有楽町帝撃通信局第十五話





長曽我部:皆様こんばんは、有楽町帝撃通信局、情報通信の時間がやって参りました。番組を運びます私は長曽我部崇、そして、
あやめ:皆様こんばんは、藤枝あやめでございます。よろしくお願いいたします。
長曽我部:おやまあ。「藤枝あやめでございます」だなんて、よく澄まして言えますよねえ……
あやめ:あら。
長曽我部:先週は途中で消えちゃったくせに。……とっても寂しかった……。
あやめ:さみしかった?
長曽我部:うん。
あやめ:ごめんなさいね。今日はちゃんと最後までいますから。
長曽我部:当たり前ですよ。で、あれからどこへ行ったんです?
あやめ:(明るい声で)どこって?別に、すぐに戻ったじゃありませんかか。
長曽我部:番組終了後にね。それに別にってことはないでしょう。あんなに緊迫した状況の中でいなくなっちゃったんだから。
あやめ:ですから、少しでもさくらさんの役に立てないかと……
長曽我部:無理に決まってるじゃないですか!あれから隅田川に駆けつけたって……
あやめ:だからすぐに戻ってきたんです。
長曽我部:そうかなあ……なんか変だなあ。あのあと隅田川では別の集団が現れて大立ち回りを演じたというし、空には巨大な飛行船も……
あやめ:ええ、ですからさくらさんたちも観客の方々も無事だったんですよ。
長曽我部:ならよかったんですけど……。すると、その別の集団というのが例の秘密部隊帝国華撃団とかいう……!
あやめ:そう、そうかもしれませんわね。そうですわよ、きっと。
長曽我部:すると、帝都の民を守るための……
あやめ:ええ、米田中将はそう仰ってましたわ。
長曽我部:ま、しかし……世の中の動きもおかしくなっているみたいだし、番組をお聞きになっている聴取者の方々も色々お知りになりたいでしょう。いったいなにがどうなっているのか。
あやめ:さてそこで、正義を伝える有楽町帝撃通信局としては、本日の情報通信の主題として、今までにお送りした中継放送の背景に何があったのか、またそこから予測される現象について予測しましょう。
長曽我部:なるほど。それでは情報通信に参りましょう。検証!魔物を追う!(BGMスタート)考えてみれば、番組が始まって以来魔物とは縁があるんですよね。
あやめ:ええ、縁があると言うより、帝撃通信局自体そうした情勢に対しての危機感から作られたんでしょう。当然と言えば当然ですわよね。
長曽我部:そうですね。正確な情報をお伝えするというのが発足に当たっての使命でした。しかし、その割には検閲が多くて……
ブッブー!
大河原:むやみに人心を攪乱することは当局の本意ではないっ!
長曽我部:……と、ま、そういうことなんでしょうが……。
あやめ:でも、かなりの部分が解ってきているんです。そこで今日は魔物評論家、軽戸安宅(かるとあたか)さんにお越し頂きましたので、今までの放送で流れた部分から読みとれることを解説していただきたいと考えております。軽戸さん、よろしくお願いいたします。
軽戸:いやっ、こちらこそ!よろしく。
長曽我部:軽戸さん、今までの放送でそんなに色々わかりますか?
軽戸:えー、いや、意外とわかるもんです。うんうんうんうん。
長曽我部:はあ、そうですか。では、早速ですがお願いいたしましょう。
あやめ:それでは今までの放送から、その抜粋短縮版をお聞き下さい。
軽戸:そーですねー。これは、私が指摘した部分をまとめていただいたものです。これを聞けば、いかに魔物が……いやー、悪の組織と言った方がいいかなー?それがはびこっているか、その触手を伸ばしているかがよーく解ると思いますよー。
長曽我部:ほー。そんなもんですか。放送している私たちには少しも解りませんが。ねえ。あやめさん。
あやめ:えー、ええ、まあ……。
軽戸:まあ、次に出てくるものは全てその影響下にあると言ってよいでしょう。
あやめ:はい、それでは聞くことに致しましょう。抜粋短縮版です。(ドドン!)藤井かすみ、ジェットコースターの停止。魔物の噂。

かすみ:あ、はい……藤井かすみです。どうしてわたしがこんなことをこんなことをしないといけないんでしょうね……(後ろにコースターに乗る人の歓声)

軽戸:コースターの故障は魔物に因るものであり、魔物の噂もそもそも魔物を操る組織が人心を動揺させるために流したものである!(ドドン!)
あやめ:情報通信より、神崎重工技術者大量失踪。

長曽我部:日本三大財閥の一つ、神崎財閥の系列会社の一つ、神崎重工の社員名簿から大量の技術者の名前が消えていることが判明しました。

軽戸:悪の組織が、戦力強化のために誘拐したものである。(ドドン!)
あやめ:(少し声がうわずる)神崎すみれ、花やしきから飛行船。チンピラ退治。

すみれ:ごめんあそばせ!てえいっ!(ドカッ!バキッ!)
チンピラ1:ぐええ!いてえ!
チンピラ2:どあああ!止めろお!


