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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)

第43回迢空賞受賞!!
第20回齋藤茂吉短歌文学賞受賞!!




戦後短歌再考の機運
text 川本千栄

 去る7月12日、東京において「今、読み直す戦後短歌1」というシンポジウムが行なわれた。主催者の一人である花山多佳子の説明によると、戦争が終わってから64年の年月を経て、戦後短歌の担い手たちが次々に他界している、今、もう一度戦後短歌を見直しておかなければ短歌史的な繋がりに大きな欠落ができるのではないか、そうなってはならない、という主旨の元に、結社も考え方も様々な6人の歌人が集まり、このシンポジウムを行なうことになったということである。歌壇における久しぶりの大きなイベントという印象であった。渡された名簿によると参加者は208名という大変な人数である。
 まず、花山多佳子・秋山佐和子・今井恵子・西村美佐子・川野里子・佐伯裕子の6人がそれぞれ20分前後のミニ講演を行なった。そのあと、各講演に対して一時間ほど合同討議を行い、最後は会場との質疑応答、というプログラムであった。
 こうした結社の枠を越えた一つのプロジェクトチームの発生をとてもうれしく、心躍るような気持で私も聴衆の一人となった。超結社の歌会は各地で行なわれているが、有志による超結社でのシンポジウムというのはここ数年あまり無かったのではないかと思う。歌壇というのも一つの狭い世界なので、結社の枠に収まることなく、歌壇としての文化の継承というのを考えてもいいのではないか。この会は、そうした継承への大きな一歩であると感じられた。
 いくつか細かい点と、気になったところを挙げておきたい。
 各講演のテーマは、花山多佳子〈戦後の表現の模索−森岡貞香を中心に〉、秋山佐和子〈私の歌、公の歌−柳原白蓮と戦争〉、今井恵子〈歌うことの意味−生方たつゑに触れて〉、西村美佐子〈15人の女性歌人たち−S27年の「短歌研究」作品から〉、川野里子〈空間変化としての戦後−斎藤茂吉と葛原妙子〉、佐伯裕子〈「敗戦後」という出発−斉藤史、森岡貞香を中心に〉というものであった。
 このように、各論者の問題意識は様々であった。「戦後短歌」という大きなテーマはあるものの、戦後という枠組みは意外に茫漠としていて話題が拡散し勝ちなものだということを感じた。
 さらに、いわゆるメジャーな歌人を取り上げるかマイナーな歌人を取り上げるかで6人の論者の視点が大きく割れていた感がある。つまり、森岡貞香や葛原妙子など時代の主流といえる歌人を取り上げる視点と、生前は歌壇の重要人物であったにも関わらず晩年及び死後ほとんど忘れられた存在である生方たつゑや、戦前の有名歌人であった白蓮、あるいは無名に近い15人の女性歌人など、主流ではない立場の歌人を取り上げる視点である。メジャーな歌人とマイナーな歌人のどちらをを論じるかというのは各人に任せても、それらを貫く統一テーマが欲しいと思った。
 私は個人的にはこのシンポジウムを通して「文体」の問題を突きつけられたように感じた。戦後の表現として、森岡貞香の文体はイコール森岡の身体である、文体に伴って「われ」が発見されていく、森岡の歌は絶対的な「われ」が存在しない歌だ、といった花山多佳子の講演を非常に面 白く聞いた。また秋山佐和子の講演によると、柳原白蓮は戦中「軍神の母」としての立場で詠い、戦後、息子の戦死を通 して「悲母」の立場で詠った。立場が変わっても、文体は変わることは無かった(そして一般 読者はそのどちらの歌も受け入れた)。こうしたあり方も短歌の一つの姿を表していると思えた。討論において、川野里子が戦争による思想の劇変や断裂を受けとめ得るのは文学しかないのではないか、そのあたりのことを表すのに同じ文体で行けるのかどうか、という発言をし、多いに考えさせられた。
 これらはそれぞれお互いの問題意識に基づいて発言されており、一人の発言に一人が返答したという受け答えになっていたわけではない。しかし、今回の講演や討論を聞くうちに各人がそれぞれ、「戦後短歌」という大テーマの下に、「戦争という大きな出来事の後、短歌の文体はどのように変化したか、あるいはしなかったか、またその要因は何か」とでも呼べるような小テーマを持っているように思えた。次回は、各論者が戦後短歌のある観点(例えば今回の「文体」など)に的を絞って講演し、その後討論すれば話は噛み合って、会がより一層活性化するのではないだろうか。そういったことを思いながら第二回を楽しみに待っている。


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