仕事の記録と日記

白石知雄

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2004年1月31日(土)

渡辺玲子の無伴奏バイオリン演奏会(イシハラホール)。昨年初夏の関西フィルでのショスタコービチが圧倒的な名演だったので、非常に期待していたのですが、バッハ(ニ短調パルティータ、ト短調ソナタ、ホ長調パルティータ)は、喧嘩腰の強引な演奏で、戸惑いました。ヒンデミットの無伴奏ソナタは、余裕があり、チャーミングで大満足だったのですが。


2004年1月29日(木)

昨年で音楽監督・常任指揮者を退いた曽我大介の指揮で、大阪シンフォニカー定期演奏会(ザ・シンフォニーホール)。ラヴェルとR・コルサコフのシェエラザード。R・コルサコフのかなり濃厚に民族的な味付けが面白かったです。他に、柿沼唯の委嘱作品「マンゴーの森」。


2004年1月27日(火)

上原彩子ピアノ・リサイタル(京都府立文化芸術会館)。とても癖のある弾き方ですが、尋常ではない集中力があって、びっしり作り込まれた演奏でした。曲目は、チャイコフスキー、スクリャービン、リスト。本当は、こういう人は、古典レパートリーの解釈よりも、作曲やインプロヴィゼーションが向いているのではないか、という気もしました。そういう「自分の音楽」をストレートに表現するやり方が見つかれば、面白いことになるのではないでしょうか。


2004年1月25日(日)

鈴木雅明チェンバロ・リサイタル(神戸新聞松方ホール)。メランコリーやトンボーなどに関する解説は、非常に面白いものだったのですが、演奏では、そうした概念が、曲の気分や雰囲気の問題にすり替わっているような気がしました。曲目は、バッハとフローベルガー。華奢で響きの良いチェンバロでした。


2004年1月24日(土)

午後、ラスカのバレエ・パントマイム「父の愛」公演(ピッコロシアター)。オーケストラ・パートをMIDI制御のシンセサイザーで演奏して、舞台は、装置・衣装も本格的なバレエ。生前には上演されなかった(劇場側に採用されなかった)作品とのことですが、1924年の作品としては、やや懐古的な音楽でしょうか。


2004年1月23日(金)

午後、平成15年度大阪文化祭贈呈式(ドーンセンター)。洋楽部門本賞の伊藤勝さん(ピアノ)、同奨励賞の萩原次己さん(バリトン)の披露演奏などもありました。他の洋楽関係の受賞者は、ザ・カレッジ・オペラハウス(グランプリ)と、中西誠さん(ピアノ、奨励賞)。(大阪文化祭の受賞者と贈呈式については、大阪府のホームページで、Word書類の報道資料が公開されているようです。)


2004年1月21日(水)

19日のピアノ部門に続いて、アゼリア推薦新人演奏会の管楽器・打楽器・声楽部門のオーディション。

追記:審査結果は、1月22日に、いけだ市民文化振興財団のホームページで発表されました。

夜、黒田亜樹ピアノ・リサイタル(ザ・フェニックスホール)。バッハ/ブラームス「シャコンヌ」、シェーンベルク/シュトイアマン「室内交響曲」、ムソルグスキー「展覧会の絵」という硬質のプログラム。シェーンベルクが圧巻でした。


2004年1月20日(火)

演奏会評の記録を更新。『ムジカ・ノーヴァ』2月号に、犬伏純子さんのピアノ・リサイタルの批評を書きました。


2004年1月19日(月)

池田市アゼリアホールの推薦新人演奏会、ピアノ部門オーディションの審査。


2004年1月18日(日)

