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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)




吉川宏志vs穂村弘
text 松村由利子

 「短歌研究」の二、三月号に掲載された吉川宏志と穂村弘の対談「短歌の未来を語ろう!!」を読んだ。
 二月号の内容は、歌における「リアルさ」、瞬時にして伝わる歌の素晴らしさの是非などを巡る二人の意見の違い、言葉の噛み合わなさが際立ち、「これから一体どうなるのだろう」とはらはらさせられた。
 期待を込めて読んだ三月号だったが、対談後半では双方が歩み寄った印象が強い。中澤系、今橋愛、前登志夫らの作品の読みを巡って丁寧なやりとりが展開されており、私にとっては前半の方が断然、刺激的だった。
 対談前半における論点はいくつかあるが、両者が最も苛立ちを見せたのは、ジャンルとしての短歌の魅力、吸引力に関する現状認識を語るときだったように思う。穂村は「他ジャンルの表現者からも十分な、僕が望むほどのリスペクト(尊敬)は受けていない」と嘆く。それに対して吉川は、「相手に対してこちらからまずリスペクトしないとだめなのではないか」と返す。私には、ここでいう「リスペクト」が何を指すのか今ひとつよく分からなかった。
 穂村は「リスペクト」されていない例証として、「僕らは小説を読むよね、でも例えば小説家は短歌は読まない」と言う。しかし、それはあまりに大雑把な捉え方であり、歌人だって小説の同人誌はもちろんのこと、大手出版社から発刊される文芸誌を毎月読んだりはしないのではないか。ミュージシャン同士にしても、クラシックと演歌というようにジャンルが違えば、それほど熱心に新譜をチェックし合うこともないだろう。
 その一方で、自ら歌は作らないけれども、和歌や短歌に造詣の深い人は、日本文学の研究者に限らず多い。「現代短歌ってよくわからないなあ」と思いながら、和歌や近代の作品に親しんでいる人も少なくない。「歌」というジャンルは、穂村が思う以上にリスペクトされていると私は思う。
 穂村は結局、大衆性の獲得を目指したいのだろうか。彼はまずジャンルの魅力、吸引力の問題があって、それに消費の問題が絡むのだと主張するが、それは疑問である。吉川が言うように、ヒットする小説や映画というものは、あらかじめ「マスメディアが広告して働きかけてくるから」売れるという面 が大きい。私も、短歌の未来については「商業主義によって、文化の多様性が失われていくという大きな問題を視野に入れて語るべきことだ」という吉川の意見に賛成である。
 ここで穂村の『短歌の友人』(河出書房新社)を持ち出すのは筋違いかもしれないが、私は「リスペクト」という言葉に、この本を読んだときの違和感を思い出した。「はじめに」に書かれた「本書のタイトルと全体の構成については、全て編集の○○さんにお任せして考えていただいた」という一文を読んだとき、何というか、筆者としてのこの本への愛着や情熱、読者に対する敬意が感じられないと思ったのである。それが事実としても、書くべきではないことのように感じた。
 そして同書は、既発表の評論をまとめたものなので、引用歌のダブりが多い。ある程度は仕方がないし、その時々の必然性もあったとは思う。しかし、一冊のなかに「電話口でおっ、て言って前みたいにおっ、て言って言って言ってよ(東直子)」「やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君(与謝野晶子)」がそれぞれ四首、「たすけて枝毛姉さんたすけて西川毛布のタグたすけて夜中になで回す顔(飯田有子)」が三首、などと続けて出てくると、少なからず興を削がれた。
 『短歌の友人』はとても優れた評論集だから、こんな些細なことをあげつらうのはよくないことだ。けれども、「ジャンルの非対称性」を嘆く前に、読者への誠意、リスペクトをもって自分の作品を作り続けるのが基本だと思う。歌も評論も、歌壇や歌人を意識することなく、歌になじみのない人にとっても十分に魅力的であるかどうかが大切だ。その点については、歌の素晴らしさを「まったくの素人」に「一瞬でわかってほしい」と切に願う穂村に私も共感する。
 今回の対談はそれぞれの価値観や作歌意識がよく出ていて、とても読み応えがあった。紙上、ネット上の論争も面 白いが、一対一で顔を突き合わせ、じっくり語る対談のよさを再認識した。


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