長曽我部: | 有楽町帝撃通信局では帝都各所に通信中継基地を設けて、帝都の様々な現状を実況中継しております。 新年最初の今日は、 |
あやめ: | 新年にふさわしい方です。帝国歌劇団花組の新人スタア、 真宮寺さくらさんが、隅田川から実況中継して下さいます。 |
長曽我部: | さくらさん? |
あやめ: | ええ。 |
長曽我部: | シンデレラでは大変な熱演で、階段から落っこったりしたけど、かわいかったなあ。 そうですか、彼女の実況ですか。わくわくしますですよね。 |
あやめ: | そうですね。では呼んでみましょう。さくらさん?真宮寺さくらさん。 |
さくら: | はい、真宮寺さくらです。新年初めての実況をさせてもらえるなんて、とても光栄です。 今年もよろしくお願いします。 |
長曽我部: | いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。 ところで今日は、隅田川から何を中継してくれるんですか? |
さくら: | 実は今日、ここ隅田川、桜橋近くの河川敷では、畳十畳分もある大凧を揚げるんです。 |
長曽我部: | 大凧揚げですか。お正月には欠かせない行事ですね。 それならたくさんの人が集まっているでしょう? |
さくら: | はい、参加者以外にもこの凧揚げを一目見ようという人でいっぱい! |
長曽我部: | そうでしょう。縁起物ですから。それじゃよろしく。ね、さくらちゃん。 |
さくら: | はい、それではお話を伺ってみましょう、と思ったけど、男性ばっかりですね。 女性は、いないのかしら・・・? |
男1: | そんなことないよ、みんな結構アベックで来てるんだぜ。 |
さくら: | あら、でも女性の姿が見えないですよ。 |
男1: | それがさあ、聞いてくれよ姉ちゃん。あそこの大凧のところにいる男を見るなり、 |
男2: | そう、おいらのことほったらかして、そいつのことばっかり追っかけてんだよな。 |
男3: | なっさけないったらありゃしない!見なよ、あそこの人だかり。 |
男4: | みんなその男の周りに集まってんだぜ。許せねえよなぁ、まったく! |
男1: | けっ!でもよ、あんたみてえな可愛い娘と一緒にいられるなら、それもいいけど。 |
さくら: | あ・・・・、え・・・・、ま、ご冗談を・・・・。 あ、大凧を引っ張ろうと人が綱に集まっていますね。そろそろ凧揚げが始まるのでしょう。 それに、凧の周りには女性がいっぱい。 |
かけ声: | ハイィィィィイッ!ヨオォォォォォォッ!ヨイショォッ!ヨイショォッ! |
さくら: | あ、駆け出しました。凧が、大凧揚げが始まりました! ゆっくりゆっくり、大きな凧が揚がっていきます! 揚がっていきます!揚がっていきます!!すてきー・・・、 綺麗な青空に、昇り龍の描かれた凧が!長曽我部さん、あやめさん!聞こえますか?この歓声! |
あやめ: | 聞こえていますよ、すごい盛り上がりですね! |
長曽我部: | いやーまったく、凧揚げで浮かれ騒ぐとは・・・、 帝都の危機的状況はどうなってしまったんでしょうねえ。 いや・・・、やっぱりこの方がいいですね。 |
あやめ: | ははっ、ええ。 |
長曽我部: | 天下泰平。楽しいのが一番です。 |
あやめ: | はい。 |
長曽我部: | いいなあ。 |
さくら: | 龍が、紺碧の空を駆け上がっていきます!素晴らしい眺めです。 観客の皆さんも、ため息混じりに見つめています。 今年一年、この昇り龍のようにすてきな、素晴らしい一年でありますように・・・。 |
叉丹: | ふふはははははは!!はーーーーっはっはっはっはっ!! (以下、笑い声が背景に重なる) |
長曽我部: | な、何です!?この笑い声・・・? |
あやめ: | ま・・・、まさか! |
さくら: | ああっ!あれは!! |
あやめ: | どうしたの!?さくら、答えて! |
