自費出版書籍写真
トップページ
新刊案内

週刊時評

大辻隆弘ブログ

吉川宏志ブログ

好評既刊一覧

既刊書籍一覧

短歌キーワード検索
青磁社通信
バックナンバー

自費出版のご案内

短歌界リンク

掲示板


◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


ご注文の書籍は送料無料にてお送りいたします。
お電話・メールにてご連絡ください。



ご注文・お問い合わせは


〒603-8045
京都市北区上賀茂豊田町40-1

TEL.075-705-2838 FAX075-705-2839

E-mail
seijisya@osk3.3web.ne.jp


◆ 週刊時評 ◆
川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)

昨日(2月4日)に行いましたシンポジウムは300名を越える多くの方々にお越しいただき、レポート、シンポジウム共に大変充実した会となりました。出演していただいた方々、お集まりいただいた多くの皆様、そしてご協力いただきました方々にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

若い世代による近代歌人研究の試み
text : 吉川宏志

 『牧水研究』という雑誌が、若山牧水の出身地である宮崎県で創刊された。伊藤一彦を会長とする「牧水研究会」が、今後年二回のペースで刊行していくという。創刊号では牧水の少年時代について特集が組まれている。
 宮崎に住む若い歌人である熊瀬川貴晶は、地の利を生かして、牧水が通 っていた延岡(のべおか)中学校の校長であった山崎庚午太郎について詳細に調べている。山崎校長は厳しいスパルタ教育を行う一方、校友会雑誌を発刊するなどして、文芸を奨励した。その影響で、牧水は詩歌に目覚めることになったのである。
 山崎は、博文館という出版社から『俳諧史談』という本も出している知識人であった。牧水の回想によると、西行の『山家集』を山崎から借りて読み、ほとんど暗記するようになったという。熊瀬川はこの『山家集』も、明治期に博文館から出版されたものだったのではないかと推測している。

「牧水短歌の出発点には、この印刷技術の近代化による、書物の普及も大きく影響したのだ。雑誌・書籍・新聞、それらは近代化の産物であった。それらによって『山家集』の暗記も可能になったし、牧水の文学活動(作品発表)も可能になったのである。」

 という指摘は興味深い。
 このような研究会の活動は、何よりも継続が大切である。今後の『牧水研究』に期待したい。
 短歌誌「みぎわ」に三十回近く連載されている斉藤真伸の「三井甲之試論」を読むと、まさにその継続力に圧倒される。三井甲之(こうし)は明治時代に山梨県で生まれた歌人であり、現在ではナショナリストとしての側面 に注目が集まっている人物でもある。斉藤真伸も若い歌人であるが、同郷出身の甲之に深い関心を持ち、山梨の風土とからめながら、歌人の足跡を追っている。「みぎわ」一、二月号では、山梨の昇仙峡を訪れた伊藤左千夫らとの交流の様子が描かれている。斉藤の文章には、いかにも研究者的な堅苦しさがなく、じつに読みやすい。書き続けることによって生まれてきた、文体の伸びやかさであろう。
 牧水や甲之が生きた明治時代の情況は、現在では実感しにくいものになっている。特に宮崎や山梨といった地方の様子は、時間の流れのなかで埋もれていくばかりである。若い世代が文字資料とともに風土を調査することによって、近代歌人の生きた環境を立体的に捉えようとしている試みは、とても地味な活動だけれども、高く評価していくべきだろう。〈現在〉にしか興味をもたない――つまり、〈自分〉にしか感心がない――風潮が強くなっていると言われているけれども、それに逆らうように、風土や歴史とのつながりを回復しようとする動きが生まれてきているのは非常におもしろいことだと思うのである。

Copyright(C)2001 Seijisya.All Rights Reserved Warning Unauthorised Duplication Is Violation Of Applicable Laws.