午後、京都造形芸術大学の芸術劇場「春秋座」で、高田和子さん(三絃)と通崎睦美さん(マリンバ)のジョイント演奏会。「はじく」、「打つ」といった、良い意味で深入りしない(=「内臓的」でない)音が心地よかったです。共演のお二人の関係や、誰に作品を委嘱するかということも、芸術上の共感というより、偶然、複数の線が交わったような、縁や出会いの結果であるようです。曲目は、間宮芳生「小鼠太郎」、一柳慧「臨海域」(以上、三絃)、鶴見幸代「nippon」抜粋(マリンバ)、野田雅巳「サハラの詩人」、港大尋「おてだまとながれだま」、神田佳子「SとMのボレロ」、野村誠「小さな平和活動」(以上、三絃とマリンバ)。出来過ぎではないかと思うくらい、過不足なく楽しめる二時間でした。


2004年1月17日(土)

淀屋橋の大阪倶楽部で開かれた関西音楽人新年パーティで、開会に先立って、昨年の音楽クリティック・クラブ賞の贈賞式が行われました。受賞者は、次の4組。

音楽クリティック・クラブ賞
・堺シティオペラ第18回定期公演「三部作」
・ザ・カレッジ・オペラハウス 20世紀オペラシリーズIII「沈黙」
音楽クリティック・クラブ奨励賞
・瀬田敦子(ピアノ)
・中野慶理(ピアノ)

贈賞理由は次の通りです(プレスリリースより)。

堺シティオペラ第18回定期公演「三部作」
堺シティオペラ第18回定期公演「三部作」(プッチーニ作曲「外套」、「修道女アンジェリカ」、「ジャンニ・スキッキ」)、2003年9月6、7日、堺市民会館大ホール

 堺シティオペラは、いわゆる「地方オペラ」ではない。その演奏水準は、着実に全国のトップクラスのレヴェルにあり、海外に出しても恥しくない。
 今年が、18回目となる定期公演は、例年、意欲的な演目をそろえ、主役級に海外からの客演者を加えるやり方で、高い評価を得てきた。
 そして今回は、プッチーニの三部作を、一挙上演するという快挙を、なし遂げた。しかも、いずれも、ダブルキャストを組んだので、主役級だけで40人もの歌手をそろえることになったが、それを見事に成功させた。地元関西の第一線級に加えて、海外でオーディションをした歌手2人を組み入れる幅の広さ。主役級の日本人も、海外で活躍している歌手の一時帰国組が目立つ。
 三部作一挙上演は、事実上、3本のオペラを作るのと、同じだけの手間と、費用がかかるが、そのハードルもクリアした。まさに18年間の実績の積み重ねの成果である。
(日下部吉彦)

ザ・カレッジ・オペラハウス 20世紀オペラシリーズIII「沈黙」
ザ・カレッジ・オペラハウス 20世紀オペラシリーズ III 「沈黙」(松村禎三作曲・台本「沈黙」)、2003年11月7、9日、ザ・カレッジ・オペラハウス

 天草のキリシタン殉教に題材をとっているが、現在の社会に生きる人間にも通じる問題をオペラとして問いかけている。宣教師としてキリシタン禁制下の日本に潜入したロドリゴが幕府の厳しい弾圧のなかで、自分の信念(信仰)を貫くか、転向(棄教)することで日本の信徒の犠牲を一時的にでも食い止めるか、に苦しむ。その矛盾、ジレンマを通して、日本社会が歴史的に抱える苦悩にまで迫る問題提起をしている。必死に問いかけるロドリーゴに“沈黙”を続ける神。これらの緊張したストーリー展開をレシタティーヴォやアリア、コーラスの対峙、またある時は激しく、ある時は沈潜したオーケストラの巧みな構成によって彫りの深い、同時に分かりやすいオペラに作り上げるのに成功している。
 構成力豊かな指揮(山下一史)、オーケストラの的確な演奏や、出演キャストたちのレヴェルの高い歌唱、凝縮した舞台演出などが総合的に組み合わされるなかからオペラの新しい可能性と魅力が醸し出された公演であった。
(嶋田邦雄)

瀬田敦子(ピアノ)
フェニックス・エヴォリューション・シリーズ27「ヒナステラ没後20年記念 瀬田敦子ピアノリサイタル アルゼンチンに魅せられて」、2003年2月12日、ザ・フェニックスホール

