?? 実体経済ってなんなの ?


「経済白書」に出てくる

日本経済新聞は、戦後初めて3・4半期連続のマイナスになった「4−6月期の国内総生産(GDP)」(経済企画庁が9月12日に発表)について「実体経済の悪化の悪循環」と報じました。

朝日新聞は、中小企業の業況判断指数が過去最悪になった「9月の企業短期経済観測調査(短観)」(日本銀行が10月1日に発表)を「実態経済面での悪化が目立ち、景気が「底割れ」し兼ねない状況」と伝えています。

この「国内総生産」は「短観」の発表資料には「実体経済」という言葉は見当たりません。 あれこれと探しているうちに1998年度の「経済白書」(経済企画庁が7月17日に発表)の中にあるのを見つけました。

さっそく、経済企画庁の担当者に話を聞きに行きました。対応してくれたのは、同庁調査局内国調査第一課の総括補佐、増島稔氏です。
増島氏は「はっきりした定義ではないのでは……・」といいながら、「実態面と金融面の経済という分け方がありますから、金融に対する言葉が実体経済と思う」と説明します。そして、実体経済を示す統計としては、「実質的な国内総生産」をあげました。

もとは近代経済学の用語

国内総生産(GDP)の統計に出てくる個人消費や民間設備投資などが「実体経済」を表しているということはわかりました。

そこで、「国内総生産」などの政府統計のもとになっている「国民経済計算」(注)について詳しい、留都分科大学の川上則道(のりみち)教授にききました。

川上氏は「実体経済とは、現実経済を生産、消費などの実態面と、貨幣・金融面に分けたうえで、実体面を取り出すときに用いる言葉です。また、国内総生産はもともとケインズの流れを汲む近代経済学の用語ですが、一国の実体経済の総量を示しています」といいます。

国民経済計算では、付加価値の生産から所得が生まれ、消費になると考えるので、一国の生産と所得、支出(消費・投資)の三つの総額は同じと考えます。ですから、一国の実体経済の規模は、国内総生産=国内総所得=国内総支出で示されます。

また、貨幣・金融とは、お金の貸し借りの世界のことで、バブル経済をもたらすなどの独自の動きをします。一国の経済の実体面と金融面の接点は、国民経済計算の会計部門や企業部門など、部門間のアンバランス(差額)として現れるといいます。

一方、川上氏は「マルクス経済学(科学的社会主義の経済学)においても、実体経済を国内総生産で示すことは間違っていないと考えています。ただ、本当の生産ということをより厳密に分析している」と説明します。

科学的社会主義の経済学では、教育や医療などのサービス分野の活動は本当の生産ではなく、農業や工業などの生産の基礎の上にあると見ています。

需要拡大が回復のカギ

なんとなく「実体経済」の深い意味の一端がわかってきました。 「実体経済をあらわす国内総生産という言葉が近代経済学の用語なら、マルクスの「資本論」には実体経済や貨幣・金融のことは書いていないのですか」という質問も川上氏にぶつけてみました。

川上氏は「マルクスは「資本論」のいたるところで、実体経済と金融の関係を一体のものとして弁証法的に論じています。
ただ、実体経済の全体の運動については「資本論」第二巻の最後の方に出てくる再生産表式で明らかにされています。貨幣経済のことは第三巻の利子産み資本や架空資本、信用制度のところによく出てきます」と答えます。

いまの日本の不況は、実体経済では供給にたいして相対的に需要が少ない「需要不足」「過剰生産」が原因だと指摘する声が圧倒的です。

小渕内閣は発足以来、銀行への税金投入策という間違った金融政策ばかりを追求し、実体経済の悪化にたいして、何一つまともな手を打ってきませんでした。

「実体経済の回復は、個人消費などの需要を拡大するのがカギ。そのためにも消費購買力を刺激する消費税減税をしなければいけません」と川上氏。

経済学の勉強不足を痛感しながらも、消費税減税の重要な意義がいっそうわかった気持ちになりました。

(注)「国民経済計算」とは? 現行の国民経済計算(新SNA)は、1968年に国際連合から提唱され、日本は78年にこれに切り替えました。
この新SNAは、国民経済計算にかんする五勘定(国民所得勘定、産業関連表、資金循環 表、国民賃借対照表、国際収支表)を体系的、整合的に統合した統計です。
(経済企画庁・官房参事官等著「テキスト国民経済計算」)

1998年10月6日付「しんぶん赤旗」


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