☆活動銀河核と鉄輝線
☆クェーサーには固有の赤方偏移がある?
☆相互作用銀河
☆クェーサーはどこにでもある
☆宇宙の姿はどこも同じ
☆クェーサーはやはり固有の赤方偏移を持つ


☆活動銀河核と鉄輝線

 第8章クェーサーについて で説明したように、多くの宇宙論学者はクェーサーの示す赤方偏移は宇宙論的赤方偏移(地球からの距離に関係した赤方偏移)のみによっており、クェーサーが高い赤方偏移を持つのは宇宙の初期(我々から遠い場所)にのみ存在するからで、我々の近くには決して存在しないと信じています。過去と現在の宇宙の姿が違うということも間接的なビッグバンの根拠となっています。それが正しいのかどうかもう一度この章において検討しましょう。

 さて、クェーサーは極めて狭い領域から通常の銀河をはるかに上回るような強いエネルギーを放出していると考えられていますが、最近ではクェーサーの放射の機構もかなり解明されてきたようです。その機構とは、多くの物理学者が「ブラックホール」と呼んでいる質量の密集した部分のまわりに降着円盤と呼ばれるガスの回転する円盤ができそれが中心に落下しいく時にその重力エネルギーが熱エネルギーとなり周囲に放射されると考えられています。従ってこの放射はクェーサーの中心の「質量の密集した部分」の極近傍ででのみ生ずる現象であると思われます。クェーサーだけではなくこのような機構によって銀河の中心部から莫大なエネルギーを放出するような銀河の中心部を「活動的銀河中心核」と呼んでいます。このような機構を持つ銀河はクェーサーだけでなくセイファート銀河・電波銀河やそのほかにもいろいろな種類の銀河があるようです。

 ここで面白い現象があるのを知ったのですが。それは鉄輝線の赤方偏移と言う現象です。その現象に関して
銀河中心核のブラックホール 日本物理学会誌(1997)Vol.52, No.3, p.161 井上 允 より引用させていただきます。
( http://www.nro.nao.ac.jp/~inoue/Butsuri.html ) 
「MCG-6-30-15は、できるだけたくさんのX線を集めて精度のよい活動銀河のX線スペクトルを得るのに適した、比較的近傍(距離約 3 x 107 pc)でかつX線で比較的明るい(太陽のエネルギー放射率の約100億倍)活動銀河で、「あすか」による観測が1994年7月に4日間にわたって行われた。「あすか」の通常の観測は、ほぼ1日を単位に行なわれており、4日間にわたる観測は特別のものであった。その結果は長い観測時間を使用したことにふさわしいもので、X線CCDカメラのすぐれた分光性能とあわせて、これまでにない精度の活動銀河のX線スペクトルが得られた。そして、通常、鉄の特性X線が見られる6 keVから7 keV(keVはX線1個のエネルギーを表わす単位で、1キロボルトの電圧下で電子が得るエネルギーに相当する)あたりのスペクトルに、ふしぎな構造があることがわかった。
 特性X線とは、通常金属などにX線をあてると出る各種元素ごとに特有のエネルギーを持ったX線で、鉄の場合6.4 keVに出る。MCG-6-30-15から得られたX線スペクトルでは、6.4 keV付近にピークがあるが、それがエネルギーの低い方にすそをひくように広がり、さらに5 keV付近にも広がったピークがあるように見る。このように広がった2つのピークは、鉄の特性X線を出している物質が回転運動をしていて、われわれに向かっている側とわれわれから遠ざかっている側のドップラー効果の違い(それぞれ青方偏移と赤方偏移)でつくられていると考えると説明がつく。しかし、この場合、その速度は光の速度の数分の一にものぼるものが必要になる。さらに、通常の回転運動ではもとの6.4 keVを中心として両側に対称に出るはずであるのに、観測では、エネルギーの低い側に中心がずれており非対称となっている。これらの回転速度の大きさや中心エネルギーのずれ・非対称性は、回転がブラックホールのごく近く(シュワルツシルト半径の数倍から10倍程度)での重力と遠心力がつりあった回転運動であると考えると、一般相対論の効果により自然に説明される。実際、一般相対論的効果をいれて、ブラックホールのごく近くの回転する円盤からの特性X線の見え方を計算して見ると、観測されたスペクトルが見事に再現できる。
 これらのことから、今回の観測結果は、この鉄の特性X線が、一般相対論的効果の効く非常に重力の強い場所で回転している物質から出ていることを強く示唆している。このような強い重力場をもたらすものとしてはブラックホールしか考えられないことと、そのブラックホールのごく近傍まで侵入している降着円盤が存在していることを、直接観測事実として示している。先のメーザーの観測でも、中心の重力源のまわりを回転する円盤の存在が必要とされていたが、メーザー源の位置はブラックホールの大きさの数万倍の遠方であるのに対し、今回の鉄特性X線源の位置はブラックホールのごく近傍、シュワルツシルト半径の数倍であり、ブラックホールとそのまわりの降着円盤の存在の、非常に強い証拠と言える。」



