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◆ 社名の歴史 ◆
「青磁社」という名の出版社は私たちで3代目となります。 第一次青磁社は昭和初期に歌集出版などを手掛けていました。 第二次青磁社は昭和40年代頃に詩集出版をメインに、やはり歌集も出版していました。 歌集出版にゆかりある社名を引き継いだ使命を、今後十二分に果たしていく所存です。


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◆ 週刊時評 ◆(特別編)
ふたたび吉川宏志さんへ
text : 小高 賢

 時評拝読しました。貴兄らしい冷静な文章に、納得するところもありましたが、小生の趣旨と乖離している議論のような気がしますので、しつこいかもしれませんが、もう一度、書かせてもらいます。

1、匿名について

 「雁」63号とか、イニシャルまで出したにもかかわらず、個人攻撃になりやすいので、匿名にしたというのは、少々戸惑います(批判への貴兄の感想ですから、個人攻撃などにはあたらないのではありませんか。)しかし、貴兄の立場なのでしょう。了解しました。ただ「有名」といった形容詞はやめましょう。吉川さんもI氏に勝るとも劣らないほど有名ですよ。

2、日常詠と社会詠の差

 社会詠と日常詠の境目の問題については、吉川さんの論はわかるところがありました。これは今後、関心事として私自身も考えます。ただ、岡野弘彦の問題に、小生の拙作をもちだし、「お前だって、こんな作品つくっているのではないか、批評する資格があるか」(かなり乱暴な要約ですが)といったのは吉川さんなんですよ。それに対して「鶏を割くにいずくんぞ牛刀を用いん」と、私が思ったわけです。
 拙作を、今度は小島、林らと比較するのは、またちがう論点を提出されてしまった気がします。あまり戦線を拡大せず、小生の文章に沿って議論してくださらないでしょうか。馬場、佐佐木、小島の実例を挙げ、私はこういっています。「現代の社会詠、時事詠のむずかしさはここにシンボリックにあらわれている。いうまでもなく、技術的に優れていなければ作品は読まれない。しかし、うまくできていると、逆に読み手が『ふーん、うまいなあ』で終わってしまうきらいがあることだ」。それはなぜなのだろうか、というのが、私のいいたかったことです。もし、吉川さんがそう思わないのであれば、その観点で反論してください。それは岡野弘彦の鑑賞に関わってきます。

3、岡野弘彦の作品について

 「くり返しますが、短歌の鑑賞に、こんな素人の生硬な論議を持ち込んだのはほかでもない。現在の社会(世界)のありようを、どうしたら短歌が扱えるかを考えてみたかったからである。自分の戦争体験を重ね合わせて、現代の悲劇をうたいあげた岡野作品に共感、同感することは多い。しかし、どう考えても、対象や主題に対しての感慨や視線は、外部からのものである。爆撃する、される、その外側に立っている。爆死した子を抱く母には、同盟国の日本にも責任がある。そしてお前にもある。なぜアメリカを止めてくれないのか、と抗議する権利はあるだろう。その視点に対して、どう応えられるだろうか」
 たびたび引用しますが、「ふたたび社会詠について」で小生が述べているポイントの箇所です。そこに、触れないことに疑問を提出しているのです。大辻さんも、この箇所を素通 りしています。各誌で『バクダット燃ゆ』を貴兄が高く評価しているのは知っています。でも、私は、その問題とはちがうレベルを議論しているつもりです。もういちど、私の文章を読んでみてください。岡野弘彦さんには、こんな作品もありますね。「かくばかり世は衰へて ひとりだに 謀反人なき 国を危ぶむ」。慨嘆はわかりますし、うなずくところはあるのですが、では作者自身はどうなんだろうと、謀反人になっていない自分のことを、つい省みて考え込んでしまうのです。

4、外部・内部

 デリダからの現代思想を持ち出すと、面倒になりますからやめます。ここでは、簡単に自分(共同体のほか、さまざまなものに彩 られている主体)を一度、外側に置き(ゼロにし、括弧に入れ、宙吊りにして)、ものごとを考えようというぐらいにとってください。岡井作品などについて、いいだすと、論点が逸れますのでやめましょう。お考えください。

5、世代論?

