仕事の記録と日記

白石知雄

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2003年11月30日(日)

びわ湖ホールでヴェルディ「シチリア島の夕べの祈り」。壮大な舞台装置、最後の殺戮に焦点を当てた鈴木敬介らしい演出など、このホールの特徴がよく出た公演だったと思いますが、この日は、歌手が不調。オーケストラ(指揮、若杉弘)も、グランド・オペラとはいえ、重厚すぎたのではないでしょうか。


2003年11月29日(土)

午後、CD発売にあわせた、青柳いずみこのプロモーション的なピアノ・リサイタル「浮遊するワルツ」(ザ・フェニックスホール)。ワルツという19世紀の文化現象に着目するのは、さすがだと思いますが、シューベルトやリストの演奏は、残念ながら、説得的ではありませんでした。後半、楽譜をピアノの上に散乱させたままで、語りつつ演奏する、というざっくばらんなスタイルは、嫌いではなかったです。


2003年11月28日(金)

大谷史子ヴァイオリン・リサイタル(イシハラホール)。18世紀モデルのヴァイオリンを使い、バロックと古典派の弓を持ち替えて、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンを弾き分ける試み(フォルテピアノ、高田泰治)。お二人は、古楽器演奏で過去を蘇らせてしまう「音楽の妖術」の道の入り口に立ったところ、「魔法使いの弟子」のお披露目という印象でした。


2003年11月27日(木)

犬伏純子によるドビュッシー「前奏曲第1、2巻」全曲演奏会(イシハラホール)。個々の音を丹誠込めて彫琢する誠実で、厳しい演奏でした。


2003年11月26日(水)

楽曲解説の記録を更新。清水美希ピアノリサイタルの解説を書きました。ショパンのワルツ全曲の解説を書くために、シルヴァン・ギニヤールさんの博士論文を再読。とても楽しい仕事になりました。


2003年11月24日(月)

中川保子さん主催、作曲・ピアノの寺嶋隆也を迎えた「林光」シリーズ(ザ・フェニックスホール)。メンバーの唱法が、ベルカント風、ミュージカル風、合唱風と様々で、特に、アンサンブル時には、声のばらつきが気になりました。後半やアンコールのコーラスは、リフレインのたびに、際限のないクレシェンドで歌が膨張してゆく熱唱・熱演。「うたごえ運動」の熱気とはこういうものだったのかな、と思いました。


2003年11月23日(日)

中平忍ピアノ・リサイタル(イシハラホール)。小品集(ショパン「24の前奏曲」、チャイコフスキー「四季」抜粋、ラフマニノフの「練習曲」op.10-2,3,6)から歌とドラマをえぐりだしたり、ストラヴィンスキー「ペトルーシュカ3章」でピアノを色鮮やかに響かせたり、やりたいことが明確にあって、全力でそれを伝えようとする演奏でした。プロフェッショナルにやっていこうとすれば、「やりたいこと」と「できること」の折り合いをつけることが、いずれ必要になってくるのだとは思いますが、面白いピアノでした。


2003年11月22日(土)

岡崎紫によるピアノ名曲リサイタル(ザ・フェニックスホール)。曲目は、ベートーヴェン「月光」ソナタ、リストの「パガニーニ練習曲」(4、5、6番)、ショパンのバラード第1、3、4番など。


2003年11月21日(金)

増井一友ギター・リサイタル(ザ・フェニックスホール)。とても誠実な演奏だと思いますが、ロドリーゴやタレガなどでは、聞き手を妖しく、幻惑して欲しい気がしました。


2003年11月20日(木)

萩原次己バリトン・リサイタル(いずみホール)。優しい良い声だと思います。ベートーヴェン、ヴォルフ、デュパルク、ムソルグスキーを描き分けられたのは、ピアノ(武知知子)に負うところが大きいように思いました。

演奏会評の記録を更新。『ムジカ・ノーヴァ』に、鈴木敦彦ピアノ・リサイタル、『音楽現代』に、ヴァレリー・アファナシエフ・ピアノ・リサイタルと藤岡幸夫・関西フィルの10月定期演奏会の批評を書きました。


2003年11月18日(火)