Fig.1 鉄輝線の説明。本文は「銀河中心核のブラックホール」の引用ですがここでの図は下記の、(X線観測による「活動的銀河中心核」の解析)からの引用です。

 簡単に説明しますと、「鉄の輝線は本来6.4KeVに1本だけ出る筈だが、円盤の回転のドップラー効果により遠ざかる方と近づく方の2本の輝線が出る。ドップラー効果だけならその2本の中央が6.4KeVになるはずだが、低いほうにエネルギーレベルがずれている。このずれは中心にあるブラックホールの重力による赤方偏移が原因である。」(Fig.1参照)と結論付けているようです。

さらにもう一つの文献として、(X線観測による「活動的銀河中心核」の解析)という名古屋大学の宇宙物理学研究室のホームページ記載されていたものがあります。こちらにも上で引用したのと同様の文章がありますが、ここでは放射の部位についての記載について引用をします。
( http://www.u.phys.nagoya-u.ac.jp/asca_html/agn.html )

 「X線領域では、そのスペクトル中に鉄の輝線が現れます。この鉄輝線は、中心から放射されたX線がその周りにある物質中の鉄原子と相互作用することによって生じます。よって、中心の放射が明るくなれば鉄の輝線も明るくなります。さて、これに関連した非常に興味深い結果が得られています。下の図はNGC6814というAGNを観測したときに得られたlight curve(X線の明るさの時間的な変動)です。上のパネルが中心の放射のlight curveで、下のパネルが鉄輝線のlight curveであり、一つのデータ点が250秒の時間間隔となるように表されています。これを見ると、両者の時間変動に違いは見られません。もっと正確に言えば、250秒以内で両者の変動は一致していることになります。先に述べたように、鉄輝線は中心から発せられたX線がその周りにある鉄原子の所まで飛んでいき、そこで相互作用することで生み出されます。つまり、X線が飛んでいる時間分だけ中心の変動に比べ、鉄輝線の変動は遅れることが予想されます。よって下の図は「鉄輝線を放出する物質は、中心の放射領域から光の速度で250秒以内の領域に存在している」という事を意味しています。5.1と同様の計算をすることによってその領域は中心の放射領域から7500万km以内であると結論づけられます。」

 降着円盤に存在する鉄原子による鉄輝線(重力赤方偏移を示している)を発する場所は、中心に存在する放射領域より外の部分であると言っておられます。つまりクェーサーなどの活動銀河の放射領域の本体は鉄輝線を放射している部分より更に重力作用の強い部分に存在するということです。
 皆さんここで不思議に思われないでしょうか。クェーサーには固有の赤方偏移はなく、クェーサーの示す赤方偏移はすべて宇宙論的な地球からの距離によるものである、というのが宇宙論での主流の考えです。しかしこの主流の考え方とここで引用した鉄輝線に関する話では矛盾があるように思われます。