 貴兄と小田実との遭遇には同情します。どういう経過があったか知りません。しかし、その体験から、貴兄の図式、「戦後民主主義的な言論に共感できなかった青年たちが、オウムのような神秘主義に呑まれていったのだ」に行くのは、短絡すぎるのではないかなあ。私なども、そんなことは何十回も経験してきました。期待した人にどれほど失望し、彼らに怒り、彼らを軽蔑するにいたったか、わかりません(ひどい自称「戦後民主主義者」もいっぱいいます。要するに人間の問題で、思想の問題ではありません。そのうち、個人的にお話します)。意見の交換はさまざまなスタイルはあるでしょうが、数多くやらないとダメです。一回だけの判断を固定してはまずい。それに、戦後民主主義という概念も、それこそひとくくりしない方がいい。小田実ひとりが戦後民主主義を体現しているわけでもないでしょう。そんな簡単ではありませんよ。大辻さんも読んだそうですが、小熊英二『〈民主〉と〈愛国〉』など、貴兄たちの年齢に近い方の著作もあります。読んでいただきたいと思います。いいたいことは多くありますが、論点が拡散しますから止めておきます。
 アメリカについての認識にも考えてしまいました。「『アメリカは自由ですばらしいんだ』と単純に信じてきたような気がします」。戦後史年表でベトナム戦争ほかのアメリカの世界戦略を覗くだけでも、そんな単純に信じていたとは到底想像できないからです。私だって、ディズニー映画に感嘆しましたよ。年寄り扱いしないでください。だからといって、「自由ですばらしい」という風に直結しなかった。そういう方が普通 だと思ってきましたので、吉川さんのことばには首を傾げてしまうのです。もうひとつ。「小高さんの世代は、社会主義国家を理想社会と考える人が少なくなかったのでしょう?」にも困りました。マルクス主義については勉強しましたが、「社会主義国家」を「理想社会」などと思ったことはありません。歴史をすこしおさらいしていただけないでしょうか。
 ですから、9・11以後「今まであれだけアメリカの民主主義を称揚してきたのに、手のひらを返すように、多くの人々がアメリカを単純に否定する論調に走っているのには、かなり疑問を持ちました」「突然噴出したアメリカ憎悪に対するとまどい」という認識にも唖然としてしまったわけです。ほんとにそんな風に見えたのですか。吉川さんと、いちど、ゆっくり、戦後史のはなしでもしなければなりませんね。そうでないと、もう、小生などは血圧が上がってしまいます。占領から始まる日本、および世界の戦後史にはもうたくさんの研究、著作が刊行されています。元編集者としては、ぜひ、読んでほしいと願うだけです。
 私の文章を「世代論」として受け取られていることにも、困惑します。加藤治郎さんなどと一緒に論じられたことに、かなりこだわっていらっしゃいますね。吉川さんを含む、すべての作品は最近の歌集から選んでいます。馬場、小島、佐佐木という組み合わせも世代ではないでしょう。どうして、そのように受け取られるか判断に苦しみます。くり返しますが、当事者意識の有無の問題です。

6、教育基本法改定はベターな仕組みを目指している?

 短歌のはなしからそれますが、一言だけ付け加えます。教育基本法改定は、「一部のマスコミが論じているような、非常な悪法であると私は思っていません。やはりいろいろな矛盾にくるしみながら、大勢の人たちがベターな仕組みを目指して模索しているのが現状のようです。マスコミの情報だけを鵜呑みにしてデモに参加しても、おそらく『現実が違って見えてくる』ことにはならないでしょう」と吉川さんは書かれています。私は、吉川さんのように、改革を推進している人に直接、話を聞いたわけではありませんが、手元に、現行の教育基本法、与党の教育基本法案、民主党の教育基本法案を比較対照した資料があります。それを、いくら読んでも、なぜ変えなくてはならないのか、私にはわかりません。だからこそ、改定したいという意図だけがはっきりして見えてきてしまうのです。付帯する条例がどうなるか知りませんが、民主主義はすばらしいと教えられた貴兄たちが、そうではないという。「ベターな仕組みを目指して模索している」という。もちろん、意見の違いはあってかまわないので、教育基本法改定反対のデモへ、吉川さんが行くべきだなどといっているつもりはありません。ただ、デモは人間の意志表示のひとつであり、民主主義が獲得した、誰でもが行使していい、普通 の権利であることを確認しただけです。
 吉川さん。「マスコミの情報だけを鵜呑みして」「一部のマスコミ」のような言い方が貴兄の口からでるのを、僕は、とても寂しく感じました。そういう他人への決め付けは、それこそ、貴兄が批判した論法に近くなります。「対話可能性」といっている吉川さんらしくもない気がします。それとも、デモしている人たちが、すべてマスコミを鵜呑みしてデモに参加しているというのですか。そうだとすれば、あまりに失礼ではないですか。想像力の問題だと思います。会社にお勤めだからお分かりでしょうが、いろいろな圧迫があったら組合としてストライキを企てることはあるでしょう?当然の権利です。教育現場から聞く話は、それと同じではないのでしょうか。限界があるでしょうが、私は、自分なりの意思を表明したいと思っています。
 時間をとって、いろいろ話さないといけないですね。年末、お忙しいと思いますが、くれぐれもお大事に。

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