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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)


【お知らせ】
6月16日の「週刊時評」より、執筆陣がかわります。
新執筆陣は、川本千栄氏、広坂早苗氏、松村由利子氏(執筆順)です。

論争が許される場所
text 大辻隆弘

 私が担当した二年間の連載時評も、今回が最終回である。連載を終えるに当って、この2年間をふり返ることを許していただきたい。
 この2年間、私は多くの論争に関わってきた。
 「朝日歌壇鑑賞会事務局長」と拙歌をめぐって争ったナショナリズム論争(06年7月)。吉川宏志の歌の「行けるなり」という表現をめぐって展開された文語・口語調論争(06年9月)。小高賢と私のやりとりに吉川宏志までが参加した社会詠論争(06年11月〜07年2月)。
 さらには、吉川宏志との「私性」についての論争(07年5月)や、評論集『風景と実感』をめぐる論争(08年3月〜5月)もあった。島田修三の時評に外部から論評を加えた時評(06年10月)や、松村正直と佐佐木幸綱の論争に横から加わった時評(07年3月)なども加えると、私はこの2年間、絶えず、誰かと、何かを議論していたように思う。
 もちろんこのような論争のなかには、自分からふっかけた確信犯的な論争もあれば、相手から突然ふっかけられた不如意な論争もあった。が、私は、これらの論争において、常に私の真意を述べてきたし、おたがいの立場がはっきりするまで論争を打ち切ることはなかった。
 それが賞賛であれ、批判であれ、自分の思ったこと・感じたことを、その場で本人に向けてまっすぐ正々堂々と発言する。私は、できるかぎり、そのことを心がけてきた。少なくとも、そうするようには努めてきた。そのことは、短歌の世界において実はとても大切なことなのではなかったのか、と思う。
 論争はとてつもなくエネルギーを消耗する行為である。が、とことん話しあうことで、見えてくるものは必ずある。2年間の間に私が関わった論争は、かならず何らかの収穫があったように思う。インターネットという媒体の持つ即時性によって、私は、自分の意見が、確実に相手に届いているという実感を感じることができた。それは充実感に溢れた体験だった。

 私はなぜ短歌などというものに携わっているのか‥‥。私はときどき、そんなことを考える。
 私は市井の人間として、社会的な関係性のなかで、さまざまな力に翻弄されながら生きている。そこには政治的な圧力や権力がかならず介在してくる。自分のありのままの思いをそのまま口にすることは、まずあり得ない。
 多くの時間を割き、多くの労力をさきながら、私がなお短歌という小さな文芸に携わっているのは、短歌をめぐる空間だけが、自分の思いをそのまま口にできる場だからである。私にとって、短歌をめぐる場は、自分の思いを正直に述べうる場であり、その自分の意見に対して他者の反応が期待できる場なのだ。
 短歌の世界は、実は、まだまだ捨てたものではない。いろいろな矛盾を孕みながらも、短歌の世界は、相対的には、自由な発話がまだ、保証されている。グローバリゼーションが進展し、経済的価値や世俗的価値が圧倒的な力で流入しつつあるなか、それでもなお、短歌は自分の文学的な思いを述べることが許されており、それに対して責任ある反応が期待しうる場所なのである。
 が、このような短歌の自由な言論状況は、私たちの不断の努力がなければ、すぐに崩壊するだろう。
 時評や書評を書く者が、歌壇的な政治力を持つ人間に阿り、自分の意を曲げて賞賛の言葉だけを書き連ねる。批評や時評を書く行為を、自分のステップアップの手段としてのみ利用する‥‥。そうなったとき、私たちが今、辛うじて保持しえている「論争が許される場所」は、またたく間に崩壊してしまうにちがいない。その意味で、時評を書く者の責任は、実はとても重いのだ。
 私と吉川氏の「週刊時評」は今回で終了するが、次週からは、川本千栄氏、広坂早苗氏、松村由利子氏がこの欄を担当されるという。
 三氏の奮闘を心から期待する。

 最後に、長い間、この欄をお読みいただいた皆さんに心からのお礼を申しあげます。みなさんからのいろいろなお言葉が、時評を書き続ける力となりました。
 本当にありがとうございました。

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