☆クェーサーには固有の赤方偏移がある?
 主流の考え方との矛盾点がわかりやすくなるよう今までの話から考えられることを箇条書きにします。
@ 活動銀河核において、鉄輝線は活動銀河核の放射領域本体のさらに外部の降着円盤の中から放射される。
A 鉄輝線は活動銀河核の重力作用により赤方偏移を示す。
B 鉄輝線の放射場所よりもさらに内部にある活動銀河核の放射領域本体は鉄輝線よりもさらに強い重力作用を受けるはずである。
C 鉄輝線が赤方偏移を示すなら活動銀河核の放射領域本体からの放射はさらに大きな赤方偏移を示すはずである。
D クェーサーは極狭い領域からエネルギーを放出しており、その放出の様式が上に述べたような活動銀河核からの放射と同じであるならば、その放射領域本体からの放射を直接観測している可能性が強いので固有の赤方偏移があるはずである。

 個々のクェーサーはそれぞれ固有の赤方偏移を持っていて、実際に観測される赤方偏移は固有の赤方偏移に宇宙論的赤方偏移を加えたものだ、という考え方がとんでもないものであるなら、「NATURE」にも掲載されたという上記の鉄輝線のお話もとんでもない考え方になってしまいます。クェーサーはそれぞれ固有の赤方偏移を持っているとするのが素直な考えではないでしょうか。
 その後この鉄輝線の変動の振る舞いが単純な「ブラックホール近傍での再放射」では説明できないとの意見を主張をする人もあり現在議論が行われているとの事ですが、少なくとも重力赤方偏移を引き起こすような場所に放射領域本体があるという考えがおかしなものでないことは確かでしょう。

 ここで私の考えをまとめて書いておくことにします。クェーサーを含む活動銀河核は中心にいわゆる「ブラックホール」と呼ばれている非常に質量の密集した重い部分(中心体と呼ぶことにします)が存在し、その周りを降着円盤が取り巻きそこから中心体に落ち込んでいくことにより重力エネルギーが熱エネルギーとなって周囲に放射していると考えられています。 活動銀河核の質量の大きさに差があったとしてもその放射機構にはほとんど差はないだろうと私は考えています。 しかし活動銀河はいろいろな種類に分類され観測上も個性があるように思われます。これは中心体の差ではなくその周囲を取り巻く銀河全体の状況による差であると思うのです。 おそらくクェーサーでは中心体を取り巻く母銀河にはあまり星やガスが存在しておらず、中心体付近の放射領域本体が直接露出して見える状態なのではないでしょうか。そうだとすれば当然重力により放射されるスペクトルは赤方偏移を示しそのクェーサー固有の赤方偏移を持つことになります。それゆえに遠くにしかないと誤解されます。中心体から離れた場所に星やガスがたくさんあり取り巻いていたらどうなるでしょうか。 放射領域本体からの放射はそれらにいったん吸収されあらためて放射されることになります。この時には強力な重力の影響は少なくなるので、クェーサーが示したような固有の赤方偏移はほとんど失われることになると思われます。このような中心体を取り巻く周囲の状況の差がいろいろな活動銀河の種類の差となって現れるのではないでしょうか。例えばセイファート銀河は我々の比較的近傍に存在するといわれていますが、このセイファート銀河には1型と2型があることが知られています。この違いは活動銀河核を見る方向による違いであり、中心の放射領域から離れた場所に存在する2種類の放射雲のうちの広輝線放射雲を見ている(1型セイファート)のか狭輝線放射雲を見ている(2型セイファート)のかの差であるといわれています(Fig.2)。この説明でもわかるようにセイファート銀河では中心の放射領域からの放射を直接見ているのではないので、ほとんど固有の赤方偏移をもっていないことになります。またクェーサーとセイファート銀河は本質的には同じであると考えられているようですが、違いはその光度(クェーサーのほうがより明るいとされている)とセイファート銀河では2型が多いのにクェーサーではほとんどが1型であることだそうです。クェーサーではより中心部を見ているはずですから1型が多いのは当然なのかもしれません。またクェーサーが固有の赤方偏移を持っているのであれば真の位置より遠くにあるとみなされるのですから光度がセイファートより明るいと思われるのも当然のことです。
 (この章において、ブラックホールとして扱っている天体は多くの宇宙物理学者が「ブラックホール」と呼んでいるような超高密度になった天体のことであり、ブラックホールの厳密な定義に合致した天体が存在すると私が認めたわけではありません。)

