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「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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現代の童歌(わざうた)
text : 吉川宏志

 〈伝説的な歌人〉と言ってもいい平井弘の三十年ぶりの歌集『振りまはした花のやうに』が刊行された。今回は、この歌集について紹介したい。
 「童歌」(わざうた)という言葉がある。昔むかし、何か大きな異変が起きる前に、予言のように子供たちがうたった歌だという。「かごめかごめ」なんて、よく聞くと不気味な歌だが、そんな歌が「わざ歌」のなごりなのかもしれない。平井弘の歌は「現代のわざ歌」なのではないかと、私は考えている。
 たとえば「空缶」(16首)という一連がある。

  影の消える明るさつていはれてもねひまはりが濃くてよかつた
  一瞬にして無くなるといふそんな蚊だつてそんなこと想ふかよ
  黍の毛がやけに縮れてゐるのだがどうみてもいつもの空だよね

 まさに子供が歌っているような歌だ。意味がよくわからない、奇妙な歌だと思う人も多いであろう。ところが、その近くにある、

  あんなことこんなことあつたでせうさういつもの八時だつたさ
  盆のころでよかつたですねひとまとめなる水のうへのあれやこれ

 を読むと、もしかして、と思う。そういえば、〈あれ〉が落とされたのは、八月のお盆前の、朝の八時すぎのことだったのではないか、と。それに気がつくと、「影の消える明るさ」「一瞬にしてなくなる」「やけに縮れてゐる」という言葉が、急に恐ろしく感じられてこないだろうか。「水のうへのあれやこれ」は、無数の精霊流しの火なのかもしれない。一見むじゃきな言葉で歌われているために、かえって不気味なのである。
 平井弘の歌は、途中で言うのをやめる〈言いさし〉の歌が多いと、従来から言われてきたが、旧仮名表記の効果 も相俟って、謎めいた印象がさらに強くなっている。
 なぜ平井は、何を歌っているのかわからないように、歌をつくるのだろうか。一つには、明らかに「恥ずかしさ」があるのだと思う。それは巻頭の歌にはっきりとあらわれている。

  はづかしいから振りまはした花のやうに言ひにくいことなんだけれど

 たぶん作者は、声高(こわだか)に自分が正しいと主張するような言葉は、恥ずかしくてたまらないのだ。

  斃されたもののちかくで草を食べるわたしでもさうするだらうが

 猛獣に殺された仲間の近くで、のんきに草を食べているシマウマか何かの姿を描きつつ、自分も結局は仲間を見殺しにして、のうのうと食べている人間なのだという、あきらめと悲しみを歌っているのである。そんな自分だから、もっともらしいことを言うのは、ひどく恥ずかしい。だから、ぼそぼそと口ごもるように言ってみたり、子供のような口調で歌ってみたりする。いや、ある意味で、平井弘は、無力だった子供のころの感覚を今でも持ち続けているのだと言ったほうがいいのかもしれない(平井が子供時代に戦争を体験していることも大きいだろう)。私たちも、本当は時代に対して無力なのに、ついいっぱしの大人のような言葉で語ったりする。平井はそんな言葉が疑わしくて、しょうがないのである。

  ここいらで縊られたのは憶えてゐますとよびとめて鶏頭がいふ
  落ちた蛾つてたいていまるく翅を擦るふんさうやれば助かるのか
  午後三時をまはつたところで影がたちどまるつてしつてましたか
  ゆふ焼けのなかから掴みだしてにぎつてゐるのだが見てくれないか

 これらの「わざ歌」は、何かの予言なのだろうか。現在の何か不穏な時代に読むと、ひどくまがまがしく感じられたりするのだ。

*『振りまはした花のやうに』は、歌集専門の出版社からは刊行されていない。そのため、非常に入手しづらいと思われる。
 入手したい方は、「書肆 青雅」(〒501−3834 岐阜県関市大門町3−17)に問い合わせてください。

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