人々のざわめき賑やかなパーティー会場。 | |
長曽我部: | (緊張した声)わ、私は今、帝撃通信局の開局記念式典の会場に来ております。 さすがに、すごい人の数、顔ぶれですね・・・・。 ねぇ、このマイクほんとに聞こえてんの?間違いない?あやしいなあ・・・・。
お、音楽が流れる中、出席した皆さんに、お酒が・・・、お酒が振る舞われております。 |
司会者: | ナゥ、レディスエーンドジェントルメェン!皆さァん、帝撃通信局開局おめでとうございマース。 |
言葉と共に始まるジャズの調べ。続く拍手。 | |
司会者: | コングラチュレイショゥン!上海在住のジャズバンド、上海バーンスキングスの演奏ではじまりましたァ。 これからの時間は、少し砕けて楽しくやりましょうねィ。 それでも、けじめはけじめ。 最初は、各界を代表して、原総理に挨拶をしていただきましょうねィ。 原総理、カモオン、ステージへ! |
再び起こる拍手。 | |
長曽我部: | そ、総理の挨拶がこんなに間近に聞けるなんて、感激だなあ・・・。あ、いよいよです。 |
原総理: | 我が国も維新以来年月を重ね、今や太正十二年。 この帝撃通信局の開局、我が国始まって以来の快挙。 決定に至るまでの我が輩の指導力たるや、身を見張るものでありました。 この功たるや、大!そもそも我が輩は今日まで・・・・・・・・・、 |
司会者: | ハーイ、サンキュウー。長くなりそうですからして、この辺で。 総理のお祝いのお言葉でしたねィ。 |
長曽我部: | さすが総理のお言葉、貫禄というか風格というか・・・、 それよりあの司会者、何とかならないもんですかねぇ。 |
司会者: | もう一人、挨拶してもらいましょうねィ。 帝国歌劇団の設立や、この帝撃通信局の開局に誰よりもォ尽力されましたァ、 影の実力者、貴族院議員、花小路伯爵デース! |
長曽我部: | は、花小路伯爵・・・、今回は、私もお世話になっているんです・・・。 |
花小路: | いや、尽力と言うほどのこともしていないが、ま、簡単に挨拶を。帝撃通信局開局おめでとう。 しかし、これで喜んでおってはいかん。諸君らの苦労はこれから始まると言ってもよいだろう。 一方的に与えるばかりでは情報の欠落。帝都の民からの情報も的確に把握し、相互の信頼を増さねばならん。 民というものは、得てして流言飛語の類に踊らされるものであるからして、決してそのようなことの無いように努めて欲しい。 |
司会者: | 花小路伯爵、ドーモサンキュウでしたァ!。 |
わき起こる拍手。 | |
長曽我部: | (拍手にかき消されて、最初が聞き取れない) ・・・・相互の情報交換。何だか、すごい課題を与えられたようですよ、これは。 緊張します、実に緊張します。 |
ドラムから再びジャズミュージック。 |
司会者: | ハーイ、堅い挨拶はこれくらいにしまショウ。この音楽、ほほほほほ、心がうきうきしてきますねェ。 楽しくなってきたところで、帝撃通信局の目玉、メインの番組のキャスターを紹介しまショウ! |
長曽我部: | キャスター?キャスターって、棚? |
あやめ: | 違います、番組を運ぶ人、つまり、進行役です。 |
長曽我部: | 本当についてるねぇー。 |
あやめ: | はい? |
長曽我部: | 進行役、進行役と言ったら・・・、 |
司会者: | ハーイ、その人の名はァ、長曽我部崇ィ! |
長曽我部: | あ、わ、私だ・・・! |
司会者: | 長曽我部、ミスター長曽我部ェ! |
長曽我部: | は、はいっ!ここ、ここにいます! |
司会者: | ハーイ、カムヒヤァ、ん、おやおや?お隣にいらっしゃる美しい女性は、おお、貴女ですねェ。 何千人もの中から選ばれた、サブキャスターに選ばれた才色兼備のお嬢さん。 貴女も一緒にいらっしゃい、カモオン、ミスター長曽我部エンドミス藤枝、カモオン、ステージィ! |
会場中にわき起こる拍手。 | |
司会者: | ハーイ、ミスター長曽我部とミス藤枝、せっかくですものねェ、 ここからは、あなた方にマイクを渡しまショウ。バトンタッチねィ。 |
長曽我部: | は、はい、わかりました、不肖、この、長曽我部、崇、立派に、務めさせていただきましょう。 ね、藤枝さん。 |
あやめ: | はい、藤枝あやめでございます。 |
長曽我部: | はは・・・、なんか、結婚式のようですね・・・。 |
あやめ: | あ・・・ははは・・・、 |
長曽我部: | あ、いや、失礼いたしました。 それから、他にも力強い味方が参加してくれることになっているようですよ。 |