Fig.2 X線観測による「活動的銀河中心核」の解析」http://www.u.phys.nagoya-u.ac.jp/asca_html/agn.html より図を引用


☆相互作用銀河
 さてここで非常におもしろい文献を紹介しましょう。それは次のものです。
arXiv:astro-ph/0203466 v2 27 Mar 2002
Two emission line objects with z > 0.2 in the optical filament
apparently connecting the Seyfert galaxy NGC 7603 to its
companion
M. Lopez-Corredoira and Carlos M. Gutierrez
( http://arxiv.org/PS_cache/astro-ph/pdf/0203/0203466v2.pdf )


Fig.3  Two emission line objects with z > 0.2 in the optical filament apparently connecting the Seyfert galaxy NGC 7603 to its companion より引用

 Fig.3 を見ていただければ一目瞭然ですが、この文献によるとNGC7603とNGC7603Bは異なった赤方偏移を示す銀河であるにもかかわらずその二つはフィラメントによってつながれており、さらにそのフィラメント上に小さな発光している天体が2つ存在し、それらの4つの全てが異なった赤方偏移を持っているのです。 一見したところでは相互作用しあっているとしか見えない4つの天体ですが、その全てが異なった赤方偏移を持っているのですから、従来の考えではそれらは偶然に視線方向がそれらしい位置に一致したにすぎない、ということになるのです。(第8章 クエーサーについて を参照してください
 ところが驚くべきことには従来の主流の考えを完全に覆しているホームページがあるのです。 それはアメリカのNASA等によって運営されているスローン・ディジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)のホームページです。(このサーベイでは, 全天の4分の1にわたって1億個以上の天体の位置と明るさを測定して詳しい地図を作り、さらに100万個の銀河とクェーサーに対しては距離も測っています。)
 このホームページ上にびっくりするような記載があるのです。それを次に引用します。

SkyServer 有名な場所 - 相互作用銀河
(日本語 http://skyserver.nao.ac.jp/edr/jp/tools/places/page5.asp
英語 http://cas.sdss.org/dr5/en/tools/places/page5.asp)

Fig.4 SkyServer 有名な場所 - 相互作用銀河 より引用

「NGC 7603とPGC 7041。相互作用しています。二つの銀河の間をつなぐ橋ができています。明るい方の銀河NGC7603は有名なセイファート銀河です。セイファート銀河 は小さいがとても明るい中心核を持っています」
(PGC 7041 は先の文献 arXiv:astro-ph/0203466 v2 27 Mar 2002 ではNGC7603Bと記載しています)
 以上のように書いてあるのです。このホームページはアメリカのホームページと同じものを東京大学理学部の方々が日本語に翻訳しておられるようです。
今までの主流の人たちの考え方によればこれら4つの天体は全く異なった場所にあるのが、たまたま視線方向が一致し相互作用しているように見えるだけで、一切相互作用はしていないと主張するはずです。ところがSDSSは「相互作用しており二つの銀河の間をつなぐ橋ができている」と書いています。SDSSは主流の人たちの考えを完全に否定しているのです。これは本当にびっくりすべきことなのです。SDSSの方々は銀河やクェーサーの地球からの距離を測っている人たちです。地球からどのぐらいの距離にそれらの天体が位置するかということについてはプロ中のプロです。その人たちが赤方偏移の異なる銀河が相互作用をしていると断言しているのです。日本語に翻訳したホームページを管理する東京大学の著名な教授に「本当に相互作用しているのですか」とメールで尋ねたところ、論争になっていた銀河であることを認めた上で「本当に相互作用をしているかどうかは ”わからない”としか言えません。」と答えていただきました。そして上記の文献も紹介していただきました。(丁寧なご返事をいただきありがとうございました。実は私は既にその文献を読んでいて、それで更に調べるためにインターネット上でNGC7603を検索しSkyServer のホームページを知ったのでした。)
 東京大学の著名な教授は、赤方偏移は宇宙論的距離だけによるという主流の考えにも、赤方偏移が違っていても相互作用しあう銀河が存在するという考えのどちらにも加担しない立場をとっておられますが、「多くの頑迷な宇宙論学者の考えに盲従していく気はありません」という宣言をしたとも言えるような意見です。


