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「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)

グローバリゼーションVS伝統
text :吉川宏志

 『短歌往来』三月号に、喜多弘樹が「出でよ、もののけ」という題で評論を書いている。

 「米国のグローバリゼーションとは、彼らの価値観を他国に強要するエゴである。(中略)狩猟民族の思想を、田畑を耕して種を蒔き作物を育てるという円環的な時間軸にすべてをゆだねてきた農耕民族の日本に押し付ける愚行は許されるべきではない。
 そういう時代や社会の流れに抵抗し、守るべき日本の伝統美の砦のひとつが短歌千数百年の命の詩型ではないだろうか。」

 〈狩猟民族のアメリカ〉対〈農耕民族の日本〉というステロタイプな分類のしかたが、かえって思考の浅さを露呈していると言えるが、グローバリゼーションに抵抗する日本文化の要(かなめ)として短歌があるという見方は、現在かなり説得力を持つようになっているのかもしれない。喜多自身、藤原正彦に影響されていることを明かしているが、日本的な情緒を再評価する『国家の品格』がベストセラーになることからも、グローバリゼーションに対する危機感が強まっていることがうかがえるのである。
 もちろん私も、そうした思考は必ずしも間違っていないと思うし、共感するところも多い。ただ、「グローバリゼーションVS伝統」という二項対立的な図式にとらわれて、物事を短絡的に見てしまう危険性があることも、同時に認識しておかなければならないのではないだろうか。喜多の文章は以下のように続く。

 「佐藤佐太郎の写生の機微を巧みに表現している点は大いに見習うべきだろうが、それ以上に詩としての感動に乏しいのはなぜか。(中略)一首の歌に一世界の分厚い闇を蔵してはいないからであり、表層的である。」

 というふうに、現代短歌は「合理的で論理的、そして効率的な作品をよしとしてきたのではないだろうか」として、佐藤佐太郎や宮柊二や近藤芳美の歌を、じつに単純に裁断してしまうのである。私は彼らの作品には、戦後という時代の影響を受けた明晰さがあることは認める。けれども、「闇を蔵していない」「表層的」という語で批判するのはあまりにも強引すぎるように感じる。喜多は、彼らの作品を理解できていないのではないか、という疑念さえもってしまう。

  とろとろに摩(す)られし豆がつづけざまに石臼(いしうす)より白くしたたりにけり
                                 佐藤佐太郎『歩道』

 たとえば佐太郎のこうした歌は、精確な写実のようであるが、どこかなまなましく混沌としたものを感じさせる。決して「表層的」な歌ではないのである。
 さて、坂井修一の第一評論集『斎藤茂吉から塚本邦雄へ』が最近刊行された。坂井の論も、思考の方向としては、喜多弘樹と共通 するものがある。「日本人である私たちの固有性のみなもとにあるのが日本語であり、日本語による和歌文化である。」という一節からもそれは理解できよう。
 しかし、坂井の場合、「私自身は、茂吉から邦雄や幸綱への流れを短歌史の唯一のものとは思っていないし、これが他の流れを圧倒しているとも思っていない。」と留保をつけ、「伝統」にも多様性があることを積極的に認めようとしている。つまり、喜多においては「伝統」は非常に狭いものになってしまうのだが、坂井はもっと広い幅でそれを受容しようとしているのである。この一点において坂井は、喜多の限界を超えているのである。
 私たちは今後「グローバリゼーションVS伝統」という図式をどうしても意識していかざるを得ないであろう。それは時代のパラダイム(枠組み)という側面 があるからだ。しかし、そうした図式に自分の思考を侵食されずに、いかに柔軟に保つかという努力も必要になってくるのではないだろうか。坂井の評論は、そのモデルケースとして興味深かった。

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