あやめ: | 帝国歌劇団花組のスタアの方々が、帝都各地に飛んで実況中継して下さるんです。 皆さん個性溢れる方々ですからね、いろんな角度から面白い取材をされることになるでしょうね。 楽しみですわ。それでは、ここで祝電をご披露いたしましょう。 あ、あら?お祝いの言葉を声で頂いていますよ。 |
長曽我部: | ほう、珍しいですなあ。録音盤でお祝いの言葉を贈るとは、 いや、帝撃通信局らしくて、なかなか洒落てます。 |
あやめ: | そうですね、では聞いてみましょう。 |
広井王子: | いやあ、有楽町帝撃通信局開局おめでとう。帝撃通信局。 これはねぇ、帝都百万のね、味方を持ってね、これでアメリカの放送局がね、全部壊れるよ。 うん、僕はもう、予言しておこう。 |
あやめ: | 今の声の主は、なんと、流行り物作家の広井王子様でした。 |
長曽我部: | 広井王子・・・、なんか、ばかっぽいですね。 |
あやめ: | ・・・・・・・・・・、あ、コホン。 |
長曽我部: | コホン、次行きましょう、次。 |
あやめ: | はい、次はこれです。 |
長曽我部: | はい、通信放送が我が国初なら、これも我が国初めて。 宣伝通信です。 |
ラベルの濃厚化粧液の宣伝通信。 |
琴の音で、さくらさくらの調べ。 | |
長曽我部: | こちらは再びお祝いの会場です。艶やかな演奏を前に、皆さん盛り上がっております。 さて、会場の皆さん、そしてこの通信放送をお聞きの皆さん。世紀の一瞬が参りました。 通信の威力はここまで来たのです。 |
あやめ: | なんと、地球の裏側の声が、今日この瞬間、同時に聞けるようになったのです。 |
長曽我部: | 今日のこの日を迎えるために、遙かアメリカはニューヨークのシティまで、 特派員として飛んでもらったその人の名は、真宮寺さくらさん。 |
ザーザーと雑音。 | |
さくら: | コ、コホン。こちらニューヨークの真宮寺さくらです。会場の長曽我部さん、藤枝さん。 私は今、地球の裏側、ニューヨークにいます。サクラ大戦有楽町帝撃通信局開局おめでとうございます。 こんな形で参加できてとても嬉しいです。私もスタジオにお伺いしたかったのですが・・・、 (ザザッ)あらっ?長曽我部さん?藤枝さん?聞こえますかー?もしもーし? |
長曽我部: | あ、真宮寺さん?真宮寺さーん! |
あやめ: | さくらさーん!さくらさん!あら・・・、駄目みたいですね。 |
長曽我部: | ト、ホ、ホ、楽しみにしていたのに、たったの一言だけとは。サクラちゃーん? |
あやめ: | はあ、仕方ないですね。何しろ初めてのことですから、声を聞けただけでも良しとしましょう。 ね? |
長曽我部: | では、次に参りましょう。会場内の人々の声です。 |
あやめ: | はーい、会場内には、長曽我部さんの弟分、そかべさんがいます。 |
そかべ: | それでは早速インタビューをしたいと思いますが、 まずは、花組、神崎すみれさんにインタビューしたいと思います。 |
すみれ: | あら、オッホホホホホ・・・・・・、 まず、このわたしに取材に来るなんて、お目が高いわ。 |
そかべ: | 恐縮でございます。舞台の方も前評判が非常に高いようですね。 |
すみれ: | もっちろんですわ。まあ、帝劇のトップスタア神崎すみれが一レポーターなんて悪い冗談ですけど、
サブキャスターがあやめさんじゃ、しょうがありませんわね。 あやめさん、お互い頑張りましょう。 |
そかべ: | 続きましては、マリア・タチバナさんですが、こんばんは。 |
マリア: | こんばんは。 |
そかべ: | お聞きしたところによると、男役でも影が非常にある、と・・・、 |
マリア: | いや、それはプライベートなことなので、ですから、やはり、 その点はあまり触れていただきたくないと、私は、思っていますけど。 |
そかべ: | ちなみに、ご趣味は? |
マリア: | 趣味ですか・・・、そうだな・・・、読書かな・・・。 |
長曽我部: | いやあ、ありがとう。あなた達の声を聞くと、何だかホッとしますなあ。 いやあ、いい。じつに、いい! |
あやめ: | 神崎さんとマリアさん。お二人は大帝国劇場での「椿姫の夕」に出演なさるんですね。 頑張ってくださーい。 |
そかべ: | えー、パーティー会場、こちらは、帝国歌劇団のアイリスちゃん、 可愛いお嬢さんがいらっしゃいますのでちょっと話を聞いてみます。どうも、はじめまして。 |
アイリス: | はじめまして、アイリスです。 |
