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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)

第20回斎藤茂吉短歌文学賞受賞!!



詩歌が読まれない理由
text 川本千栄

 雑誌「文藝」夏号(河出書房新社)を読んだ。特集は「穂村弘」である。短歌総合誌以外の雑誌でこのような特集を組まれるのは珍しいので興味を持って読んだ。この中で、巻頭の穂村弘と谷川俊太郎の対談が大変に面 白かった。短歌だけでなく、文学の他ジャンルにも、あるいは人間の持つ文化といった普遍的な問題に対しても触れてくる側面 がある。
 対談の初めに穂村が谷川に対して「僕は短歌をやっていて常に、たとえば音楽や映画、あるいは小説に比べても、詩や短歌は人気がない、読まれないなぁっていう絶望感があるんです。…僕は、詩がもっと読まれてもいいのに読まれていないと感じているんですけど、谷川さんはどう思われますか。」と質問している。まさにこの質問、というか問題意識は、穂村が「短歌研究」二・三月号の吉川宏志との対談で持ち出していたことと全く同じである。それに対する吉川との意識のズレを、この「週刊時評」で松村由利子が、さらにその松村の意見も踏まえて「未来」四月号の時評で田中槐が取り上げている。
 「短歌研究」の対談で問題になったことを簡単にまとめるとこうだ。まず穂村は、詩歌が他ジャンルの文化に比べて人気が無い、ということを吉川に問題点として投げかけた。しかし、吉川はそれは自明のものだと捉えており、他のジャンルでも売れているものはごくわずかで、それも広告という働きかけで売れているのだ、売れていない作品の中にも良いものがあるはずだが流通 していかない、と述べる。二人の討論はこのあたりが最もかみ合っていないのだが、穂村は、消費の問題だという前に、ジャンルの吸引力や他者から見た魅力の問題だ、と強調する。大きくまとめると、なぜ短歌は(あるいは詩歌は)魅力はあるのに伝わらないのか、が穂村にとっては最大の問題意識なのだ。その後松村由利子が吉川の意見に賛成の時評を書き、田中槐が、吉川と松村に対して、歌壇内の議論は歌壇外に通 じないという危機感くらいは持つべきだと批判している。
 こうした流れの中で谷川と穂村の討論を読んだわけだが、穂村の問題意識に対して、谷川の返答は非常に明晰だ。

谷川 人間がポエジーを求める欲求というのは、デジタル時代になればなるほど深く強くなってくると思うんだけど、現代詩ではないところで人はその欲求を満たしている気がする。
穂村 それはたとえばポップスなどに代表されるものですか。
谷川 たとえばそうです。とにかく薄められた詩が蔓延していると思う。連ドラは叙事詩みたいなものだし、ポップスは叙情詩に近いわけだし。それから美術や短篇映画の世界でも、詩的なものは本当にたくさんあると思うんです。そういうものに拮抗するだけの強さを、現代詩はもっていない。

 つまり、穂村が吉川に対して問いかけても話がかみ合わず、田中がその問題意識の共有を表明した「もっと読まれてもいいのに、魅力があるのに読まれていないのはなぜか」という疑問に対して谷川は、「薄められた詩」に対してすら拮抗する強さがない、つまり「魅力が無いからだ」と言い切っているのである。まさに身も蓋も無い答えだが、これは詩歌に関わる者は持っていていい自覚なのではないか。
 穂村の問題意識を無化するような谷川のそうした返答に対して更に穂村は、その中で例外的に谷川が読まれている、その違いは何か、あるいはそれ以前に、もっとあけすけに、なぜ作り手として自分が谷川のようなオーラを持ち得ないかを聞いている。それには谷川自身も即答しておらず、資本主義の世の中で書いてきたから、(詩に)俗なところがあるから、などと答えている。それだけがもちろん理由ではないだろうが、消費を意識する、俗である、いう側面 は、詩歌に関わる者に美点として受け入れられてこなかったことは確かだろう。
 他にも、歌壇でよく問題にされる事柄に関連がある話題もあった。谷川は、自分を空っぽにして巫女的に意識下から来る言葉を待つと言っていたが、そうした発言は短歌の「私性」に対して新しい視点を与えてくれるだろうし、自分の書き物で餓えた子供を助けようなどとは考えない、それより金を出す、といった話は、社会詠のあり方を考える一つの糸口になるだろう。
 「穂村弘」という特集において、谷川俊太郎はゲストであったはずだが、未だ答えを見出せない穂村が、谷川に質問して答えを求めている印象を受けた。あきらかに主客が転倒しているのであるが、短歌が人気の無いジャンルなのが嫌だという穂村の感覚には私はある種の共感を覚えるし、谷川の回答は極私的な回答であったかもしれないが、それを読んで、短歌への迷いや疑問に対して考える視点を与えられたような気がした。
 さらに「詩にはメッセージ性はない」等の、詩歌というものの本質を垣間見せてくれるような発言が多々あった。ご一読をお勧めする。  


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