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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)



女性歌人という分類
text 川本千栄

 角川『短歌』2月号の特集は「変わりゆく女の生き様と歌―女歌の現在(いま)」である。花山多佳子、今野寿美、栗木京子、小島ゆかり、米川千嘉子、俵万智、梅内美華子、駒田晶子、澤村斉美の9人の女性歌人に対して、それぞれ日置俊次、真中朋久、本多稜、内藤明、三枝浩樹、松村正直、山田富士郎、佐藤通 雅、荻原裕幸が論じている。また「女流歌人はどう変化したか」という標題で小高賢、大島史洋、吉川宏志の3人が座談会を行っている。
 選ばれた9人の歌人は現歌壇の中でも実力ある歌人たちだと思うし、それを論じた文章も、論として面 白いもの、読み応えのあるものも多くあった。例えば日置俊次は花山多佳子を論じた文において次のように述べている。

 …鋭敏な眼差しが、奇妙な角度から全てを見通している感覚、しかし同時にその眼差しがどうしようもない死角を抱いて塞がれている感覚が、読者を心もとない宙吊りの奇妙な空間へ誘う。…

 また、佐藤通雅は駒田晶子について次のように書く。

 …作者が、平凡・非ドラマに安閑としているわけでなく重々承知しながらも、他のものにすげ替えることのできない己を内に抱え込んでいると―。そこからしか、ことばを発火させることができないことに当惑しながらも、あたかも自然体であるかのごとく作るほかないのだと―。…

 それぞれ的確な比評であり、取り上げられた歌人に対する興味をそそられる。その他の論者も、各歌人の歌を引きながら、説得力のある論を展開している。
 しかし、内容はいいとしても、この特集の構造が気になる。何人かの女性歌人を選び、それを全て男性歌人が評する。また女性歌人の変化について、これも男性だけで座談をする。これらの構造に、ある種の古さを感じるのは私だけだろうか。さらに座談会の題である「女流歌人はどう変化したか」の「女流」も古い語だと思っていたので、少し驚いた。疑問を感じた論者もいるようで、論の中で山田富士郎は次のように述べている。

 現代において「女流」というのは廃れつつある言葉だろう。「男流」という対になるべき言葉はない(フェミニストによる『男流文学論』という本があったが)から、最初から男の視線の貼りついた言葉であり、廃れつつあるのもそのせいだと思う。

 山田の論は「女流」という言葉を的確に解説している。私も山田に同意するが、その上で、「女流」という言葉を使おうが「女性歌人」という言葉を使おうが、それを一つのジャンル分けの指標にしてしまうのはもう古いのではないかと言いたい。現代において、女性・男性問わず生き方は多様化しており、女性という分類で括れないことは短歌だけに限らないだろう。どうしても女性歌人特集がしたいのであれば、論者は男女共、座談会も男女混在が自然だろう。年間回顧座談会などでは話し手は普通 に男女混在の形なのに、「女性の歌を論じる」という題になったら論じる側に女性がいないというのは、不自然だと言えよう。
 これと現象面は全く逆であるが、根がつながっているのではと思えることとして、(前回のこの時評でも触れた)「今、読み直す戦後短歌」のシンポジウムがある。6人のパネラー全員が女性で、戦後短歌として取り上げる歌人も皆女性なのである。戦後短歌が語られる時、今まで男性ばかりが話題になることが多かったからかも知れないが、取り上げられるのが全員女性となると、バランスが不自然なように思える。女性という枠組みをあまり強く意識させれば、本来の戦後短歌を読み直すという目標と違う印象を、人に与えることもあるのではないか。
 物を考える枠組みとして男女という価値観は、短歌の世界には意外に深く根を下ろしているのではないだろうか。そして、それはしばしば本当に話題にしたいことを却って見え難くすることもあるのではないか、と私は思うのである。


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