☆クェーサーはどこにでもある
 また同じくSDSSによる観測の報告におもしろいものがありました。
Chandra Finds Well-Established Black Holes In Distant Quasars
 (http://chandra.harvard.edu/photo/2002/highzqso/index.html  )より 全文引用。

These three quasars, recently discovered at optical wavelengths by the Sloan Digital Sky Survey, are 13 billion light years from Earth, making them the most distant known quasars. The X-rays Chandra detected were emitted when the universe was only a billion years old, about 7 percent of the present age of the universe.
A surprising result was that the power output and other properties of these quasars are similar to less distant quasars. This indicates that the conditions around these quasars' central supermassive black holes must also be similar, contrary to some theoretical expectations. As astronomer Smita Mathur of Ohio State, who was involved in the research said, "Perhaps the most remarkable thing about them is that they are so absolutely unremarkable."
By various estimates, the supermassive black holes in these quasars weighed in at somewhere between one and 10 billion times the mass of the Sun. The implication is that the black holes put on a lot of weight soon after the galaxies formed.

この引用文によると、宇宙が生まれてからたったの10億年の場所に位置するクェーサーがそれよりもずっと近くにあるクェーサーとほとんど性質が変わらないとのことです。これは理論的予測に反することです。彼らの予測では宇宙の初期に生まれたクェーサーは宇宙の進化と共に姿を消してしまうのですから、その性質は彼らの考える宇宙の年齢とともに当然変わっていかなければならないのです。宇宙のごく初期と考えられている場所でも、それからかなり経った場所でもその性質が変わっていなかったのですから、クェーサーは宇宙のどこにでも普遍的に存在するはずです。
 クェーサーや一部の活動銀河は固有の赤方偏移を持っているという考えにある程度のご理解がいただけたでしょうか。NGC 7603 を報告した天文学者は更にその後私と同じようにクェーサーなどが固有の赤方偏移を持つ可能性を指摘しています( arXiv:astro-ph/0509630 v2 26 Sep 2005  http://arxiv.org/PS_cache/astro-ph/pdf/0509/0509630v2.pdf )。 実は観測をしている現場の人たちの間でもこのような考えは当たり前になりつつあるのでは、と私は思います。それをきっと言い出せないだけなのでしょう。もしかしたらこれは現代における「裸の王様」なのかもしれません。


☆宇宙の姿はどこも同じ

クェーサーに固有の重力赤方偏移があるならば、宇宙はその年齢によって姿を変えているというビッグバンを支持する間接的証拠が1つなくなることになります。ビッグバン宇宙では当然彼らの考える宇宙の初期と私たちの近傍で見られる宇宙の姿は異なったものでなければなりません。それが最近、より遠くの宇宙を観測した結果ではそのような考えを否定する事実が次々と発表されています。一部引用しましょう。

高感度赤外線撮像で捉えた最も深い宇宙
〜すばる望遠鏡が鮮明に写し出した遠方銀河の姿〜
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/info/ssdf.html
研究グループでは、得られた最も深い赤外線画像をもとに、遠方宇宙における銀河の個数密度を調べ結果、銀河の見かけの明るさに対する銀河の個数密度の増加率が、22等級より暗い最暗部において緩やかになることを明らかにした。この事から、遠方宇宙においても、銀河の個数密度は約100億年前と現在では大きく変わらず、この年代からの銀河は大きな衝突・合体を頻繁に行うことはなく静的に進化していったことが示された。さらにこれまでは、24等級より暗い所に、現在の銀河の種となるような小さい銀河や、近傍にある非常に暗い銀河の様な特異な銀河がたくさん存在する可能性が示唆されていたが、研究グループの観測結果により、これらのシナリオは棄却されることとなった。


