思い出の有楽町帝撃通信局
夜会にて

 サクラ大戦帝撃通信局Fromお台場、第7話より

解説者: ここは、帝都某所。
瀟洒な洋館にはバイオリンの音が鳴り響き、宴もたけなわといったところであります。
ざわざわと人の話し声
男1: そろそろか・・・。
男2: そろそろだろう。
呼び出し: 神崎家御令嬢、神崎すみれ嬢、御到着ー。
男たち: おお、やはりすみれさんだ。
解説者: 夜会。それは上流階級の社交場。
人々はここで、洒落た会話とダンス、粋なカクテルなどで親睦を図るのであります。
飛び交う会話は政治談義から芸能界のゴシップまで。
誰と誰がくっついたの、離れたのと、うわさ話まで様々。
神崎すみれ嬢も、そんな渦の中にありました。
男1: すみれ様、今夜は一層お綺麗で。
すみれ まあ・・・、お上手ですこと。
男1: すみれ様。ダンスのお相手を。
すみれ 結構ですわね。でも、まだワルツですわ。私、最初に踊るのはマンボに決めていますの。
それまではカクテルを楽しみながら、皆さんの踊りを拝見いたしますわ。
男1: マンボ、ですか・・・。マンボなんて踊れる人いるのかな?
男2: いや、いないだろう。
男3: あ、僕は駄目だ。
男2: 同じく。
男1: まいったなあ・・・。では、せめてラストダンスを私と・・・。
すみれ あら、ラストダンスは特別な方と。そうじゃございませんこと?あなたは、私の特別な方かしら?
男1:そう、願えれば・・・。
すみれ まあ・・・、しょってらっしゃるのね。いいわ。その図々しさに免じて、考えてさしあげるわ。
男1: はあ・・・、考えるだけですか。
すみれ ええ、それだけでも、ずいぶん特別なのですわよ。おっほほほほほ・・・・・
解説者: いやはや。一体何人の青年貴族が言い寄るのでありましょう。
それを巧みにあしらう、見事なまでの淑女ぶりであります。
さすが、日本有数の財閥の一人娘、そして芸能界のスターにして、才媛。
さぞ、やっかみも多いでありましょうが。まあ、このような存在は、女性にとって永遠の夢でありましょう。
音楽が鳴り響く
解説者: 時間は進み、ダンスも最高潮。我らがすみれ嬢も、いつまでも壁の花でいるわけには参りませんが、
それでも、入れ替わり立ち替わり現れる青年貴族を断ってばかり。
密かに思いを寄せる殿方でもあるのでしょうか。
すみれ うんざり。この音楽、群がる殿方、とりとめのない話題。
どんなに大切にされても、この方たちの真心のない言葉は、私の心には空虚に響くばかり。
午後のひととき、帝劇のサロンでお茶を飲むあの気兼ねの無さは、ここには無いのですわ。
男1: すみれ様。どうなさいましたか?ふっふっふっ。
すみれ はぁっ!み!耳に息が・・・!息がかかる!止めてぇ!(ドンと突き飛ばす音)
おぉ、と走るどよめき
すみれ あら・・・、失礼いたしましたわ。少しぼうっとしていたものですから、驚いてしまって・・・、
そうだわ・・・、お詫びに一曲踊ってさしあげるわ・・・。
男1: ほう、それなら今の無礼を、許して上げてもいいかな?ただし、マンボではなく、タンゴ・・・!
すみれ タンゴ・・・。ええ、いいわ。
男1: よし、決まった。タンゴだ。情熱のタンゴ!
音楽が変わり響き渡る
男1: なんて上手なん、すみれさん・・・。それなのに、あまり踊らないなんて・・・。
すみれ あなたがお上手だから、私は、あなたのリードのままに・・・。
(ああ・・、この歯の浮くような言葉。とても私の口から出たとは思えない・・・。
ああっ、さみしい・・・。こんなに大勢の人がいて楽しそうに話したりしているのに、私は孤独・・・。
誰か、私を受け止めてくれる人はいないのかしら・・・。強く抱きしめて欲しい・・・。
決して解けない、愛の魔法をかけてくれる王子様はどこにいるのかしら・・・。
男1: 美しい・・・、なんて美しい・・・。そして悩ましげな瞳・・・。君は、君は僕の命・・・。ふっふっふ。
すみれ はぁっ!耳に・・・耳に息が・・・!やめてぇ!
ひゅー、と遠い音
ばたっ、という落下音
再びおぉ、というどよめき
すみれ ああ・・・、またやってしまった・・・。
男1: いた・・・たたた・・・。酷い・・・、一度ならず二度までも・・・。
すみれ おっほほほほほ・・・。仕方ありませんわね。ついつい神崎風塵流免許皆伝の腕前が出てしまいますのよ。
やはり、あなたでは私のお相手は無理なようですわね。それでは失礼いたしますわ。ごきげんよう。
男1: ああ・・・、開き直っちゃった・・・。
でも、あの気の強さが何とも言えないんだよなぁ。今度夜会であったら、また誘うぞ・・・。
すみれの退去を告げるかのように音楽。
解説者: やれやれ、懲りない面々でありますなあ。それでも毎夜毎夜、夜会は催されているのでありました。
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