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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)




『風景と実感』批評会レポートUP!!


「週刊時評」は年末年始12/29はお休み、1/5より再開いたします。
「大辻隆弘ブログ」12/20更新!

社会との関わり−若手歌人において
text 広坂早苗

 2009年最初の週刊時評である。この年末年始は、「短歌研究」12月号、平成21年度版「短歌年鑑」など数誌を読み、歌壇の2008年を振り返る好機となった。
 「短歌年鑑」の特別座談会「今年の秀歌集10冊を決める」(岡井隆、馬場あき子、高野公彦、穂村弘)、「短歌往来」12月号の「50人に聞く−今年のベスト歌集・歌書」など、2008年に話題になった歌集を総括する特集が組まれたが、特に「短歌年鑑」の企画では、話題になった歌集を挙げるだけでなく、その歌集をどう読むか、どのような点を評価するか、さらにはそれぞれの評者がどんな歌を求めているのか、というところまで話が及んでいて面 白かった。
 注目した、若い世代の歌集について取り上げてみたい。「今年の秀歌集10冊」の中に、笹井宏之『ひとさらい』、澤村斉美『夏鴉』、永田紅『ぼんやりしているうちに』が選ばれたが、笹井の歌集を巡っては次のような発言があり、興味を持った。馬場は、〈出色の才能〉〈すごくうまいし、冴えているし、読んでいるとき、一瞬、涼しく、気持ちがいい〉と評価しつつ、〈われわれ年配の者たちは、そこにもう一つ、生の厚みみたいなものが欲しくなる〉と言う。高野も〈詩的な飛躍があって透明度が高い〉と評価するが、〈こういう歌が百首も二百首も続くと、読むほうもまた特殊な思いになるでしょう。詩的広がりはあるけれど、社会的要素が限りなくゼロに近いから〉とも言う。岡井も同様に、〈ある病的なものを持っている。しかしキラキラしている〉〈社会性、メッセージというものは弱くて、無限に自分の内心に向かって声を発している。でも、その姿はなかなかいいことはいい〉と言う。馬場は評価半分、憂い半分という感じだが、岡井は評価の割合が高いように感じられた。その差は、馬場の〈今の若い人の歌は全部、この系譜ですよ〉という認識と、岡井の〈若い人はこういう人ばかりじゃないですよ〉という認識の差から来ているのではないかと思う。
 『ひとさらい』の悲しみ・不安感を内包した繊細な世界は、確かに外部の世界と交わりを持たない。作者はひたすら自分の世界に閉じこもり、そこから静かに外側の風景を眺めている。昨年末の時評で、川本さんが「リアル」と「近代」という言葉に立ち止まると述べていたが、笹井の作品は近代的なリアリズムからは完全に外れているように見える。しかし不思議なリアリティ、説得力を持った歌が多い。それは鋭い批評性に拠ると思うのだが、時代、社会、風土、あるいは人間の体臭というものと一切切れているところが逆説的に時代性を帯びて感じられるのだ。そうした作品として印象に残る。こうした作品世界があってもいいと思う。しかし、現実世界との回路がどこかに開かれている歌の方が、読者として安心感があるのは確かである。それは、世代を超えて、自分とその作品の有機的なつながりを感ずることができるからであろう。この点に関しては、先回の時評で取り上げられていた柳澤美晴の提言に同感である。
 閉塞した時代状況の中で、傷つきが大きい分、内閉性が強くなるのは、若い歌人に限ったことではない。しかし、社会の中の自分を歌っている若い歌人もいる。澤村の『夏鴉』には、地味で目立たない歌も多いが、「少し笑みしスーツのわれを思ひ出す不採用通 知を前に私は」など、現実生活の中で噛みしめる苦い思いを、まっすぐに引き受けようとする姿勢が感じられる歌も多く、頼もしい。また、年末に刊行された柚木圭也の第一歌集『心音(ノイズ)』も、繊細な感受性の感じられる、内省的な歌が多い中に、「独身三十五歳係長岩木氏いきどほるフリーなる吾(あ)の笑みの軽さに」のような、社会に生きる己の自意識を歌った作品が何首もあり、決して若い歌人がみな自らの内側に閉じこもっているわけではないことを感じる。(柚木は1964年生まれ、かつ歌集は10年以上前の作品をまとめたものらしいので、現代の若手歌人と言い切れないところもあるが) 現実にコミットする作品か否かという問題は、作者の年齢や置かれた立場とも密接に関係する。第一歌集の内向性が、第二歌集・第三歌集にそのまま引き継がれることは想像しにくい。歌うべき現実・経験が増えていけば、青春期のように、肥大化した自意識の内側のみで歌い続けることが、難しくなってくるだろう。笹井は療養中という特殊な背景を持つようだが、今後の実人生がどのような豊かさを作品にもたらすのか、注目したい。
 先回の時評でも取り上げられていたが、このところ『新彗星』『pool』『風通 し』など、若手の同人誌刊行が相次ぎ、旺盛なエネルギーを感じる。活発な活動に期待しつつ、澤村や柚木の作品に感じた信頼感を、より多くの作品に感じられたらと願っている。

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