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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)




再び「新かな・旧かな」考
text 松村由利子

 帯文の「『考へる人』は『考える人』よりえらい?」にちょっと惹かれて、白石良夫『かなづかい入門』(平凡社新書)を読んだ。とてもよかった。自分がなぜ新かな遣いで歌をつくるのか、というところを改めてはっきりさせることができた。
 著者は、文部科学省主任教科書調査官である。文部省に入省して国語教科書の検定に従事しつつ、研究を続けてきた。ひらがなやカタカナができる前の真仮名の時代から、現代に至るまでのさまざまな仮名遣いの誕生、変遷について明快に解説している。
 仮名遣いは大きく二つに分類できる。特定の時代や文献、書き手における仮名遣いの使われ方を「記述仮名遣」、仮名のつかい方の規範または規則を「規範仮名遣」と呼ぶ。「記述仮名遣」には、西鶴の仮名遣いや古文書の仮名遣い、上代特殊仮名遣いなどがあり、「規範仮名遣」には、定家仮名遣い、契沖仮名遣い、歴史的仮名遣い(旧かな遣い)、現代仮名遣い(新かな遣い)が含まれている。
 この分類を見ただけで、頭の中がかなり整理される。歴史的仮名遣いというのは、あくまでも学術用語であり、「歴史的=過去のもの」と考えては間違いになる。歴史的仮名遣いは、明治政府が採用してから戦後、現代仮名遣いが用いられるようになるまでに広く使われた仮名遣いでしかない。 ただ歴史的仮名遣いは、江戸時代の国学者、契沖が古代の文献から用例を採集し、学問的にまとめた契沖仮名遣いを引き継いでおり、仮名の用法に混乱のなかった平安初中期以前の仮名表記をしかるべき表記としたものなので、最も正当な仮名遣いだと愛好する人も少なくない。
 前回の「『新かな・旧かな』考」で引用した馬場あき子の文章に、歴史的仮名遣い、現代仮名遣いどちらにも難点がある、という箇所があったが、私は断片的にしか思い浮かべることができなかった。この本にはさまざまな例証が歴史的流れの中で挙げてあるので、とてもわかりやすい。帯文の「考える人」について言えば、「かんがふ」が本来の形で、「かんがえる」は現代語である。言ってみれば「かんがへる」という語は、あり得ない架空の表記だと著者はいう。同様に、「〜〜しましょう」を「〜〜しませう」と書くのも、古代日本語にはなかったことばを無理に表した形である。現代語を歴史的仮名遣いで表記する場合、こういう矛盾がどうしても起こってしまう。もちろん、現代仮名遣いにも「じ・ぢ」「ず・づ」の書き分けなど矛盾はいくつもある。
 仮名遣いというものは、あくまでも表記の規則であり、社会的な約束ごとである。しかし、歌人はその歴史的事実を踏まえたうえで、どう表現するかが問われている。自分がどんな時代に生きており、どんな歌をつくりたいのかということを明確に意識しなければならない。旧かな、新かな、どちらを選ぼうと、その問題からは逃れられない。
 正直なところ、詠う題材やことば選びによっては、新かな遣いではうまく行かないこともある。旧かな遣いと比べ、一〇〇メートル競走において一〇メートルくらいハンディをつけられているような気になる。けれども、自らの選びとったかな遣いを常に意識し、時代の中で何をどのように詠うかということを考え続けたいと思う。

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