初期宇宙に "りっぱな " 銀河?
【2005年10月13日 国立天文台 アストロ・トピックス(151)】
http://www.astroarts.co.jp/news/2005/10/13big-galaxy_nao151/index-j.shtml 
 http://www.nasa.gov/vision/universe/starsgalaxies/spitzer-20050927.html
誕生後8億年しかたっていない宇宙で、非常に重く、りっぱな銀河を発見したというニュースが届きました。誕生後8億年とは宇宙年齢の約5パーセントです。現在の宇宙を70歳の人間にたとえると、4歳のときということになります。それほど宇宙が幼かったときに、銀河系の約8倍もの質量をもつ星の大集団がすでに形成していたというのです。
ハッブル宇宙望遠鏡とスピッツァー宇宙望遠鏡がハッブル・ウルトラ・ディープ・フィールドに発見した「HUDF-JD2」銀河。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, B.Mobasher(Space Telescope Science Institute and the European Space Agency)
一般的に考えられている銀河形成のシナリオでは、小さな銀河が衝突合体を繰り返して、大きな銀河へと成長していきます。このシナリオでは銀河は徐々に成長します。ところが、今回の研究結果は、このシナリオでは説明できません。宇宙初期の段階ですでに重たい銀河ができていることを示しているからです。
研究は、アメリカ航空宇宙局(NASA)が打ち上げたハッブル宇宙望遠鏡とスピッツァー宇宙望遠鏡による観測データを合わせて行われました。ハッブル宇宙望遠鏡は可視光から近赤外線をとらえる望遠鏡です。一方、スピッツァー宇宙望遠鏡は赤外線をとらえる望遠鏡です。見つかった銀河はハッブル・ウルトラディープ・フィールドにあります。この領域は、可視光や近赤外でとらえた人類にとって最も遠い宇宙で、スピッツァー宇宙望遠鏡でも長時間かけて観測されています。
さて、見つかった銀河はハッブル宇宙望遠鏡の可視光の画像では見えませんが、近赤外の画像やヨーロッパ南天天文台のVLT(Very Large Telescope)に搭載された近赤外カメラの画像にはぼんやりと写っています。驚いたことに、スピッツァー宇宙望遠鏡の赤外線カメラ(IRAC:Infrared Array Camera)の画像にははっきりと写っていました。このような特徴を示す銀河は遠方位置している可能性があります。
距離をきちんと決めるには分光観測が必要です。しかし、この銀河は暗すぎて分光観測することができませんでした。そこで、異なる波長での明るさの違いを利用して距離を見積もるというテクニックが使われました。可視光から赤外までの撮像データがありますから、銀河が様々な波長でどのくらいの光を出しているのかがわかります。この明るさの比を使うと、距離を見積もることができるのです。また、IRACはハッブル宇宙望遠鏡のカメラよりも約5倍長い波長の光を観測します。すると、銀河の骨格を作っている、より古い星、より赤い星からの光を捕まえることができます。見かけの明るさがわかり、銀河までの距離がわかると、銀河にある星の総質量を概算することができます。 以上のような観測や解析から、宇宙初期にある大きな銀河で、しかも比較的古い星で構成されているという解釈がもっともデータをよく再現するという結果になりました。もちろん、分光していないので、近くの天体だという可能性もないわけではありません。導かれた距離とIRACでの明るさを使って、銀河の質量を見積もってみると銀河系の約8倍でした。
これは今日の宇宙でも大きな銀河として分類されるほどの重さです。それが、宇宙が生まれてからたった8億年で形成したというのですから驚きです。重い銀河が宇宙初期に短期間で形成したのですから、そこで起こった星形成は非常に活発だったでしょう。そこからのエネルギーはビッグバンの後に一度は冷えた宇宙を再加熱するのを手助けしたはずです。「国立天文台 アストロ・トピックス(146)」では、初期宇宙における銀河の個数が、一般的な理論モデルよりもずっと多く、銀河形成のシナリオは再考しなければならないかもしれないという話題を掲載しました。
今回の観測結果もまた、現在考えられている一般的な銀河形成のシナリオには沿わないことになります。スッピッツァー宇宙望遠鏡の観測では、銀河系と同じくらいの重さの銀河やもっと軽い銀河も誕生後10億年たっていない宇宙で見つかってきています。それらの銀河にも比較的古い星があるらしいということもわかってきました。新しい観測結果が次々と発表されるなかで、それらを説明できる銀河形成や進化の描像が求められています。

