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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)

人生の総体
text :大辻隆弘

 たとえば斎藤茂吉がそうなのであるが、その人の人生の総体を知りたいと思わせる歌人がいる。
 もちろん、その歌人の実人生と照らし合わせることによって、個々の作品の読みが劇的に深まるということはあり得るだろう。が、単に作品解釈の方途としてではなく、その歌人の生涯そのものに興味を感じてしまうということが、私たちにはある。作品への愛情が作者への愛情につながり、ひいてはそれがその歌人の実人生への興味に変わってゆく。魅力的な評伝は、そのような作品と人間に対する渾然一体となった愛情に裏づけられているに違いない。
 そういう意味で『綱手』に連載されている佐方三千枝の「中城ふみ子 そのいのちの歌」はすばらしい評伝である。そこには、驚くべき熱意と情熱でもって、中城ふみ子の人生を再現しようとする佐方の意欲と執念が感じられる。
 この連載は「綱手」3月号ですでに11回目になる。これまでにも佐方は、野江冨美子(中城の旧姓)の家政学院時代の書簡や寄せ書きなどの資料を発掘している。それによって、おきゃんで快活な少女時代の中城の姿が浮かび上がってくる。また、佐方は、中城の見合い写 真や中城が思いを寄せていた青年とのツーショットの写真などを発掘してもいる。文章だけでなく、当時の中城の姿そのものを写 真で見ることによって、私たちは戦時下に生き生きと青春を送っていた女学生時代の中城をまざまざと感じることができる。いったい、佐方はどこからこのような資料を発掘したのだろう。その取材力には舌を巻くしかない。
 「綱手」3月号では、昭和24年夫と離婚し、帯広に帰ってきた時点の中城の動向が詳しく追跡されている。帯広の地で中城が参加した歌会の詠草を中城の実家から発掘した佐方は、『乳房喪失』に収められた「月光にまぶた濡らして眠る夜はピユアな少女にかへるわれかも」の原型の歌を発見し、その作品の変遷を詳しく検証している。
 佐方は、この連載のなかで、中城の恋人や前夫の行状も詳細に暴きだしてゆく。このような詮索が、はたして中城の短歌作品の解読にどの程度寄与するものなのか。それは私には分らない。
 が、このような愛情と執念に裏づけられた探索によって、封建的な家族制度に違和を感じ、時代のなかにあって精一杯自覚的に生きようとした中城の生のあり方は、確実に私たちの胸に焼き付けられる。それは、中城の短歌作品を超えて、ひとりの女性の生の総体を私たちに提示してくれるのだ。
 最近さまざまな雑誌で歌人の評伝が書き継がれている。2月に吉川宏志がこの欄で紹介していた斉藤真伸の「三井甲之試論」(『みぎわ』)がそうだ。春日井建の人生を追う岡嶋憲治の「評伝春日井建」(『井泉』)もそうである。さらに総合誌では三枝昂之の啄木論や小高賢の上田三四二論が進行中だ。川野里子が昨年まで『歌壇』に連載していた葛原妙子論も、今年は一冊になるだろう。
 文学というものが、人間の総体の探求である以上、これらの評伝は当然書かれるべきものだと思う。なにも、歌人の人生を直接的な形で早急に短歌作品の「読み」に結びつける必要はない。人間の生という大海のなかに、短歌という小さな島が浮かんでいる‥‥そんな風な目でゆったりとした目で短歌を見つめなおすことも、私たちには許されているはずなのである。

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