クイケン四重奏団によるモーツァルト「ハイドン・セット」第1、6番。ぎゅっと詰め込まれた多声書法が生々しく聞こえてくる、恐ろしい演奏でした。後半の五重奏曲のクラシカル・クラリネット(ロレンツォ・コッポラ)も、喉から直接響くような官能的な音。古楽やピリオド演奏の学術的な仮面の裏の倒錯ぶりを、見せつけられた気がしました。


2003年11月16日(日)

小山るみピアノ・リサイタル(イシハラホール)。幻想曲(と即興曲)を集めたプログラム。他には、貴志康一の歌曲のピアノ編曲。これがお目当てのお客さんも、会場には、少なくない様子でした。


2003年11月14日(金)

奈良田朋子ピアノ・リサイタル(ザ・フェニックスホール)。後半で、ラフマニノフが「ファウスト」に触発されて書いたソナタ第1番が取り上げられました。込み入った音楽を、丁寧に読み解く好演でした。


2003年11月10日(月)

京都市芸術文化特別奨励制度第一次審査会(京都芸術センター)。

楽曲解説の記録を更新。恒例の大阪フィル・メンバーによる室内楽演奏会の解説を書きました。


2003年11月9日(日)

午後、オペラ「沈黙」第2日目。


2003年11月8日(土)

中西誠ピアノ・リサイタル(いずみホール)。シューベルトの最後の3つのソナタに「挑戦」。私は、シューベルトのソナタが、全力で挑むべき「大作」とみなされている現状に、どうしても違和感を覚えてしまいます。ピアニストとしての実存をかけたような、目一杯の演奏だったとは思いますが……。


2003年11月7日(金)

松村禎三のオペラ「沈黙」(ザ・カレッジ・オペラハウス)。遠藤周作の原作小説は、今読むと、問題を単純化しすぎているようにも思えるのですが、松村さんは、日本語でオペラが書けるか、という自らの作曲上の課題に置き換える形で、とても誠実に舞台化されていると思いました。石橋栄実さん(オハル)のドラマティックな歌唱が、特に印象に残りました。


2003年11月5日(水)

演奏会評の記録を更新。『京都新聞』に、アルド・チッコリーニのピアノリサイタルの批評と、11月のお薦めコンサートを書きました。


2003年11月4日(火)

松本昌敏ピアノ・リサイタル(いずみホール)。「郷愁のロマンティシズム」と題して、ショパンの嬰ハ短調ポロネーズ、ドホナーニ「ハンガリー牧歌」、アルベニス「イベリア」抜粋とファリャ「アンダルシア幻想曲」、ヤナーチェクのソナタ、ムソルグスキー「展覧会の絵」。よく考えられた選曲で、志の高い人なのだと思いました。ただ、奏法的に問題を抱えておられるようで、やりたいことが、上手く音に結実していないのが、もどかしかったです。


2003年11月3日(月)

ケント・ナガノ指揮、ベルリン・ドイツ交響楽団(ザ・シンフォニーホール)。前半のヴァイオリン協奏曲の独奏者、ヴィヴィアン・ハーグナーは、98年の京都国際学生フェスティバルにベルリン芸大代表として来たときから、別格の存在だったのを思い出します。その時は、スプリング・ソナタも立派でしたが、アンコールのワックスマン「カルメン幻想曲」が圧巻。今回も、アンコールで無伴奏のシューベルト「魔王」を弾いてしまいました。上手く行けば、コンクール出身の優等生とは違うスケールの大きい演奏家になるのではないでしょうか。オーケストラは、音の遠近感などオペラ風。R. シュトラウス「ツァラツストラ」も、明るい、色鮮やかな演奏。リゲティやリームが入った東京での他のプログラムも独創的ですし、自分の町にこういうオーケストラがあったら、音楽生活が充実するだろうと思いました。


2003年11月2日(日)

古川美穂ピアノリサイタル(新大阪ムラマツリサイタルホール)。リスト「巡礼の年」抜粋と「葬送」、ベートーヴェンのソナタ第32番。重厚な選曲でした。


2003年11月1日(土)

大谷正和ピアノ・リサイタル(バロックザール)。注目は、エリオット・カーターのピアノソナタ。色々なことをつめこんで、つかみどころのない曲という気がしましたが、凶暴なポリリズムを平気で弾いてしまうのは、この人ならでは。



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by 白石知雄 (Tomoo Shiraishi: tsiraisi@osk3.3web.ne.jp)