 瀬田敦子さんの、十年来のヒナステラへの取り組みが、特に、民族色豊かな小品群の生き生きした演奏に結実していた。演奏中の表情は実に楽しげで、こうした音楽では、くつろいだ雰囲気作りも、演奏自体の自由さ(自在なルバート、俊敏なリズム等)と不可分だと再確認させられた。また、本公演は、ホールが企画を公募したシリーズの一環である。演奏家のこだわりを支え、聴衆に橋渡しした関係者の影の努力を、あわせて讃えたい。
(白石知雄)

中野慶理(ピアノ)
「中野慶理ピアノリサイタル I」、2003年5月6日、いずみホール、「中野慶理ピアノリサイタル II」、2003年9月17日、いずみホール

 春と秋の連続リサイタルで素晴らしい成果をあげた。持ち前の磨き抜かれた透明感のある美音に、確かな構造把握が加わって、ロマン派から近代までの作品を見事に解釈した。リストとシューマンでは、このピアニズムと構築感が巧くバランスがとれ、得意のスクリャービンでは解釈に更に深みが増している。とりわけ大作のシマノフスキとラフマニノフのソナタでは、対位法的重層的テクスチュアを実に鮮やかに弾きこなし、蠱惑的ともいえる美しい世界を現出させた。
(横原千史)


2004年1月17日(土)その2

上記、新春パーティを途中退席して、シュテファン・フッソングのアコーディオン・リサイタル(イシハラホール)へ行きました。バッハのコラールと20世紀の作品を交互に演奏するプログラム。ヘルツキー「High Way for One」や、グバイドゥーリナ「深き淵より」は、大きくジャバラで呼吸するアコーディオンという楽器の特性を生かす面白い作品。これに比べて、バッハのコラール(「主よ、人の望みの喜びよ」、「深き淵より」、「目覚めよと呼ぶ声が聞こえる」など)は、――技術的には立派なものだとは思いますが――、音や効果の点で、オルガンの代用という風に聞こえてしまい、残念ながら、やや物足りない気がしました。


2004年1月16日(金)

村治佳織ニューイヤー・ギター・リサイタル(ザ・シンフォニーホール)。想像していたよりも、随分、おとなしい演奏でした。


2004年1月15日(木)

演奏会評の記録を更新。『音楽現代』2月号のドヴォルザーク、ヤナーチェク特集で、ドヴォルザークの生涯と音楽について書きました。


2004年1月12日(月)

午後、大フィル新春名曲コンサート(フェスティバルホール)。ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を弾いた和波孝禧さんは、周囲の音に敏感に反応して、ぴったりつける演奏。聞かれている、ということが、オーケストラにも良い緊張感を生み出しているように思いました。


2004年1月10日(土)

演奏会評の記録を更新。『京都新聞』に、12月7日のマラソン・コンサート「ヘルムート・ラッヘンマンの肖像」の批評を書きました。


2004年1月9日(金)

大谷玲子ヴァイオリン・リサイタル(京都府立府民ホール・アルティ)。イザイ「無伴奏ソナタ第2番」が、集中して、音楽のスケールも大きく抜群に良い演奏でした。ピアノは江口玲。評判の良い人のようですが、前半のモーツァルト、シューベルトともに、コンパクトにまとめようとしすぎて、やや窮屈な印象を受けました。


2004年1月4日(日)

午後、ハンガリー国立ブダペスト・オペレッタ劇場のガラ・コンサート(京都コンサートホール)。オペラ歌手、俳優、ダンサーなど、芸達者をそろえた歌と踊りのショウでした。考えてみれば、モーツァルト(「魔笛」)や、ウェーバー(「魔弾の射手」や「三人のピント」)を上演したドイツ・オペラ団も、そういう混成部隊だったはず。特に、所狭しと駆け回るオズヴァルド・マリカを見ていると、むしろ、これが本来の意味でのスーブレットなのかもしれない、と思いました。



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by 白石知雄 (Tomoo Shiraishi: tsiraisi@osk3.3web.ne.jp)