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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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川本千栄・広坂早苗・松村由利子の三人がお送りする週刊時評(毎週月曜日更新)

先週お知らせしましたシンポジウムについて、追加決定事項がありますので、下記リンクからご確認下さい。多くのご参加をお待ちしております。
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読者の位相
text : 吉川宏志

 新年あけましておめでとうございます。今年も、「インターネット週刊時評」をよろしくお願いします。

 短歌の〈読み〉とは、本当に難しいものだなと思ったり、不思議なものだなと思ったりしたことが、この年末にいくつかあった。それについて簡単に紹介してみたい。
 「短歌研究」1月号の作品季評では、花山多佳子の『木香薔薇』について、佐佐木幸綱、来嶋靖生らが論じている。その中で、

  手の甲にもう一つの手が貼りつくを剥がさむとして声上げて醒む

 という歌について、「こういう歌は普通は恋愛の歌っぽくなるんだけど、この人はあんまり恋愛っぽくならないね。」(佐佐木)という発言があって非常に驚いた。私は花山と同じ結社であるため、これまでの彼女の歌に慣れ親しんでいる。そのため、

  手の甲とてのひらの皮膚異なるを男の子言ふなり気持ち悪しと    『空合』

などの歌がすぐに連想されるので、自分の身体に対する違和感(不気味さ)を詠んだ歌であろうと、疑問もなく読めてしまうのである。そういった花山の感覚をよく知らない読者には、別 の印象で伝わっていくのだなと、改めて認識したのであった。
 念のために書いておくが、私は佐佐木の読みが間違っていると言いたいわけではない。また逆に、作者と読者が馴れ合いになりやすい結社の弊害を批判したいわけでもない。私が言いたいのはこういうことだ――短歌の〈読み〉は、読者の位 相によって大きく変わる。特に現代は、価値観は人によって非常に違うし、どれが正しいかを一つに決めることがまことに難しい。そうであるからこそ、お互いの〈読み〉をぶつけ合う場が、なおさら重要になってくるのである。
 この季評では「斜に構えたところ、というか、シニカルにものを見ていこうという、それがもう、彼女自身のカラーになっているという気がするんですね。だから、ものをまともに見て、まともに考えていく連中はみんな俗物であると、ひそかに軽蔑しているような雰囲気がずっと前面 に出てきている。」(来嶋)、「子供が出てくるときはもう必ず「母」の目で子供を見てますね。これほど枠組みがきちっとしてる人は、珍しいぐらいですね。」(佐佐木)という、私には疑問に思われる発言がいくつかある。そうした〈読み〉に異なる意見を持つ読者は、別 な〈読み〉をきちんと提示していくことが大切なのであろう。たとえばこの歌集には、いかにも花山らしい歌として、

  人を殺してゐるかもしれない 年寄りの男を見ると思ふと言へり 『木香薔薇』

という一首がある。自分の子が、従軍をした世代に対して漏らした言葉を捉えた作だと思うが、「シニカル」・「母の目」といったレッテルでは批評できない奇妙な味わいのある歌なのではなかろうか。

 また、角川書店「短歌」一月号の若手歌人による「新春討論」では、奥田亡羊が、

  フセイン像の頭を靴にたたきたる少年にながきよろこびあれよ     竹山広『遐年』

について、「そのよろこびも束の間だという冷え切った眼差しがあります。やがてもっと大きな苦しみが来るという目をもって作られた歌で、その予言は正しかった。」と評価したのに対して、笹公人が「でも、竹山さんのキャラクターや実績があったからそういう読み方ができるのであって、これが朝日歌壇の「六十二歳、無職、茨城県、何某」の歌だとしたら、テレビの情報を鵜呑みにして「おお、やったな、がんばれ」と感動して詠んだ歌だととられる可能性がありますよ(笑)」と返しているのが、非常におもしろかった。これも、読者の位 相によって、歌の〈読み〉が変化するケースの一つであろう。
 笹の指摘するような〈読み〉の可能性はあるにしても、奥田の優れた鑑賞によって、竹山の歌は深い奥行きを持ってくる。やはり、読者同士の対話によって、短歌は豊かな世界を内側に包みこめるのだということを実感したのである。

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