そかべ: | 今回、レポーターとしてこのニュース番組に出ると言うことなんですが、意気込みを一言。 |
アイリス: | とっても、きんちょうしています。アイリス、レポーターなんてはじめてだから、 しっぱいしたらどーしよー、って、ちょっとしんぱい。 |
紅蘭: | 開局おめでとさんですー。李紅蘭でございますー。あー、緊張するわな。 |
そかべ: | 今回、花組の皆さん持ち回りで、 |
紅蘭: | ええ、 |
そかべ: | レポーターやることになるわけですけど、 |
紅蘭: | はい。 |
そかべ: | 意気込みのほどを。 |
紅蘭: | いや、うちもメカニックが大好きなんで、ラジオの通信技術というのがどういうものなんか、 間近で見ることが出来て、楽しみにしてます。 |
そかべ: | 桐島さん。 |
カンナ: | モグモグ・・・。 |
そかべ: | 桐島さん・・・、でしょ・・・? |
カンナ: | んぐぐぐげげ!吐いちまったじゃねえか、この野郎! |
そかべ: | コメントを・・・。 |
カンナ: | しょうがねえな。 あたいら帝劇の目と鼻の先にこんな放送局が出来ちまうとはな、まあ、びっくらこいた。 ま、とにかくおめでと。 |
そかべ: | ありがとうございます。以上です。 |
カンナ: | いやー、ここの飯がうまいのなんのって、あれ?出ちゃったのか? |
そかべ: | あの・・・・・・・・、本番中・・・・・・なんですけど・・・・・。 |
長曽我部: | はい、ありがとうございました。 |
あやめ: | 一緒に頑張りましょうね。 |
長曽我部: | うれしいなあ、おや、これはまたうれしい。実に嬉しい人々がお祝いに駆けつけて下さいましたよ。 なんと、大阪からのお客様ですよ。ご紹介しましょう。人気絶頂、漫才の代名詞とまで言われている、 エンタツ・アチャコのお二人です。 |
拍手。音楽と、それに続く漫才。しかし、途中で切れる。 | |
長曽我部: | おや?どうしたのかな。あ、これは、帝都のどこから過出ている中継の電波ですよ。 あ、みなさん、漫才を中断させて済みません。ところで、中継というと、 花組の人たちがやることになっているはずですが、みなさん、ここにいますよ? |
あやめ: | ええ、そこで今回は特別に、大帝国劇場の事務をなさっている、 藤井かすみさんに実況中継をお願いしているんです。 藤井さん?藤井かすみさん?聞こえますか?藤枝です。 |
長曽我部: | 事務の人・・・? |
あやめ: | 藤枝です。藤井さん?どうぞ! |
長曽我部: | ここでちょっと気分転換。素晴らしい音楽を聴いてみましょう。 |
BGM、花咲く乙女 | |
長曽我部: | ステージ上、素晴らしい歌声は、帝国歌劇団の主題歌の一つで、花咲く乙女。 |
あやめ: | 素敵ですねー。 |
長曽我部: | まったく、心が洗われるような気がします。この人たちと一緒に仕事が出来るなんて、 ほんとに幸せですよ。しばらく黙って聞きましょう。 |
一番が終わり、万雷の拍手。そして、静寂音。 | |
長曽我部: | おやおや?音楽が終わるとみんな帰ってしまいました。 広い会場がガランとして、さっきまでの賑やかさが嘘のよう。 何だか寂しくなってしまいます。 |
あやめ: | 本当。あたくしたちが喋っている声も反響反響反響して、 ・・・山彦みたい・・・。 |
長曽我部: | サーカスの夜が明けて、一陣の風に新聞紙が舞う。 何だか、そんなことを思い出してしまいましたよ。 |
あやめ: | あら、 |
長曽我部: | でも、まあ、今夜は開局記念の特別番組。藤枝さん。これからよろしくお願いいたしますよ。 |
あやめ: | こちらこそ。んー、長曽我部さんといると、とても楽しくて時間のたつのを忘れてしまいそう。 |
長曽我部: | ドキ。あらあら、そんなこと言って。 |
あやめ: | ま、 |
長曽我部: | それじゃ、これから仲良くやっていきましょう。 |
あやめ: | はい。 |
微かに響いてくる不思議な音。 | |
長曽我部: | おや?何でしょう、あの音。 |
あやめ: | ええ、どこから聞こえて来るのかしら。 |
長曽我部: | 不思議なこともあるもんです。何も起こらなきゃいいんだが。 |
あやめ: | ねえ、でも、あれは悪いことを予感させる音じゃありませんわ。きっと良いことの知らせですよ。 |
長曽我部: | そうです。私たちは正義を皆さんにお伝えするために選ばれて通信放送をしているんですからね。 きっといいことです。ほら、聞こえる。天界から聞こえてくるようだ・・・。 |
大きく響き渡る音色。そして消える。 |