわけです。 でも、ソニーのような大きな企業の中で、クリエ開発・販売とOpenMGメモリースティック開発・販売は部署も違っているので、あらかじめすべてのシナリオが出来ていた等と考えるのは不自然、ということのようです。 前節までの情報をまとめた段階で、SPAさんは、Clie User Club!の5月28日の[SPAのつぶやき] の中で、私に対して、こんな風にコメントしてくださいました。
ユーザーの間に、誰が意図したわけでもないのにいつの間にか「ATRAC3の石」という幻影が巣くってしまったように、いつの間にか、こういう流れが作るともなくできあがったということですね。なんとも間の悪い形で、偶然が重なってしまったものです。 ■残された謎: gMovieなお、これはもはや今の私には、どうやって追求したらいいいのかよくわからないのことなのですが、しろクリの音声機能については、もう一つ気になる問題が残っています。 上で紹介したClie User Club!の5月28日の[SPAのつぶやき] の最初の部分で、SPAさんがこう指摘してくださいました。
SPAさんがおっしゃるように、しろクリ標準搭載のgMovieも、画像と同時にDSPを使ったステレオ音声を再生できます。しかも、gMovieのデータは、通常のメモリースティック(青)に保存できます。明らかに、OpenMG機能を使っていないと思われます。では、gMovieは音声をどんな形式で扱っているのでしょう? 私にとって、これは、いまだによくわからない「宿題」として残っています。
(2001年6月12日、文責:白石知雄) [HOME] |