最近の深部宇宙の観測結果は特別に私が選択しなくとも、ほとんどの報告で近くの宇宙と遠くの宇宙に本質的な差異が認められなかったという結論です。本質的に全く異なっているという報告を見つけ出すことは困難です。これはビッグバン宇宙モデルに対して否定的な観測的事実と言えます。
たくさんありすぎるので残りはリンクだけを示します。(あなたが見られたときにはリンクが切れているかもしれません。しかしその時には更に新しい事実がインターネット上に発表されているでしょう。)
http://www.nao.ac.jp/nao_news/data/000624.html
http://www.journals.uchicago.edu/ApJ/journal/issues/ApJL/v586n2/17014/17014.web.pdf
http://www.astroarts.co.jp/news/2004/01/23filament/index-j.shtml
http://www.nasa.gov/centers/goddard/news/topstory/2004/0107filament.html
http://www.astroarts.co.jp/news/2004/12/03youngest_galaxy/index-j.shtml
http://hubblesite.org/newscenter/newsdesk/archive/releases/2004/35/text/

http://hubblesite.org/newscenter/newsdesk/archive/releases/2004/49/text/
http://www.astroarts.co.jp/news/2005/03/28early_universe/index-j.shtml
http://cfa-www.harvard.edu/press/pr0508.html
http://carnegieinstitution.org/news_releases/news_050310.html
http://www.astroarts.co.jp/news/2005/03/18matured_cluster/index-j.shtml
http://www.eso.org/outreach/press-rel/pr-2005/pr-04-05.html
http://www.astroarts.co.jp/news/2004/07/15old_massive_galaxies/index-j.shtml

http://www.eso.org/outreach/press-rel/pr-2004/pr-17-04.html
http://www.eso.org/outreach/press-rel/pr-2000/pr-25-00.html
http://www.eso.org/outreach/press-rel/pr-2005/pr-24-05.html
http://chandra.harvard.edu/photo/2002/highzqso/index.html
http://www.eso.org/outreach/press-rel/pr-2006/pr-26-06.html




☆クェーサーはやはり固有の赤方偏移を持つ
 (2006.8.11追加)

この章を発表した後クエーサーに関して非常に興味ある観測結果が発表されました。
( http://www.ucsc.edu/news_events/press_releases/text.asp?pid=909
 http://www.astroarts.co.jp/news/2006/08/07galaxy_absorption/index-j.shtml )
内容について簡単に説明しますと、
「15のガンマ線バーストの観測で視線上に銀河が存在したのは14とたいへん多かった。しかしSDSSによる50,000以上のクエーサーの観測データから予測される値は15のガンマ線バーストに対して3.8の銀河であった。クエーサーのデータからの予想よりも約4倍も視線上の銀河が多く説明がつかなくて困っている。」 というものです。
いろいろ原因を考えているようですが、それらでも説明がうまくつかないようです。しかしそれらの考察の中から不思議にも一番ありそうな原因が抜け落ちています。クエーサーの距離が赤方偏移で予想されるよりもずっと手前おおよそ1/4程度の距離にあると考えればすべてうまく説明できるはずです。距離はすべて赤方偏移によって決定しているでしょうから、クエーサーがもし固有の赤方偏移を持ち、そのために赤方偏移で予想される距離よりも実際には1/4の距離に位置するのであればその間に銀河が存在する数はやはり1/4となります。ガンマ線バーストの位置が正しく認識されておればクエーサーで予想される銀河の数よりも、その視線上には4倍の銀河が存在することになります。 どうしてこんな簡単に誰でも考えつきそうな理由を上げていないのでしょうか。 1つの可能性はクエーサーの位置が赤方偏移で予想されるより実際には手前にあることを示唆すると、主流派によって発表する機会を奪われると考えたのではないでしょうか。それでわざと隠して発表したのかもしれません。もしそうでなく本当に考えついていないとしたらあまりにもお粗末です。
クエーサーが固有の赤方偏移を持つということの重要な根拠として、この発表が今後認識されると私は考えます。

   

18  クェーサーについて再び考える