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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)



「井泉」30号/アンソロジーから歌集の森へ
text 広坂早苗

 歌誌「井泉」が5周年、30号を迎えた。創刊30号記念号には、毎号の作品に加えて、会員の執筆による評論が5編並ぶ。さらに、尾崎左永子が巻頭作品を、森本平・北川透が評論を寄稿し、荻原裕幸・小塩卓哉・篠弘・島田修三・平井弘・水原紫苑・森久仁子の諸氏による寄稿もあって、出詠者百名ほどの小規模な歌誌とは思えない、読み応えのある一冊となっている。
 「井泉」の誌名は、生前の春日井建より贈られたものであることを、編集発行人の竹村紀年子が記しており、師より歌誌の立ち上げを奨められていた事情が了解される。創刊号が師の追悼号となる厳しいスタートだったが、歌誌として着実な歩みを続け、充実した30号を迎えることになった。
 ところで「井泉」の誌面構成には、小結社ならではの特徴がある。第一は、会員の作品には、二人で1ページが与えられるという贅沢さ。相互批評も行き届くこれぐらいの会員数が、歌誌としては理想なのだろうと思わされる。第二に、外部からの寄稿が多く、総合誌風の誌面 作りであること。毎号二人が執筆する「リレー評論」は一つのテーマを追求していくが、一人は会員、一人は外部の執筆者が担当する。外部の執筆者と競合させることで、評論の書き手を育てようという意図もあるのだろうか。また寄稿者は歌人に限らず、詩人や川柳作家の作品が巻頭を飾ることもあり、さながら総合文芸誌を思わせる体裁である。このような歌誌は現在珍しいのではないか。歌壇・詩壇・文壇に広く目配りの届いた編集部があり、一貫した編集方針があることを感じる。
 評論では、佐藤晶の「表現を強くする力学」、彦坂美喜子の「団塊の世代の歌人論」に注目した。佐藤は、広く外国文学の研究者や文化人類学者も交えた座談会の結果 をふまえて、「常套句・本歌・本説」が成功するには、作中に強い「私」が必要である、と分析している。強い「私」によって「常套句・本歌・本説」が生きた現代短歌の例として、どのような作品が挙がったのかがわからず、その点は残念だったが、「今日的状況からの脱出」を試みる方法論の一つとなりうるのではないかと思った。彦坂の評論は、次号以降にも書き継がれていくようだ。展開が楽しみである。

 小高賢編著『現代の歌人140』(新書館)を読んだ。1999年刊行の『現代短歌の鑑賞101』の姉妹編で、同書に収録された歌人のその後の作品と、新たに加わった第一線の歌人の作品が、30首(基本は自選)ずつ収録されている。春日井建の晩年の作品も並ぶ。
 このアンソロジーの良さは、多くの歌人の秀歌を横断的に読むことができ、それぞれの歌人の個性とともに、その時代のテーマ、風潮、問題意識、傾向等を感じ取ることができる点だろう。一人一人の作品に小高が短い鑑賞を付しているが、美質・問題点を端的に突いた小高の小文が、個性と時代を考えるための優れた案内者となっている。
 横山未来子、斉藤斎藤、永田紅など若い世代の作品が読めるのも楽しいが、『現代短歌の鑑賞101』収録歌人の、晩年の歌ばかりが並んでいる本書の頁を開くと、また新たな発見がある。あまり意識して読んでこなかった老年の作品の中に、たいそう心惹かれるものがあったりするからである。

九十歳の先は幾歳(いくつ)でもいいやうなお天気の中花が咲くなり
                            斎藤 史

などは有名な歌だが、以下のような歌にも目を止めた。

齧りついてゐたいわけではありませんとご返事したいがあなたは匿名
                            小暮政次
くり返す放心を無心の思いとし君におさなきときはめぐりつ
                            近藤芳美
人の命尊くあればよたよたのまたへなへなの生きもうべなふ
                            田谷 鋭
瑣末なることがよろこびをもたらせり便器に母のもの立派なり
                            安立スハル

 アンソロジーを手がかりに、それぞれの歌集の世界へ深く入り込んでいきたいものだと思った。


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