軽戸:ちまたにはびこるチンピラどもは、全て、悪の手先なのだ。花やしきから現れた飛行船も、悪の組織によって行われたものであり、死傷者が出なかったのが不思議なくらいだ。(ドドン!)
あやめ:ん……こほん。アイリス、帝都タワーで泣く。男に誘われる由里。

アイリス:ひゃあああ……!由里おねえちゃん、男を投げ飛ばしちゃったぁ……。……かっこいい……。
由里:もう、しつこいったらないの!ああ言うタイプって嫌いなのよ。


軽戸:誘った男は手先。アイリスが泣いたのはとても、可哀想。(ドドン!)
あやめ:(手短に)地下鉄で魔物情報。

民間人:ネズミより……二回りほど大きい奇怪な化け物でさ。……暗くて一瞬だったけど……見間違いじゃないと思うよ。

軽戸:地下鉄で魔物情報を与えた男は、もしかしたら……手先かも。
長曽我部:はあー、そうかあ。(ドドン!)
あやめ:こほん……!情報通信より、潜水艇爆発。

長曽我部:海軍潜水船隊、未曾有の大冒険として試みられた南洋五千マイルの遠洋航行に参加した潜水艇のうち、二つの艦が爆発を起こし死傷者十五名を出している模様。

軽戸:組織のスパイによるもの!(ドドン!)
あやめ:(再びうわずった声)マリア、深川で魔物二匹退治。

マリア:材木の影に何か……人。人です!誰!
民間人:う、わわー!ひえーっ!


軽戸:帝都の様子を探るために送ったものであり、ごく下っ端。……それにしてもマリアはよくやったー。私はファンになってしまったー。
長曽我部:私はファン一号と言っても良い。(ドドン!)
あやめ:(そそくさと)次、行ってよろしいですか。情報通信より、海底大地震。

長曽我部:大阪測候所の地震計が、太平洋の地下で稀にみる大きな地震を感じとりました。地震計の記録によると……

軽戸:いよいよ組織の力が活発になってきた。大地震は呪文によるもので、不可思議な力の恐ろしさを感じる。(ドドン!)
あやめ:(投げやり気味)紅蘭。大帝国大学、研究室爆発。

(マシンの稼働音)
紅蘭:ほないくでー!これでうまいこと揺れの原因がわかりますやろか。全員ゴーです。スイッチオン!
(長々と駆動音……そして当然のように爆発)


軽戸:大帝国大学に潜んだスパイが紅蘭の実験に合わせて仕組んだもの。紅蘭に失敗の責任を問うのは……はっはっは、お門違いである。
長曽我部:なるほどー、そういうことか(ドドン!)
あやめ:え゛ー……(投げやりに)すみれ、横浜で外人を投げ飛ばす。

外人:(聞き取り不能。軟派らしいことを言っているらしい。)
すみれ:いい加減になさい……たら……いい加減に、なさい!てえぃっっ!(どごん!)


軽戸:これを聞いたときはぞっとしたものだ。組織は外国人にまで手を伸ばしておるとはなぁ……。しかしさすがは神崎流の名取。よくぞ堪え忍び投げ飛ばしたものだ〜。
あやめ:(1オクターブ上の声)あの……、名取ではなくて免許皆伝では。(ドドン!)(棒読みで)検閲官、不法聴取者を摘発。悪の組織による電波妨害。

(ピンポーンピンポーン)
曽我部:あのー、有楽町帝撃通信局の者ですが。(物音)検閲官、いきましょう。
大河原:うむ。


軽戸:検閲官閣下直々の取り締まりとはいや、有り難いことで。これで一人の手下が、改心したと考えられる。(ドドン!)
あやめ:(もう疲れた)さくら、階段を落ちる。
長曽我部:あやめさん、真面目にやりなさい。

マリア:ひ、姫……!
さくら:あ、ああーーーーーっっ!(ドタンバタン!)
マリア:さくら!
紅蘭:さくらはん!
アイリス:さくらぁ!


軽戸:かわいそう……。怪我は、大丈夫だったかなぁ?(ドドン!)
あやめ:(えーかげんにしなさい)おおだこになぞのじんぶつ。すみだがわでのたたかい。
(効果音)
軽戸:こうして、ついにその姿を現しおった。いかがかな?。これほどまでだとは、考えもしなかっただろう。
あやめ:まあまたまたまた、(早口で)よくもまあこれほどまでに全てを組織のせいだとこじつけられるものですわね。まあわたくし考えもしませんでしたわ。
軽戸:こじつけ!?なーにがこじつけだと!?こりゃ、こりゃ、こりゃ、私のれーせーな分析の結果だと……!
長曽我部:わかっております。あやめさん、ゲストの先生にそんな失礼なことを……。
あやめ:……失礼。でもあんまりじゃありませんか。
長曽我部:そうですか。私にはとっても説得力がありました。真実味もありました。それに、まあかように帝都が緊迫しているものと考えれば……、……、そうですよねえ、検閲官の先生。
大河原:(ブッブー!)いかにも。多少の間違いには目をつぶることだ。
長曽我部:ね、先生もああ言ってらっしゃることだし……
あやめ:だって!真実の報道ってものが……!
長曽我部:ここはほら、その……あ、時間だ。それでは宣伝通信に続いて本日の特集です。……それにしても、どうしてあやめさんがこんなふうに怒るのかなあ。まるで、真実を知っているみたいな……
あやめ:あら……、わたくしはただ……。



有楽町帝撃通信記念館玄関に戻る。
大帝国劇場に戻る。
夢織時代への扉に戻る。