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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)



歌人を知る
text 松村由利子

 歌人が歌人をインタビューする面白さというものを、久々湊盈子が四十人の歌人から話を聞いた『歌の架橋』(砂子屋書房)と、小高賢が岡井隆をインタビューした『私の戦後短歌史』(角川書店)を読んで感じている。
 『歌の架橋』は、歌誌「合歓」上に掲載されたインタビューを中心に編まれたものである。最も古い馬場あき子のインタビューは一九八六年、最新の高島裕は二〇〇八年と、全体で二十年以上の開きがあり、登場する四十人のうち上野久雄、菱川善夫ら七人は没している。
 一冊通して感じるのは、よい意味での「ばらばら感」だ。新聞や雑誌の記者がインタビューする場合、基本的にインタビュアーは黒衣である。自身を表に出すことなど論外であり、質問すべきポイントをきっちり押さえた、インタビューの定型とも言うべきスタイルに則って取材する。ところが、久々湊盈子は、時に自らの作歌の悩みや介護の経験、また歌壇における思い出を語る。また、あるときは相手の最新歌集の話題から入り、あるときは短歌をつくり始めた動機について聞き始める、といった具合に、相手によって全くアプローチの方法が異なり、できあがったインタビューのスタイルはさまざまである。
 これは、新聞や雑誌の記者には到底できない手法といえよう。もちろん、事前にインタビュイーの作品を丹念に読み込み、相手の状況をできるだけ把握して臨むのではあるが、こんなふうに自らの心を開くことで相手の本音を引き出すのは、久々湊盈子という豊かな個性、また歌人としてのキャリアがあって初めて得られた収穫だと思う。
 親の介護についてしんみり語る永井陽子、子宮がんと肺がんを患った経緯を淡々と述べる青井史らの言葉は、歌が人生と切り離せないものだということを突きつける。四十人の歌人それぞれの歌に対する思いが迫ってくる一冊である。
 前衛短歌の旗手として名高い岡井隆の『私の戦後短歌史』も同様に、聞き手である小高の短歌、歌壇に関する知識や経験が非常に活きている。
 敗戦後の近藤芳美、塚本邦雄との出会い、九州への逃避行、「歌会始」の選者就任など、岡井の個人史が戦後の歌壇と重なる形で見事に再現されており、読み応えがある。岡井の作品を読むだけでなく、自ら歌をつくり歌壇に関わってきた小高だからこそ、聞き得た内容だろう。三島由紀夫に対して上田三四二が冷たかったこと、『昭和万葉集』(講談社)の出版を巡る秘話など、小高ならではの情報提供が岡井を面 白がらせた部分も少なくない。よき聞き手によって話し手の興が乗った楽しさが伝わってくる。編集者として働きつつ作歌、評論執筆を続けてきた小高の、久々湊とはまた違った丁々発止の「ギブ・アンド・テイク」である。
 あとがきに岡井隆自身が、小高とは何十年も政治的な意見交換などもする論敵であり、時代風潮を痛憤、憂慮したりする仲であり、その「長い間のつき合いがあってこそ成立した企画だった」と振り返っている。岡井が新聞に連載した「私の履歴書」をまとめた『瞬間を永遠とするこころざし』(日本経済新聞出版社)も刊行されたが、自らが振り返った人生と、インタビューによって引き出された思いや回想とは、重なるところもありながら、全く違ったものである。
 こうした優れたインタビュー集を読んだ後で、たまたま京都大学教授の東郷雄二のホームページ「橄欖追放」(http://lapin.ic.h.kyoto-u.ac.jp/tanka/tanka/kanran36.html)を見た。東郷は長い間このHPで優れた歌集評を続けている人だ。この回では、歌を読むときの状況として「目の前の歌集と表紙に印刷された著者名以外に、予備知識が一切ないことが望ましい。私は何の予備知識も持たず、裸の心で歌に出会う。これが理想である」と述べている。しかしながら、なかなかそうはいかず、「要りもせぬ 知識や雑多な情報を知らぬ間に身につけてしまっている」のが現実だとも嘆く。非常に共感するところなのだが、歌人のインタビューを読んでしまうと、この「白紙の心」で歌を鑑賞するのが難しくなるのが悩みでもある。
 有名歌人の歌を作者名なしできちんと評価できるか。作者の境涯を全く知らずに、歌に込められた思いを十全に理解できるか――。歌人のプロフィールを知ってなお「白紙の心」で作品に向き合うのはかなり難しいことだ。しかし、私たちはその要領も心得ておかなければならないだろう。


「週刊時評」が一冊へ『対峙と対話 週刊短歌時評06-08』大辻隆弘・吉川宏志共著
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