さくら: | 凧です、凧に人が・・・! |
長曽我部: | 凧に人・・・?まさか、石川五右衛門じゃあるまいし。 |
あやめ: | 冗談じゃありません!さくら、中継を続けて! |
さくら: | 何か喋っています・・・、はっ!?あいつは!! |
長曽我部: | な、なんです、さくらさん?凧に乗っている人のことを知っているんですか? |
さくら: | い・・・、いえ・・・。 |
叉丹: | ハハハハハ!帝都の愚民どもに告ぐ!やがて帝都は、我らの手に落ちるであろう。我らの手に!! |
長曽我部: | な、何でしょう?何を言っているんでしょうか? |
あやめ: | 黙って・・・! |
叉丹: | 怯えろ、怯えるがいい!泰平をむさぼる愚民ども!帝都は魔物によって支配される。 間もなく、そのときが来るのだ!おまえたちに勝ち目などない! お前たちは、我らの前にひれ伏し、許しを乞うのだ! 西洋文化に毒され、精神を蝕まれた愚かさを嘆くがいい! 間もなくだ、間もなくそのときが来る!はーーーっはっはっはっはっはっ!!! |
長曽我部: | 凧に乗って喋っているんですよね。糸、切っちゃえばいいのに・・・。 魔物が、どうしたって・・・。 |
あやめ: | やっぱり現れたのね・・・。 |
長曽我部: | 何です?あやめさん、何か知っているんですか・ |
あやめ: | あ、いえ、何でもありません・・・。 |
長曽我部: | なんで糸切らないんだ・・・? |
さくら: | ああっ!魔物です!鎧武者のような鉄の塊が、地面から湧き出しました!脇侍です! 観客が、観客が襲われています!仕方がない、私、戦います! | 幾重にも重なる剣撃の音。 |
長曽我部: | 魔物、脇侍・・・、な、何のことですか?一体どうなっちゃったんですか!? さくらさん!戦うって、あなた! |
あやめ: | しっ、黙って! |
さくら: | えいっ! やっ! ふっ! ええいっ! なんて数なの・・・・、えいっ! やっ! きりがないわ・・・。 あやめさん!魔物を操っているやつは、空高くにいます!翔鯨丸を出動させて! |
長曽我部: | 翔鯨丸・・・? |
あやめ: | 落ち着いて、さくら!すぐに帝撃に連絡をとるわ! |
長曽我部: | 帝劇?劇場に連絡してどうするんですか・・・? |
あやめ: | あなたは黙ってて・・・! |
長曽我部: | は、はい・・・。 |
さくら: | 駄目です!もう、もう中継は出来ません!やっ! |
叉丹: | はーーーーーーーーっはっはっはっはっ!泣け!喚け!逃げ惑うがいい! はーーーーーーーはっはっはっはっはっはっ!!!!! |
突如、静寂。 | |
長曽我部: | 音・・・、音が途絶えた・・・・。 |
あやめ: | 長曽我部さん、私、ちょっと席を外しますから、あとはよろしく・・・! |
長曽我部: | よろしくって・・・、あなた!どこ行くの!?・・・あ、行っちゃった・・・。 どうなって・・・?私には何がなにやら・・・・。 |
検閲音。 | |
大河原: | 緊急事態である!君一人で番組を終わらせたまえ! |
長曽我部: | は、はい・・・・、はい、 おわり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 あ、すみません。はい。じゃあ、 皆さん、帝都は揺れています。 まもの・・・、あ、すみません、帝都での魔物目撃情報をお待ちしております。 宛先は、郵便番号100-87、日本放送、有楽町帝撃通信局まで。 それじゃ、お相手は、長曽我部崇と、藤枝あやめ・・・、最後にいなくなっちゃったけど、でした。 人生相談箱も、そのうち特集でお送りしますからね。 それではまた来週、お耳にかかりましょう。 でもあやめさん、どこ行っちゃったんだろう? 何か・・・、危険なにおいが・・・・・・・・、 |
不安を覆い隠したいかのように、幾重にも重なる検閲音。 そして終わり。 |